過去最多の参加を得たCGGSⅣが閉幕しました。会合に参加したCG機関を地域ごとに紹介していきます。
ヨーロッパ編の概要
はじめに
これまでのふりかえり
世界海上保安機関長官級会合への参加国・不参加国を取り上げ、俯瞰するシリーズ第5回。
これまで、
アメリカ大陸、オセアニア、中東、アフリカのコーストガード機関をご紹介してきました。
これまでのシリーズで言及した国の数は22ヵ国。
・アメリカ大陸編…9ヵ国
(ジャマイカ、セントクリストファー・ネイビス、トリニダード・トバゴ、コスタリカ、セントビンセント・グレナディーン、コロンビア、エクアドル、チリ、ペルー)
・オセアニア編…4ヵ国
(ミクロネシア連邦・フィジー・ツバル・ソロモン諸島)
・中東編…5ヵ国
(バーレーン・トルコ・イラン・サウジアラビア・イエメン)
・アフリカ編…4ヵ国
(ジブチ・エジプト・ソマリア・セネガル)
これらの国々の中には、
皆さんにとって初めて国名を聞いた国もあったかもしれません。
これまでアメリカ大陸編から始めた旅も半分を過ぎ、改めて世界の広大さが感じられたことでしょう。
イメージの中の”ヨーロッパ”

さて。
今回から取り上げるヨーロッパは私たちにとってもお馴染みの地域です。
まず欧州と言えばイギリス・フランス・ドイツ・イタリア…などの国がすぐ頭に思い浮かぶことでしょう。
これらは日本・アメリカ・カナダとともに先進7か国首脳会議(G7)を構成する国々であり、政治経済上の結びつきも非常に強い関係にありますね。
また、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値観を共有しているのも大事な点です。
別の面では、
スペイン・ポルトガル・オランダは人気の観光旅行先であり、フィンランド・スウェーデン・ノルウェーなどの北欧の暮らしに憧れる人も多いはず。
ところで。
このように私たち日本人・日本とも馴染みが深いヨーロッパの国々ですが、その国の行政制度や治安維持機関については案外知られていません。
もちろん各国には政府があり、中央省庁があって、警察・消防そして陸海空の軍隊が存在するだろう…という想像はつくと思います。
実際これはその通りなのであって、おおむねイメージは間違っていません。
(軍隊が存在しない国もある。例:アイスランド)

しかし、
じゃあその国のコーストガード機関は?などと聞かれると、急に答えに詰まってしまうと思いませんか?
つまりここで私が言いたいのは、
比較的よく知っているヨーロッパについてさえ、やはりCG機関となると私たちが一般に想像できる範囲外ではないかということ。
考えてみれば、私たちは日本の警察・消防・自衛隊についてはそれなりに知識があり、その知識をある程度日本と均質な西欧諸国に投影して推測できるのです。
ところがCG機関の業務は多岐にわたり、しかも各国によって業務の範囲は様々であるため漠然としています。
そうしたこともあってか、
「ヨーロッパCG機関についてなんとなく知ってるけど、実は詳しくは知らない。」という中途半端な理解度にとどまってしまうのではないかと考えます。

そこで、
これまで大きく地域ごとに取り上げてきたCG機関について、今回からはより詳細に紹介していきます。
私たちがよく知っている国々をCG機関を通じて眺めてみたとき、はたしてどのようなヨーロッパ像が立ち上がってくるでしょうか。
それでは【CGGSで考えるCG機関の分布】シリーズ欧州編の始まりです☆
ヨーロッパCG機関の概要
ヨーロッパの範囲とCGGS参加国
まずは実際にこれまでCGGSに参加したヨーロッパのCG機関の概要を確認してみましょう。
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アルバニア沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | |||
| 2 | アゼルバイジャン 国家国境庁 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 3 | ベルギー沿岸警備隊 | 調整 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 4 | ボスニア・ヘルツェゴビナ 保安省 | 国境 | 〇 | |||
| 5 | ブルガリア国家国境警備庁 | 国境 | 〇 | |||
| 6 | クロアチア沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | |||
| 7 | キプロス共和国法務省 | 独立 | 〇 | |||
| 8 | デンマーク海軍 | 軍事 | 〇 | |||
| 9 | エストニア警察国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 10 | フィンランド国境警備隊 | 国境 | 〇 | |||
| 11 | フランス海洋事務総局 | 調整 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 12 | ジョージア沿岸警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 13 | ドイツ連邦警察 | 警察 | 〇 | 〇 | ||
| 14 | ギリシャ沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 15 | アイスランド沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 16 | アイルランド沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | |||
| 17 | イタリア沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 18 | ラトビア国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 19 | リトアニア国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 20 | マルタ国軍 | 軍事 | 〇 | 〇 | ||
| 21 | モナコ内務省警察局 | 警察 | 〇 | |||
| 22 | モンテネグロ 海上安全港湾管理局 | 独立 | 〇 | |||
| 23 | オランダ沿岸警備隊 | 調整 | 〇 | 〇 | ||
| 24 | ノルウェー 王立海軍沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | 〇 | ||
| 25 | ポーランド国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 26 | ポルトガル海事局 | 軍事 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 27 | ルーマニア国境警察 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 28 | ロシア連邦保安庁 国境警備局 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 29 | スロベニア海事局 | 独立 | 〇 | |||
| 30 | スペイン治安警察 海上業務隊 | 治安 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 31 | ウクライナ国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 32 | イギリス王立沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 |
| № | 国名+ CGGS参加機関名 | 組織 形態 | NATO 加盟年 | EU 加盟年 | CGGS 参加回数 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アルバニア 沿岸警備隊 | 軍事 | 2009年 | × | 1回 | 〇 | |||
| 2 | アゼルバイジャン 国家国境庁 | 国境 | × | × | 4回 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 3 | ベルギー 沿岸警備隊 | 調整 | 1949年 | 1958年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 4 | ボスニア・ヘルツェゴビナ 保安省 | 国境 | × | × | 1回 | 〇 | |||
| 5 | ブルガリア 国家国境警備庁 | 国境 | 2004年 | 2007年 | 1回 | 〇 | |||
| 6 | クロアチア 沿岸警備隊 | 軍事 | 2009年 | 2013年 | 1回 | 〇 | |||
| 7 | キプロス共和国 法務省 | 独立 | × | 2004年 | 1回 | 〇 | |||
| 8 | デンマーク 海軍 | 軍事 | 1949年 | 1973年 | 1回 | 〇 | |||
| 9 | エストニア 警察国境警備隊 | 国境 | 2004年 | 2004年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 10 | フィンランド 国境警備隊 | 国境 | 2023年 | 1995年 | 1回 | 〇 | |||
| 11 | フランス 海洋事務総局 | 調整 | 1949年 | 1958年 | 4回 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 12 | ジョージア 沿岸警備隊 | 国境 | × | × | 4回 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 13 | ドイツ 連邦警察 | 警察 | 1955年 1990年 | 1958年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 14 | ギリシャ 沿岸警備隊 | 独立 | 1952年 | 1981年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 15 | アイスランド 沿岸警備隊 | 独立 | 1949年 | × | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 16 | アイルランド 沿岸警備隊 | 独立 | × | 1973年 | 1回 | 〇 | |||
| 17 | イタリア 沿岸警備隊 | 軍事 | 1949年 | 1958年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 18 | ラトビア 国境警備隊 | 国境 | 2004年 | 2004年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 19 | リトアニア 国境警備隊 | 国境 | 2004年 | 2004年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 20 | マルタ 国軍 | 軍事 | × | 2004年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 21 | モナコ 内務省警察局 | 警察 | × | × | 1回 | 〇 | |||
| 22 | モンテネグロ 海上安全港湾管理局 | 独立 | 2017年 | × | 1回 | 〇 | |||
| 23 | オランダ 沿岸警備隊 | 調整 | 1949年 | 1958年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 24 | ノルウェー 王立海軍沿岸警備隊 | 軍事 | 1949年 | × | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 25 | ポーランド 国境警備隊 | 国境 | 1999年 | 2004年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 26 | ポルトガル 海事局 | 軍事 | 1949年 | 1986年 | 4回 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 27 | ルーマニア 国境警察 | 国境 | 2004年 | 2007年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 28 | ロシア連邦 保安庁国境警備局 | 国境 | × | × | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 29 | スロベニア 海事局 | 独立 | 2004年 | 2004年 | 1回 | 〇 | |||
| 30 | スペイン 治安警察海上業務隊 | 治安 | 1982年 | 1986年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 31 | ウクライナ 国境警備隊 | 国境 | × | × | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 32 | イギリス 王立沿岸警備隊 | 独立 | 1949年 | 1973年 2020年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| NATO 32ヵ国中 23ヵ国 | EU 27ヵ国中 21ヵ国 |

日本の外務省が定義するヨーロッパの国々は計54ヵ国。
大まかな範囲はユーラシア大陸の西:ポルトガルから、東のカザフスタン、ロシアまで。
北はデンマーク自治領グリーンランドやアイスランドなど、南はスペイン、イタリア、トルクメニスタンまでとなっています。
その内、32ヵ国が海に面している国で、残り22ヵ国が内陸国。
欧州内陸国…アゼルバイジャン、アルメニア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、アンドラ、オーストリア、北マケドニア、コソボ、サンマリノ、スイス、スロバキア、セルビア、チェコ、バチカン、ハンガリー、ベラルーシ、モルドバ、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク
ただし、世界最大の湖であるカスピ海の沿岸国として、ロシア、イラン(中東国)、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンの5ヵ国があります。
特にアゼルバイジャンは過去4回のCGGSにすべて参加しており、その意味では”カスピ海”も海と同様に扱ってよいかと思います。
以上をまとめると次のとおり。
・欧州の国々 …54ヵ国
・欧州の海洋国家 …32ヵ国
・欧州のカスピ海沿岸国…03ヵ国
(欧州海洋国家+欧州カスピ海沿岸国…35ヵ国)
・うち、CGGS参加国 …32ヵ国
逆に言えばスウェーデン、カザフスタン、トルクメニスタンを除くすべての国にCGGSへの参加実績があります。


右:カザフスタン共和国
カザフスタン、トルクメニスタンがCGGSに参加したことがないのは、海洋国家を中心とする会合にそこまでの必要性を感じていないためではないかと考えられます。
しかし、スウェーデンが一度も参加したことがないのはかなり意外です。
同国にはスウェーデン沿岸警備隊が存在し、バルト海やボスニア湾によって隣国と接しているので、イタリアで開催された第4回会合に参加していてもおかしくはないと思うのですが…。
今後、2027年インド開催予定の第5回会合には参加するのか注目です。
参加国の組織形態ごとの分類
改めて、第4回までのCGGSに参加したヨーロッパ諸国は32ヵ国。
これらを組織形態ごとにまとめてみると以下のとおりです。
《独立機関型CG機関》
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | キプロス共和国法務省 | 独立 | 〇 | |||
| 2 | ギリシャ沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 3 | アイスランド沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 4 | アイルランド沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | |||
| 5 | モンテネグロ 海上安全港湾管理局 | 独立 | 〇 | |||
| 6 | スロベニア海事局 | 独立 | 〇 | |||
| 7 | イギリス王立沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 |
《軍事機関傘下型CG機関》
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アルバニア沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | |||
| 2 | クロアチア沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | |||
| 3 | デンマーク海軍 | 軍事 | 〇 | |||
| 4 | イタリア沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 5 | マルタ国軍 | 軍事 | 〇 | 〇 | ||
| 6 | ノルウェー王立海軍 沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | 〇 | ||
| 7 | ポルトガル海事局 | 軍事 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
《警察機関傘下型CG機関》
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ドイツ連邦警察 | 警察 | 〇 | 〇 | ||
| 2 | モナコ内務省警察局 | 警察 | 〇 |
《調整機関型CG機関》
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ベルギー沿岸警備隊 | 調整 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 2 | フランス海洋事務総局 | 調整 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 3 | オランダ沿岸警備隊 | 調整 | 〇 | 〇 |
《国境警備機関傘下型CG機関》
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アゼルバイジャン 国家国境庁 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 2 | ボスニア・ヘルツェゴビナ 保安省 | 国境 | 〇 | |||
| 3 | ブルガリア国家国境警備庁 | 国境 | 〇 | |||
| 4 | エストニア警察国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 5 | フィンランド国境警備隊 | 国境 | 〇 | |||
| 6 | ジョージア沿岸警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 7 | ラトビア国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 8 | リトアニア国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 9 | ポーランド国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 10 | ルーマニア国境警察 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 11 | ロシア連邦保安庁 国境警備局 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 12 | ウクライナ国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 |
《治安機関傘下型CG機関》
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | スペイン治安警察 海上業務隊 | 治安 | 〇 | 〇 | 〇 |
《まとめ表》
| 組織形態 | 機関数 | 例 |
|---|---|---|
| 独立機関型 | 7 | ギリシャ、イギリス、アイスランド |
| 軍事機関 傘下型 | 7 | イタリア、ポルトガル、 デンマーク、ノルウェー |
| 警察機関 傘下型 | 2 | ドイツ、モナコ |
| 調整機関型 | 3 | フランス、オランダ、ベルギー |
| 国境警備機関 傘下型 | 12 | ロシア、ウクライナ、フィンランド、 エストニア、ラトビア、リトアニア |
| 治安機関 傘下型 | 1 | スペイン |
| 計32 | 日本外務省における欧州国家…54ヵ国 |

まず一見してわかるのは国境警備機関傘下型CG機関が多いこと。
旧ソビエト社会主義共和国連邦を構成していた15ヵ国の内、CGGSに参加した7ヵ国はすべて【国境型】です。
ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、ウズベキスタン、カザフスタン、ジョージア、アゼルバイジャン、リトアニア、モルドバ、ラトビア、キルギス、タジキスタン、アルメニア、トルクメニスタン、エストニア
その他、北から…
・フィンランド
・ポーランド
・ルーマニア
・ボスニア・ヘルツェゴビナ
(旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の構成国)
・ブルガリア
といった旧ソ連の影響を受けた北欧の国、東欧の国もやはり同様です。
後々、詳しく検討していく予定ですが、ソ連邦の中心存在だったロシアにおける組織形態が他の構成国や周辺国にも模倣された結果ではないかと私は推測します。
他方、
フランス、ベルギー、オランダは調整機関型CG機関型です。
また、ドイツからは連邦警察がCGGSに出席していますが、国内ではMaritime Sicherheitszentrum(マリティム・ジヒャーハイツゼントルム)が関係機関の船艇・航空機の運用を調整しています。

海上保安センター(日本語訳)
したがって、
実態としてはヨーロッパの調整機関型CG機関は計4つと数えてよいかと思われます。
その他、独立機関型と軍事機関傘下型はそれぞれ7つと、数の上では均衡しています。
そしてスペインのみが治安機関傘下型であり、他地域で同種に分類されるのは中国海警局しかありません。

この組織形態の類似はアジア地域における中国海警局を考察する際に、一つの参考になるものと思われます。
以上、
改めてヨーロッパ全体を眺めてみると、国境警備機関傘下型への偏差が見受けられるものの、それ以外の組織形態も様々存在することが確認できます。
ところで、
しばしばアメリカ沿岸警備隊や中国海警局を意識してか、「いわゆるコーストガードは軍事機関ないしは準軍事機関であるのが世界的には普通。」との意見が示されることがあります。
しかし、
多くの日本人が想定しているであろう“世界”、すなわち北米とアジア、欧州地域において軍事機関傘下型が一般的であるとまでは言えません。
ヨーロッパにおいては、
旧ソ連の影響を受けた(受けざるを得なかった)国に国境警備機関傘下型が多い…というのがせいぜいだと私は考えます。
加えて、そもそも準軍事機関とは何か?という定義の問題も残されています。
実際に各国の国境警備隊の性格は陸軍の歩兵部隊に近いものから、一般警察に近いものまで多様である点は過去の【中東編】で触れたとおりです。

いずれにせよ、
「世界ではこれが常識だ。」
「諸外国では〇〇なのが標準だ。」などと断定的に語る論説には注意が必要です。
むしろ漠然と共有されているイメージをもって語るのではなく、具体的に一つ一つの事柄を検証していく努力こそが重要ではないでしょうか。
…ということで、
これまで地域ごとに大まかに見てきたCG機関を、今回からはより詳細にご紹介していきます。
その第一弾はCGGSⅣの共同議長国となったイタリア共和国のイタリア沿岸警備隊について。
日本の海上保安庁とは異なり、海軍傘下の機関であることが大きな特徴です。
はたして両機関は何が違って何が同じなのか?
日本とイタリアとを対比させながら読んでみてください。
イタリアの地理と歴史

イタリアの地理
本題に入る前にまずはイタリアの全体像を押さえておきましょう。
イタリア共和国は地中海に突き出した南欧の国。
“長靴”に例えられる半島の東にアドリア海、西にリグリア海とティレニア海、南にイオニア海という小海域が広がっています。
そして首都ローマの対岸に浮かぶサルデーニャ島と、”長靴”のつま先にあるシチリア島。
ちなみにサルデーニャ島の北にあるコルシカ島(コルス島)はフランスの領土であり、ナポレオン1世の出生地として知られています。
一方、
国土の北側にはアルプス山脈がそびえ、そこにスイスとオーストリアとの山岳国境が引かれています。
その他、
西にフランス、東にスロベニアと陸上国境で接しているのがイタリア共和国です。
イタリアの歴史
そもそも、
地中海(伊:マル・ミディティラーネオ)は「大地の真ん中の海」を意味するラテン語由来の言葉。
ヨーロッパ圏・アジア圏・アフリカ圏を結ぶ地中海交易が古くからここで行われてきました。
古代ローマ帝国の繁栄と衰退の後、イタリア領域は複数の小国に分裂し、各地の都市国家が独自の発展を遂げます。
その間、
・十字軍の遠征(11~13世紀)、
・ルネサンス(14~16世紀)、
・大航海時代(15世紀半ば~17世紀半ば)
…などの歴史的な紆余曲折を経た後、
北西部の都市トリノを中心とするサルデーニャ王国が他地域を取り込む形でイタリア王国(レーニョ・デイターリア)が建国されました。
時に1861年(万延2年)3月17日。
日本では第14代将軍徳川家茂の治世、前年の安政7年/万延元年に桜田門外の変が起こった頃のこと。
アメリカでは南北戦争が勃発した年であり、エイブラハム・リンカーンが同年3月4日に大統領に就任。
そして国内統一を進めたイタリア王国においてヴィットーリオ・エマヌエーレ2世が初代国王として即位しました。
その次の次、
第3代国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の下では、ベニート・ムッソリーニによるファシスト政権が誕生。
第二次世界大戦を経て、
国民投票により王制を廃止して共和制へ移行し、現在のイタリア共和国(レプッブリカ・イタリアーナ)が成立しています。
それが1946年(昭和21年)6月2日のこと、今では共和国の建国記念日となっているのです。
国家元首・中央省庁・軍事機構
イタリアでは王制を廃止した代わりに、間接選挙で選ばれた大統領が国家元首となります。
そして、閣僚評議会(内閣)の長として首相が政府の政策全般を指揮し、実質的に国内を統治しています。(イタリア憲法第95条)


右:ジョルジャ・メローニ首相
イタリア共和国憲法
イタリア共和国上院 – 上院出版物
第87条
共和国大統領は、国家元首であり、国家統一を代表する。(中略)軍隊を指揮し、法律に基づいて設置される国防最高会議の議長を務める。また両院から決定された戦争状態の宣言を行う。
第89条
共和国大統領のいかなる行為も、提議し、責任を持つ大臣の副署が無ければ、効力を持たない。法律としての効力を持つ行為および、法律で定められたその他の行為は、首相の副署も必要とする。
第90条
共和国大統領は、自らの職務行使においてなされた行為に責任を有さない。ただし、国家反逆又は憲法侵害はその限りではない。
前項ただし書きの行為の場合、国会合同会議の絶対多数により弾劾される。
※当該条文はイタリア共和国上院が出版した日本語版(PDF)を参考とした。ただし、内閣総理大臣を「首相」と翻訳し、その他読みやすさを考慮して一部改変している。
2026年8月現在、イタリア政府は大統領府や首相府の他に15の中央省庁によって構成されています。
・内務省
・外務省
・国防省
・経済財政省
・農業・食糧・林業省
・インフラ運輸省
・環境・エネルギー安全保障省
・文化省…など。
この内、
内務省が警察行政と消防行政を所管。
・国家警察(ポリツィア・ディ・スタート)
・国家消防隊(コルポ・ナツィオナーレ・デイ・ヴィジリ・デル・フオコ)



右:国家消防隊の紋章
経済財政省には財務警察(グアルディア・ディ・フィナンツァ)が置かれ、先ほどの一般警察とは別の警察機構として機能しています。


一方、
国防省(ミニステロ・デラ・ディフェーザ)は4つの軍種を統制しています。
・陸軍(エゼルチート・イタリアーノ)
・海軍(マリーナ・ミリターレ)
・空軍(アエロナウティカ・ミリターレ)
・憲兵隊(アルマ・デイ・カラビニエリ)



右:イタリア海軍


右:イタリア憲兵隊(カラビニエリ)
なお、
2026年6月2日は80周年の節目となる共和国建国記念日でした。
参考として、
マッタレッラ大統領がヴィットーリオ・エマヌエーレ2世記念堂において、無名戦士の記念碑に月桂冠を捧げる様子をご覧ください。
4分ほどの動画ですが、実に様々な儀礼服を着た兵士たちを垣間見ることができます。
そして荘厳な記念堂と相まって、イタリアという国の歴史と文化の厚みが感じられることでしょう。
≪参考動画≫
私のわかる範囲で解説しておくと…。
大統領を出迎える高身長の男性がグイード・クロセット国防大臣。
音楽を演奏するのは陸軍音楽隊(Banda dell’Esercito)で、最初に流れるのは国歌 “マメーリの賛歌”(通称)です。
白いスーツの女性がメローニ首相。
甲冑姿の兵士は憲兵隊の儀仗部隊コラッツィエリで、大統領警護などの任務に就いています。
その他、セーラー服姿の海軍兵士も確認できます。
動画最後でローマ市街上空を鮮やかな三色のスモークで彩るのは空軍の曲技飛行隊フレッチェ・トリコローリです。
イタリア軍の組織構造
先に説明したようにイタリアの国家元首は大統領であり、憲法87条によって形式上最高の軍事指揮権を有しています。
実質的には閣僚評議会(内閣)の議長である首相に権限があり、その下に国防大臣(文民)が国防省・イタリア軍を統括。
その国防大臣を補佐する存在として、国防参謀長(カポ・ディ・スタート・マッジョーレ・デッラ・ディフェーザ)が置かれ、イタリア軍人トップの地位にあります。
さらにその下に陸軍・海軍・空軍それぞれの参謀長と憲兵隊総司令官が従属しています。

それぞれの軍種は各参謀本部と総司令部によって統制されており、イタリア沿岸警備隊は海軍傘下の機関という位置づけにあります。
参考として日本の防衛体制と比較すると次のとおりです。
| イタリア軍 | 日本自衛隊 | |
|---|---|---|
| 国家元首 | 大統領 | 法律上の定めはない |
| 行政府の長 | 首相 | 内閣総理大臣 |
| 国防行政の長 | 国防大臣 (国防省) | 防衛大臣 (防衛省) |
| 国防参謀長 (国防参謀本部) | 統合幕僚長 (統合幕僚監部) | |
| 海軍参謀長 (海軍参謀本部) | 海上幕僚長 (海上幕僚監部) |
イタリア沿岸警備隊の正式名称と先行研究
それではいよいよイタリア沿岸警備隊について本格的にご紹介していきましょう。
Corpo delle Capitanerie di Porto – Guardia Costiera(伊)
Italian Coast Guard(英)
イタリア沿岸警備隊



まず始めにイタリア沿岸警備隊(ITCG)のことはイタリア語で、
Corpo delle Capitanerie di Porto
Guardia Costiera
コルポ・デッレ・カピタネリエ・ディ・ポルト
グアルディア・コスティエラ
…と言います。これを英語に直訳すると、
Corps of the Port Captaincies
Coast Guard
コープス・オブ・ザ・ポート・キャプテンシーズ
コースト・ガード
…となります。
すなわち、
“コルポ・デッレ・カピタネリエ・ディ・ポルト”が国家機構としての本来の公称。
“グアルディア・コスティエラ”は船艇・航空機を運用する実働部隊としての側面を表現した名称です。
これら2つはロゴマークなどで必ず併記されますが、一般的にはグアルディア・コスティエラの方がよく用いられているようです。

ここで悩ましい点は“Corpo delle Capitanerie di Porto”を2026年直近において公式に日本語訳した文献が見当たらないこと。
(ご存知の方はご教示願います)
日本における先行研究は存在するものの、20年以上前の文献です。
《先行研究》
①1998年(平成10年)3月発行
海上保安大学校『海保大研究報告第43巻』第2号p102-120
廣瀬肇(海保大行政管理学講座教授:当時)「イタリアの海上保安制度」
“Capitanerie di Porto”→「港湾管理局」
②1999年(平成11年)3月発行
(財)海上保安協会『平成10年度 国際的海上保安業務の推進事業報告書』
下江旭(協会常務理事:当時)「先進諸国海上保安体制調査(フランス・イタリア)」
“Comandante Generale del Corpo dell Capitan”→「港湾監督事務総司令部」→正しくは「港湾監督事務総司令官」と訳されるべきだが文献上そのように記述されている。
そもそもITCGの『年次報告書』英語版では単に”the Coast Guard”との表現、あるいは”Maritime Authorities”(マリタイム・オーソリティーズ=海事当局)という意訳表現になっています。
ただし、
一般的にキャプテン・オブ・ザ・ポートと言えば港における船舶の出入りを監督する者を指す言葉。
日本の
『海上保安庁法』第21条、
『港則法』第4条ほかにおける“港長“の英語訳もまさにこれとなっています。

『港則法事務取扱規程』第8条より
昭和24年1月27日付海上保安庁達第7号
したがって本サイトでは“Corpo delle Capitanerie di Porto”を先行研究の表現に倣い、港長事務をつかさどる公的部署として【港湾監督団】と翻訳したいと思います。
【参考】日本の港長行政についてはこちら↓
海軍における位置づけと海軍階級
次にイタリア海軍内におけるITCGの位置づけを見ていきましょう。
イタリア軍事法典
Codice dell’ordinamento militare第1巻 組織及び機能 ‐ 第4編 国防行政 ‐ 第3章 海軍
第2節 港湾監督団
第132条
【港湾監督団の設置及び軍事的機能】
1.港湾監督団は、第118条に基づきイタリア海軍に従属し、その枠組みの中で以下の権限を行使する。…2010年3月15日立法令第66号 – ノルマッティーバ(イタリア政府法令データベース)
Art. 132
【Istituzione e funzioni militari del Corpo delle capitanerie di porto】
1.Il Corpo delle capitanerie di porto dipende dalla Marina militare, ai sensi dell’articolo 118 ed esercita, in tale ambito, le seguenti competenze:
まず港湾監督団はイタリア海軍の管轄下に置かれることが規定されています。
≪イタリア海軍 組織機構図≫

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が必要部分を日本語訳した
原典:『2024年における軍規及び組織現状報告書』pdf版p18
そして港湾監督団すなわちITCGを率いる長官は、
“Comandante generale del Corpo delle capitanerie di porto”(コマンダンテ・ジェネラーレ・デル・コルポ・デッレ・カピタネリエ・ディ・ポルト)と言います。
上掲の機構図の通り、
ITCG長官は海軍参謀長(カポ・ディ・スタト・マッジョーレ・デッラ・マリーナ・ミリターレ)に直属する立場です。


右:セルジオ・リアルドITCG長官(中将)
特徴的なのは、
ITCGは海軍の主要部門である作戦部・兵站部・訓練部とは一線を画していること。
また、海軍参謀長(特任中将=大将に相当する階級)の下で艦隊司令官・兵站司令官・学校司令官と並んでITCG長官も海軍中将相当の階級をもって充てられています。
それではちょっとここでイタリア海軍の階級制度を確認しておきましょう。
| 階級 | イタリア海軍 | イタリア沿岸警備隊 | 海上自衛隊 |
|---|---|---|---|
| 大将 | Ammiraglio アミラーリョ | 統合幕僚長たる海将 統合司令官たる海将 | |
| 特任 中将 | Ammiraglio di squadra con incarichi speciali アミラーリョ・ディ・スクアドラ・ コン・インカリキ・スペチャーリ | 海上幕僚長たる海将 | |
| 中将 | Ammiraglio di squadra アミラーリョ・ディ・スクアドラ | Ammiraglio Ispettore Capo アミラーリョ・イスペトーレ・カポ | 海将 |
| 少将 | Ammiraglio di divisione アミラーリョ・ディ・ディヴィジオーネ | Ammiraglio Ispettore アミラーリョ・イスペトーレ | 海将補 |
| 准将 | Contrammiraglio コントラミラーリョ | Contrammiraglio | |
| 大佐 | Capitano di Vascello カピターノ・ディ・ヴァッシェロ | Capitano di Vascello | 1等海佐 |
| 中佐 | Capitano di Fregata カピターノ・ディ・フレガータ | Capitano di Fregata | 2等海佐 |
| 少佐 | Capitano di Corvetta カピターノ・ディ・コルベッタ | Capitano di Corvetta | 3等海佐 |
| 大尉 | Tenente di Vascello テネンテ・ディ・ヴァッシェロ | Tenente di Vascello | 1等海尉 |
| 中尉 | Sottotenente di Vascello ソットテネンテ・ディ・ヴァッシェロ | Sottotenente di Vascello | 2等海尉 |
| 少尉 | Guardiamarina グアルディアマリーナ | Guardiamarina | 3等海尉 |
そもそもITCG職員は海軍軍人であり、基本的に海軍と同一の階級を有しています。
ただし、長官と副長官の階級についてはITCG独自のものとなっており、アドミラル・インスペクターとでも英訳される名称です。

将官階級の肩章・袖章
これは私の考察ですが、
他の艦隊司令官・兵站司令官・学校司令官に対する階級【アミラーリョ・ディ・スクアドラ】は直訳すれば“艦隊提督”というほどの意味かと思います。
一方、
【アミラーリョ・イスペトーレ・カポ】は“主任提督執行官”とでも直訳することができます。
両者は同等の中将たる地位ですが、ニュアンスの違いを階級名称からも感じられるかと思います。
イタリア軍事法典
第133条【港湾監督団長官】
1.港湾監督団の長は、国防大臣の提案に基づき、国防参謀総長およびインフラ運輸大臣と協議の上、閣僚評議会の決議を経て、共和国大統領の布告により、港湾監督団の正規士官のうち、アミラーリョ・イスペトーレ(少将)の階級を有する者の中から任命される。3.港湾監督団長官は、部門の長として、部門における技術的・軍事的側面に関して海軍参謀長に従う。
2010年3月15日立法令第66号 – ノルマッティーバ
その長官人事は、
国防大臣が国防参謀長とインフラ運輸大臣との協議の上で、閣僚評議会(閣議)に提案し決定。
さらに長官は船艇・航空機などの技術的側面や軍事的側面については海軍参謀長に直属しています。
ITCG
なお、
イタリア軍の階級構成は日本の自衛隊に比較的似ており、4つの軍種を束ねる国防参謀総長の他、陸海空軍の長のみが【大将】に相当する階級です。
話を元に戻すと、
そもそもITCG士官となるにはリヴォルノ海軍兵学校(士官学校)に入校し、本科において5年間の修学期間を経なければなりません。
まず基礎教育期間である3年間の終了時点で進路を選択。
その後2年間の港湾監督団コースにて法学に関する専門教育を受けて、最終的には法学修士号まで取得します。
すなわち海軍軍人としての土台の上に、法執行官としての人材育成が行われているのです。
≪参考動画≫
ここで重要なのはITCGは海軍機構の一部であるということ。
言い換えると、
国防省や国防参謀本部といった統括管理組織への直属ではなく、自ら艦艇や軍用航空機などの実働勢力を有する組織たるイタリア海軍、その一部機関なのです。
従ってイタリア沿岸警備隊は独立機関型CG機関ではなく、軍事機関傘下型CG機関だと言うことができます。
実際に、
ITCGには大きく4つの軍事的任務が与えられています。
イタリア軍事法典 第132条第2項
a)国家防衛の確保
b)国際平和と安全保障の実現
c)航海用刊行物に関する国立地図作製機関(海軍水路研究所)への支援
d)規則に定められた海上要員、港湾、軍事施設、商船の防衛に関する軍事任務、および海軍に割り当てられたその他の任務の遂行
こうした軍事的任務の詳細については後述することとして、ひとまずITCGの軍事的位置づけを正確に理解しておく必要があります。
運輸インフラ省における位置づけ
さて。
ITCGは海軍の一部であることは明確ですが、話はそう単純ではありません。
その活動実態を見てみると、単に軍事機関の範疇にとどまらない広範な業務を担っているためです。
ITCG公式HPで紹介されている業務内容からいくつかを抽出すると次のとおり。
①海難救助
②自国船舶及び外国船舶に対する検査
③海上・港湾における治安維持活動
④小型船舶操縦免許の認定
⑤海洋環境の保護
⑥漁業資源の監督
⑦海上交通の保護
⑧港湾の指揮・保安
⑨海洋レジャーに関する規制・監督
それ以外にも特殊なものとして、
・海上交通警察活動
・違法薬物対策
・不法移民対策
・水中文化財の保護
…が挙げられています。
こうした業務の根拠は『イタリア軍事法典』第134条~第137条に規定されています。
第134条
インフラ運輸省の管轄下における職務の遂行
第135条
環境・国土・海洋省の管轄下における職務の遂行
→環境・エネルギー安全保障省に省名変更
第136条
農業・食糧・林業省の管轄下における職務の遂行
つまりITCGは国防省-海軍の傘下にあると同時に、他の一般行政省庁の管轄下においても業務を実施しているのです。
そこで省庁側の組織機構図を参照しながら、一般行政機構としてのITCGの位置づけを確認していきます。
まずは最も密接に結びついているインフラ運輸省における業務について。
インフラ運輸省
≪組織機構図≫

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が日本語訳した
特徴①所在地
インフラ運輸省は日本の国土交通省に相当する省庁です。
そしてインフラ運輸大臣の下にITCG本部たる総司令部(コマンド・ジェネラーレ)が設置されています。
ただし、総司令部はインフラ運輸省の本庁舎ではなく分庁舎に入居。


この分庁舎は首都ローマの郊外に所在しており、国防省や海軍参謀本部とも異なる場所をITCGが拠点としていることが一つの特徴と言えるでしょう。
・ITCG総司令部
ラツィオ州ローマ県ローマ
エウル地区芸術大通り16番地
・インフラ運輸省本庁舎
ラツィオ州ローマ県ローマ
ノメンタナ通り2番地
・国防省
ラツィオ州ローマ県ローマ
9月20日通り8番地バラッキーニ宮殿
・海軍参謀本部
ラツィオ州ローマ県ローマ
マリーナ広場4番地マリーナ宮殿
≪ITCG関係機関位置図≫

特徴②業務概要
イタリア軍事法典
2010年3月15日立法令第66号 – ノルマッティーバ
第134条
【インフラ運輸省の管轄下における職務の遂行】
1.港湾監督団-沿岸警備隊は、以下の職務を遂行する。
a) 法律その他の規定によりインフラ運輸省に直接帰属する事項に関する、当該省の管轄下における権限の行使。
b) インフラ運輸省の運輸・航海・情報統計システム担当局が管轄する分野において、共同管理システムの下で割り当てられた業務の遂行。
ITCGは省の内部部局の一つである【運輸航行局】の管轄の範囲内で、11の業務を担当しています。
≪インフラ運輸省におけるITCG業務≫
抄訳
①海難救助調整センター(MRCC)としての海上捜索救助
②船舶交通サービス(Vessel Traffic Services)
③欧州海事ワンストップサービス環境の調整
④航行安全および海上輸送分野における権限行使
⑤国内外の関係機関との連携
⑥海事関係者への訓練および教育訓練機関の認証
⑦海事部署の活動、組織、および検査の調整
⑧海事利用者のための技術的規則の策定
⑨沿岸警備隊員の配置、および海事関連部署における人員配置の承認
⑩沿岸警備隊員の専門的訓練および関連資格の発行
⑪船舶及び港湾施設の保安に関する運用の監督および管理
出典:インフラ運輸省HP
根拠法令:『2023年10月30日付政令第186号』第14条
(当該インフラ運輸省設置令の第4章において規定されている。)
以上の11項目を日本の国土交通省海事局および海上保安庁に当てはめてみると、おおよそ以下の通りとなります。
| 海上保安庁に 類似する業務 | 両者にまたがる 業務 | 国交省海事局に 類似する業務 |
|---|---|---|
| ①MRCCとしての 海上捜索救助 | ||
| ②船舶交通サービス | ||
| ④航行安全および 海上輸送分野における権限行使 | ||
| ⑤国内外の関係機関との連携 | ||
| ⑥海事関係者への訓練および 教育訓練機関の認証 | ||
| ⑦海事部署の活動、組織、 および検査の調整 | ||
| ⑧海事利用者のための 技術的規則の策定 | ||
| ⑨沿岸警備隊員の配置、 および海事関連部署における 人員配置の承認 | ||
| ⑩沿岸警備隊員の専門的訓練 および関連資格の発行 | ||
| ⑪船舶及び港湾施設の保安 に関する運用の監督および管理 |
ITCGはまず海難救助調整センター(Maritime Rescue Coordination Centre)の業務を筆頭に挙げています。
“海難救助調整センター(MRCC)”とはSAR条約(1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約)に基づいて、締約国内に設置することになっている海難通報部署のこと。
その統一的呼称が”MRCC”であり、具体的な部署の名称は各国で異なります。
イタリアの場合は【Centro Operativo Nazionale della Guardia Costiera】(チェントロ・オペラティボ・ナツィオナーレ・デッラ・グアルディア・コスティエラ)と言い、端的に「沿岸警備隊オペレーションセンター」と翻訳できます。

ITCG公式フェイスブックより
日本の場合、
海保本庁および管区本部の警備救難部に設置された【運用司令センター】がこの業務を担当。
中枢司令拠点からの指示に基づいて自組織の船艇・航空機が派遣されるのは、日本もイタリアも共通しています。
次に船舶交通サービス(Vessel Traffic Services)は、特定の海域または港湾区域内を航行する船舶に対して必要な交通管制・情報提供を行う業務のこと。
こちらも日本では海上保安庁の海上交通センターなどで実施しています。
その一方、
「海事関係者への訓練および教育訓練機関の認証」に含まれる船舶免許や船員教育機関に関する行政は国土交通省海事局の所掌となっています。

ITCG公式Xより
この点ではITCGは海上保安庁よりも一般行政機関としての色合いが濃いと評価できるでしょう。
環境・エネルギー安全保障省
環境・エネルギー安全保障省
≪組織機構図≫

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が適宜日本語訳した
イタリア軍事法典
2010年3月15日立法令第66号 – ノルマッティーバ
第135条
【環境・国土・海洋省の管轄下における職務の遂行】
1.港湾監督団-沿岸警備隊は、1986年7月8日法律第349号第8条及び1994年1月28日法律第84号第3条の規定に基づき、海洋及び沿岸環境の保護に関する監視及び管理の職務を遂行するため、環境・国土・海洋保護省の管轄下に置かれる。
→管理人注:2022年11月4日、環境・エネルギー安全保障省に省名変更。
≪特徴≫
環境・エネルギー安全保障省は日本の環境省と経済産業省・資源エネルギー庁に相当する省庁です。
内部部局の一つに総務・計画・自然遺産局があり、その下に【生物多様性・海洋保護部】が置かれています。
2名体制となっている同部の部長職の一人はITCG職員(少将)が務めているのが特徴です。
具体的な業務をいくつか抽出すると次のとおり。
・陸上、海上、港湾における廃棄物処理過程の監視
・船舶からの大気汚染物質の排出の監視
・マルポール条約その他の国際条約およびEU法に基づく海洋環境の監視と保護
・有害物質による汚染の防止、海上および港湾地域の環境安全の促進
日本の海上保安庁でも『海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律』を環境省と共管しており、海洋環境の保護は主要な業務の一つです。
しかし、私が調べた限り環境省:水・大気環境局 海洋環境課などの管理職に海上保安官が就任した例は見当たりませんでした。
こうした人事配置の点から言えば、ITCGは海上保安庁よりも深く環境行政機構に組み込まれていると評価できます。
農業・食糧・林業省
農業・食糧・林業省
≪組織機構図≫

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が日本語訳した
イタリア軍事法典
2010年3月15日立法令第66号 – ノルマッティーバ
第136条
【農業・食糧・林業省の管轄下における職務の遂行】
1.港湾監督団-沿岸警備隊は、2004年5月26日付政令第153号に基づき、海洋漁業分野における委任された職務を遂行するため、農業・食糧・林業省の管轄下に置かれる。
≪特徴≫
農業・食糧・林業省は日本の農林水産省・林野庁・水産庁に相当する省庁です。
大臣に直属する形で【港湾監督団漁政部】が置かれ、同部長職はITCG職員(大佐)が務めています。
さらにその下に置かれる3つの課の課長職もITCG士官で占められているのが特徴。
他方、
内部部局の一つに水産行政を所管する【海洋漁業・養殖部】がありますが、これとは別にITCGが同省に組み込まれているのです。
そして、
そもそもITCG総司令部が【国家漁業管理センター】としての機能を担っており、漁業監督取締りの中枢機関を兼ねる存在。
したがって【港湾監督団漁政部】はITCGと農業・食糧・林業省とを結ぶ中継オフィスといった立ち位置となります。
≪業務内容≫一部抜粋
・違法漁業対策に関する監視・管理活動等の実施に関する技術支援
・国家漁業管理センターとの連携
・違法漁業対策に関する統計データの収集
・海洋漁業および養殖業の保護、水産物の市場拡大の啓発活動
以上の機構図に見られる組織的特徴に加えて、ユニークな点があります。
それはITCG本部たる総司令部(コマンド・ジェネラーレ)がインフラ運輸省の分庁舎に所在していること。
司法警察権について
・ITCG本部住所
ローマ市エウル地区 芸術大通り16番地
・インフラ運輸省本庁舎住所
ローマ市ノメンタナ通り2番地
・国防省住所
ローマ市9月20日通り8番地バラッキーニ宮殿
・海軍参謀本部
ローマ市マリーナ広場4番地マリーナ宮殿
第1章「複数」のイタリア ― 都市国家のいま
和田忠彦編『世界文化シリーズ5 イタリア文化55のキーワード』p2 ミネルヴァ書房2015,4,30 執筆:土肥秀行部分
並列し分散する権力
…イタリアの権力構造は分散型であるといえる。
憲兵隊(いわゆる「カラビニエーリ」、軍に属する)と警察(内務省管轄)というほぼ同じ機能をもつ公共の治安維持組織の併存も、実にイタリアらしい。それぞれが異なる経緯をもつため打ち消し合わず、また国家の側からも取捨できない。効率性や経済性よりも、長年培われてきたアイデンティティの保護に重きがおかれている証である。長い歴史があって、その重みがのしかかる国の仕組みは複雑で、ときに不可解である。それなりの秩序はあるものの。
Prefazione dell’Autore | Attività di polizia marittima e giudiziaria
検証例①イタリア海軍機構図
その意味で軍事機関傘下型CG機関に分類することができます。
そんなジブチには【ジブチ沿岸警備隊】が存在し、海軍・国家憲兵隊・警察とは異なる実働勢力としてDCGは機能しています。
・インフラ設備省→ジブチ沿岸警備隊
・国防省→ジブチ海軍
・国防省→ジブチ国家憲兵隊
・内務省→ジブチ国家警察
すなわちDCGは典型的な独立機関型CG機関であり、特に上部機関が運輸行政を担当する省庁である点で海上保安庁と似ています。



さらにその業務内容についても、海保と共通しています。
・海上法執行
・領海の保安・監視
・違法漁業及び密輸・違法取引の取り締まり
・海洋汚染対策
・海賊対策や不法移民対策
・捜索救助
ただし、船舶の航行安全業務については実施していないようです。
海上保安庁とDCGの関係
ところで、
自衛隊に限らず、海上保安庁もまたジブチに深く関わっていることはあまり知られていません。
しかし海上保安庁は10年以上も前からDCGに対して支援を続けているのです。
そもそも、DCGが設立されたのは2010年(平成22年)12月4日のこと。
当時の設備運輸省の傘下として置かれ、実質的な活動は翌2011年7月から開始されました。
ただし当初は全長11mの小型船舶(海保では監視取締艇のサイズ)が3隻あるのみ。
悪化する海上治安に対応困難であったことから、日本政府に対して巡視艇2隻の無償供与の要請があったことがきっかけです。(2013年5月)
そして、これに対して2015年に20m型巡視艇2隻(CL型に相当)をジブチに供与しています。

P-05 KHOR ANGAR(コール・アンガール)
P-06 DAMERJOG(ダメルジョグ)
さらに2024年にも30m型巡視艇2隻(PC型に相当)を供与。
4隻はいずれも墨田川造船(株)で建造され、船体設計は海上保安庁の巡視艇をベースとしています。
船体の色こそ灰色ですが、形状が似ていることがわかるでしょうか…?


また、巡視艇というハード面のみならず、それを運用するためのソフト面=人材育成への支援も続けられています。




以上のように、
ジブチに対する海上保安分野の支援は人的・物的両面にわたり、私が見る限りそれはアフリカ諸国の中でも最も手厚いものだと言えます。
そしてこれに呼応するように、DCGは過去3回の海上保安機関長官級会合にすべて参加しています。(アフリカ地域では他にナイジェリアのみ)


岩波長官(当時)とボゴレ長官

岩波 元長官とボゴレ長官
加えて、
DCGのフェイスブックには、岩波秀一:第45代長官とボゴレ長官が並んで写っている写真が残っており、両機関トップ同士の深い親交も感じることができます。
《参考文献》
①『ジブチ国 海上保安能力向上のための巡視艇建造計画準備調査報告書』
・2014年(平成26年)4月発行
・2013年(平成25年)9月30日~10月14日にかけての現地調査、12月12日~18日にかけての現地説明にもとづく報告書。
②『ジブチ共和国 海上保安能力向上計画準備調査報告書』
・2021年(令和3年)10月発行
・2020年9月~2021年1月にかけての遠隔調査、2021年2月17日~3月22日にかけての現地調査、8月25日~9月4日にかけての現地説明にもとづく報告書。

イエメン・ジブチの過去と現在
それでは改めてなぜ海上保安庁=日本政府はジブチに対して支援を続けているのでしょうか?
その理由はやはり同地の海賊を原因とするもの。
話は2009年(平成21年)に日本政府が海上警備行動を発令した頃にまでさかのぼります。
同年3月に護衛艦さみだれ・さざなみの2隻が派遣され、海上自衛官約200名とともに8名の海上保安官が現地に向かいました。
それに続けて4月~5月、イエメン共和国に海上保安能力向上等準備調査団が派遣されています。
その結果として、イエメン沿岸警備隊に35m型巡視艇の供与が計画されていたことは前回ご紹介したとおり。
ただし、2014年にイエメン内戦が勃発したことにより、この計画は中断されたままです。
その一方で、ジブチ共和国では2010年にジブチ沿岸警備隊が設立。
2013年に日本への巡視艇供与の要請があり、その結果2隻が引渡されたのが2015年のことでした。


右:ジブチ向け20m型
| 年 | 日 本 | イエメン | ジブチ |
|---|---|---|---|
| 2009年 H21年 | 海賊対処護衛艦を派遣 イに第1回調査団を派遣 海賊対処法施行 | ||
| 2010年 H22年 | イに第2回調査団を派遣 | 巡視艇計画が進む | DCG設立 |
| 2011年 H23年 | 東日本大震災 グアナバラ号事件、 海賊を逮捕起訴 | イエメン騒乱勃発、 フーシ派台頭始まる | DCG本格活動開始 自衛隊基地開所 |
| 2012年 H24年 | 在ジブチ日本国大使館 開設 | ||
| 2013年 H25年 | ジに第1回調査団を派遣 | 日本に巡視艇を要請 | |
| 2014年 H26年 | フーシ派、 首都サヌア掌握 | ||
| 2015年 H27年 | 多国籍海上部隊 CTF-151司令官に 海上自衛官が就任 | ハーディー政権派、 アデン市を 臨時首都とする | 日本から最初の 巡視艇2隻を受領 |
ここからは私の推論となりますが、
本来の計画はイエメン・ジブチ両国に巡視艇を供与することで、海賊を両岸から鎮圧することだったと思われます。

何故なら護衛艦・航空機の派遣は海賊対策に一定の効果を上げるものの、それは根本的な対策ではないからです。
むしろ究極の理想は海賊が出没しないことであり、仮に出没しても沿岸国の警察力によって鎮圧されることではないでしょうか。
そうすれば、多くの自衛隊員・海上保安官が日本に家族を残してこの地に派遣される必要がなくなります。
なによりこの海域を日本船舶のみならず、あらゆる国の船舶が安全に航行することができます。
それゆえに、イエメンとジブチ両国の海上法執行能力の向上を図ることを日本政府は企図していたものと推測されます。
しかし残念ながらその計画は片翼を失ってしまったため、結果としてジブチの重要度が高まったと考察できます。
以上、
海外支援の意義を再確認するとともに、日本・ジブチ両国の絆が世界の海運の安定に寄与することを願ってやみません。


DON DU PEUPLE JAPONAIS COMME SYMBOLE
DE L’AMITIÉ DE LA COOPÉRATION ENTRE
LE JAPON ET DJIBOUTI 2024
“日本とジブチの友好と協力の象徴として
日本国民からの贈り物 2024″
エジプト・アラブ共和国
| № | 参加機関名 | 参加機関 所属組織 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アルジェリア海軍 沿岸警備局 | 海軍司令部 国防省 | 〇 | 〇 | |
| 2 | ベナン海軍 | 〇 | |||
| 3 | カメルーン海軍 | 〇 | |||
| 4 | エジプト海軍 | 〇 | |||
| 5 | マダガスカル海軍 | 国防省及び 統合軍本部 | 〇 | 〇 | |
| 6 | セーシェル国防軍 沿岸警備隊 | 大統領室 国防省 | 〇 | 〇 |
エジプトとスエズ運河
Egyptian Navy
エジプト海軍
https://www.mod.gov.eg/ModWebSite/



エジプト・アラブ共和国はアフリカ大陸北東部に位置する国。
西にリビア、南にスーダン、東にイスラエルと陸上国境を接し、さらに地中海を隔てて北にトルコと面しています。
エジプトと言えばまずピラミッド、スフィンクスというイメージですが、現代的な視点ではスエズ運河が通る要衝の地。
スエズ運河は紅海側のスエズ市と、地中海側のポートサイド市を結ぶ国際運河として有名です。

さらにこのスエズ運河は1888年(明治21年)の通称『スエズ運河の自由航行に関する条約』(コンスタンティノープル条約)によって各国の自由航行が保障されています。
1888年10月29日にコンスタンティノープルで調印されたスエズ海水運河の自由な航行を尊重する、イギリス、ドイツ、オーストリア・ハンガリー、スペイン、フランス、イタリア、オランダ、ロシア、トルコの間の条約
第1条
スエズ運河庁 – Constantinople Convention
スエズ海水運河は、国旗の区別なくすべての商船及び軍艦に対し、平時においても戦時においても、常に自由であり、且つ、開放される。よつて締約国は、平時においても戦時においても、運河の自由な使用をいかなる方法をもつても阻害しないことを約束する。運河は、絶対に封鎖権の行使に服せしめられることはない。
注:条文邦訳は外務省条約局『多数国間条約集』下巻,1966.1による。
補足:制定当時エジプトはオスマン・トルコ帝国の支配下にあったため、条約締結国に名を連ねていない。
また、原則として平時・戦時、非交戦国・交戦国の如何を問わず、運河は開放され続けることが約束されています。
とは言いながら、
条約第10条では「エジプト国の防衛及び公の秩序の維持を確保するために、必要に応じて執るべき措置を妨げるものではない。」とも規定されています。
これにより実際にスエズ運河は今まで何度か通行不能となりました。
国際的に重要な航路であるがゆえに歴史的な紆余曲折を経たスエズ運河ですが、今日ではエジプト政府からある程度独立した【スエズ運河庁】によって管理されています。

スエズ運河庁は通行料を徴収する一方、中立的な立場から運河の利用を各国に保障している、というのが現状です。
エジプト海軍について その1
さて、
そんなエジプトからはエジプト海軍がCGGSⅢに初めて参加しました。
そもそも同国はアフリカ最大の軍事大国でもあり、陸軍だけでも31万人を擁する一大組織。
そして海軍では人員1万8500人、艦船隻数は145隻を誇り、加えてコーストガード勢力として48隻があるとみられています。
(人員については外務省HPに引用された『ミリタリーバランス2024』より)
(艦船については世界の艦船増刊『世界の海軍2024-2025』p39より)
ただし、
海軍の中における業務の位置づけや内容については、いま一つ明らかではありません。
というのもエジプト公式HPに情報が掲載されておらず、海軍機構に関する一次情報を得ることができないため。
一方で、ウィキペディアには“Egyptian Coast Guard”の項目があり、インターネット上でのニュース記事も散見されます。
とりあえず海軍の中に沿岸警備部隊は存在するものの、組織としての対外的な独立性は薄いようです。
以上を踏まえて、
最近のエジプト軍公式Facebookから、それらしき船艇と職員の情報を拾ってみると…。
欧州連合、エジプトにSAR-1700捜索救難艇を納入
2025年4月15日エジプト、欧州連合、国際移住機関(IOM)の共同協力プログラムの一環として、エジプト海軍はSAR-1700級捜索救難艇3隻を受領しました。これらの艇にはエジプト国旗が掲揚され、最新の世界基準に沿った兵器システムと戦闘効率の大幅な技術的飛躍を遂げたエジプト海軍への就役を記念しました。
(中略)
SAR-1700捜索救助艇は、捜索救助分野における最新鋭のユニットの一つであり、エジプト海軍にとって貴重な戦力となります。 https://www.facebook.com/EgyArmySpox/posts/pfbid09aaA5pEAphQ6W3KhbwUxqAWikiB7BqT9XGZ4kVpijQsq4q5iB79mUbdFNUNzKgy5l
海軍は紅海沿岸で大量の麻薬密輸の試み阻止に成功した
(2025年3月10日)様々な戦略的方向で国家の国境を確保し、保護する作業を強化するための軍総司令部の指令の実施、およびすべてのエジプト沿岸に対する安全保障管理を強化するための海軍の努力の継続において、紅海基地の海軍部隊の一つは、南方艦隊の管轄内で大量の麻薬を密輸する試みに立ち向かうことに成功した。(後略)
https://www.facebook.com/EgyArmySpox/posts/pfbid025sKSYNPKQx8WdcrDnSidcjvwrSxLz3c3FEcR9piaX5p7UfVB2kBFu5wBzsELejXQl
このように純軍事的な任務以外にも、エジプト海軍は海難救助や法執行に従事することが窺えます。
エジプト海軍について その2
しかし、
これ以上の情報が得られないため、少し迂回した情報を参考とすることにします。
実は前回の中東編でトルコ沿岸警備隊を調べている際、興味深い文献を見つけました↓
世界のコーストガード機関(WORLD COAST GUARD AGENCY)
【序文】
内務省 沿岸警備隊司令部 – 書籍
この本は、世界の沿岸警備隊組織に関する情報を提供し、その中での我が国の沿岸警備隊の地位をより深く理解し、認識と文化水準を高めることを目的として作成された。
作製:トルコ沿岸警備隊司令部 2013年5月
上掲したのはトルコ沿岸警備隊が2013年に発行した『世界のコーストガード機関』という、各国組織の概要を紹介した書籍。(海上保安庁の記事もあり)
その中からエジプト沿岸警備隊の記事を引用することとします。
(以下はトルコ語原文をgoogle翻訳により日本語化した画像)



あくまで今から10年以上前、2013年当時の情報であり、トルコ沿岸警備隊による調査の内容です。
それでもトルコは地理的にエジプトと近い国であり、情報の精度はある程度信頼できるのではないかと思われます。
とりあえず情報を抽出整理してみると次のとおり。
・1878年(明治11年)に税関組織の一部として発足。
・1922年(大正11年)に立憲君主制国家エジプト王国が成立。同年、国防省所属となる。
・1991年(平成3年)”沿岸警備隊旅団”の名称となる。
・沿岸警備隊旅団は海軍司令部の傘下にあり、大佐階級の将校によって指揮されている。
・業務は領海警備、法執行、航行安全確保、海難対応、環境保護など。
税関組織から発展したことや、一般的な海上保安業務を網羅していることから、【エジプト沿岸警備隊】も典型的なCG機関の内に数えることができそうです。
そして、完全に海軍に依存しているため、海軍本体がCG機関としての役割を果たすマルチネイビー型CG機関だと考えられます。

…というところでエジプト海軍の情報は以上です。
願わくば、CG機関の情報は付近を通航する船舶にとって重要であるため、もっと積極的な政府広報が欲しいところ。
しかし、軍隊機構の一部に組み込まれているせいなのか、情報発信に限りがあります。
これは軍事機関傘下型CG機関の情報は必然的に軍事機密に近くなってしまうことが原因かもしれません。
その良し悪しを簡単に評価することはできませんが、組織情報の透明度はCG機関の組織形態の如何を論じる際の一つのポイントだと言えるでしょう。
ソマリアの理解のために
ソマリアに対する印象
次にご紹介するのは“アフリカ大陸の角“と表現されるアデン湾・アラビア海に突き出した”ソマリア”です。
ソマリアと言えば、崩壊国家というネガティブなイメージが強く、日本の外務省からも危険度レベル4「退避してください。渡航は止めてください」の退避勧告が出されています。
また、映画『ブラックホーク・ダウン』において、その印象を強くしている人も多いのではないでしょうか。
この映画は1993年10月3日、ソマリアの首都モガディシュにおいてアメリカ陸軍:第160特殊作戦航空連隊のヘリコプター「ブラックホーク」がソマリア民兵に撃墜された事件を元にしています。
その他、”ソマリア”は
【ソマリア沖・アデン湾の海賊】というワンフレーズの中でのみ語られがちです。
正直なところ、「ソマリアは危険な国」という印象しかない気がしませんか?
しかし、CGGSⅡとⅢには同国も参加しており、さらには大阪万博2025にもパビリオンを出展しています。
では現在の”ソマリア”は一体どうなっているのでしょうか?
それをコーストガード機関を軸に読み解いてみたいと思います。
(このソマリアの章だけでかなりのボリュームです!)
3つのソマリア
まず、現在のソマリア地域は大まかに3つの勢力に分裂しています。(2025年6月現在)

(2025年6月更新)
ソマリア – Wikipedia(英語版)より
次に”ソマリア”の国土イメージについて、左を向いたタツノオトシゴ、あるいは数字の「7」を想像してみてください。
これに大雑把な勢力分布を当てはめてみるとこのようになります。

7の上辺の左がソマリランド
7の角のあたりがプントランド
7の下側がソマリア連邦共和国
白い部分は領域未確定地
さらにこの3つの勢力の関係図がこちら。

現在分裂している3つの勢力は、元々一つの【ソマリア民主共和国】として統一されていました。
それが1991年(平成3年)に独裁政治を続けてきたバーレ大統領が失脚したことにより、国内全体を統治する政府が失われてしまったのです。
その結果、ソマリランドやプントランドといった政府機能を有した勢力が誕生し、それぞれの地域を実効支配するようになりました。


ただしこれらの勢力は国際社会からの承認を受けておらず、国連にも加盟していません。
一方、その他の地域では紛争や対立が約20年間続き、2012年(平成24年)にようやく一つのまとまった政府が成立しました。
それがソマリア連邦共和国です。

ソマリア連邦共和国は以前の統一政府【ソマリア民主共和国】の政体を継承しており、国際社会からも承認されているため国連加盟国となっています。
また、日本とも国交を結んでいるので、CGGSや大阪万博にソマリア連邦共和国が参加している…ということなのです。
【補足】
三者を記憶する方法として、次のようなものがあります。
・ソマリランド…旗に赤色が含まれる
・プントランド…旗に緑色が含まれる
・ソマリア連邦共和国…国旗が水色と白
緑と水色は同じ青系統で親和的なイメージ。
赤と水色は相反する色で対立的なイメージ。
ソマリア(Somalia)の~iaは、ラテン語を語源とする「~の土地、~の国」という地名接尾辞。イタリア(Italia)のイアと同じ。したがってソマリアとソマリランドはどちらも【ソマリ人の土地】という意味。
プントは古代エジプト王国と交易をしていたとされる国の名前。場所がどこにあったかは不明。日本で言えば邪馬台国のようなイメージ。
ソマリアの歴史
さて。
以上のように記述すると、あたかもソマリア連邦共和国こそが正統な存在であり、それ以外は何か不穏な抵抗勢力のように感じられるかもしれません。
しかし、話はそう単純でもないのです。
そもそも、1991年に【ソマリア民主共和国】政府が崩壊した後、その混乱のさなかにいち早くまとまったのがソマリランドであり、既に30年以上の歴史があります。
ソマリランド内でも混乱や対立が無かったわけではありませんが、他の地域に比べれば政情は安定していると言われています。
(あくまでソマリア領域内での比較)
また、プントランドにしても25年を経過しており、自治を宣言しながらもソマリア連邦共和国の構成体であることは認めているようです。
他方、ソマリア連邦共和国が成立したのは2012年であり、まだ10年ほどしか時間は経過していません。
なによりも同国が領域内を完全に掌握しているとは言えない状況であり、イスラム過激派の横行も続いています。
何故ここまで分断が進んでしまったかについては、様々な理由がからんでいます。
・ソマリ人の遊牧民的気質
・ソマリ社会における氏族同士の対立
・ソマリ領域の南北格差
・旧植民地時代に形成された社会・文化構造の違い
・バーレ政権下での弾圧の記憶
・バーレ政権崩壊後の自国民同士での虐殺の記憶
私がざっと考えただけでも上記の要因が思いつき、当サイトではとても解説しきれません。
とりあえず私がまとめた歴史図表が次のとおりです。

管理人独自作成
以上、
ごく大まかな”ソマリア”の解説でした。
それではいよいよコーストガード機関の話題に移りましょう。
あらかじめお伝えしておくと、ソマリアには3+1のCG機関が存在します。
①ソマリランド ソマリランド沿岸警備隊
②プントランド プントランド海上警察隊
③ソマリア連邦共和国 ソマリア警察沿岸警備隊
④ソマリア連邦共和国 ソマリア海軍・沿岸警備隊
それぞれどんな様子か簡単にご紹介していきます。
ソマリランド(北部地域)
Somaliland Coast Guard
ソマリランド沿岸警備隊
https://marines.govsomaliland.org/
https://www.facebook.com/somalilandcoastguard


右:2025年5月頃から登場したロゴマーク








ソマリランド沿岸警備隊は、ソマリランド独立宣言の4年後、1995年(平成7年)の設立とされています。
SLCGはソマリランド内務省に所属し、一般警察と並列する存在です。
したがって独立機関型CG機関に分類できます。
興味深いのはソマリランドには国防省に所属する陸軍が存在しながらも、海軍に相当する部隊は置かれていないこと。(空軍も存在しない)
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中米地域で見られたような、小規模な海軍部隊が名称として”コーストガード”を名乗り、法執行機関としての役割も果たすスモールネイビー型ではないのです。
また、オセアニア地域の小規模島嶼国家におけるマルチポリス型とも異なっています。
その他、船艇隻数や職員数については確たる情報がないものの、基地の様子から組織規模を推察することができます。



※動画途中で大きなサイレン音が流れます!
広々とした閲兵広場と立ち並ぶ庁舎、そして統一された制服姿。
観閲行進の様子からも、規律ある部隊行動の訓練がされていることがうかがえます。
ソマリア沿岸警備隊のさらなる発展の可能性が感じられます。
《余談》


ソマリランド沿岸警備隊の地方基地と思われる場所の写真。上官らしき人物の背後でなぜかリクガメが闊歩している。外から侵入したのか、基地内で飼っているのか不明。
プントランド(北東部地域)
Puntland Maritime Police Force(PMPF)
プントランド海上警察隊
https://www.facebook.com/pmpfofficial/





プントランド海上警察隊は、【プントランド・セキュリティ・フォース】(PSF)の一部隊です。

PSFとは国境警備部隊(ダルヴィーシュ部隊)・警察部隊・諜報部隊・刑務所部隊から構成される、治安部隊の総称のこと。
DASTUURKA DAWLADDAPUNTLAND EE SOOMAALIYA
2023 Puntland ConstitutionQodobka 86aad Ciidamada Nabadgelyada
I. Ciidamada Nabadgelyadu waxay u xilsaaran yihiin sugidda amniga gudaha iyo xuduudaha Dawladda Puntland , waxayna ka kooban yihiin:
b. Daraawiishta.
t. Booliska.
j. Nabadsugidda.
x. Asluubta.※プントランド議会HPに掲載されたソマリ語による憲法条文
Dastuurka – Golaha Wakiillada
CONSTITUTION OF THE PUNTLAND STATE OF SOMALIA
(ソマリア・プントランド憲法)
December 2009
English Translation November 2011Article 86 – SECURITY FORCES
(第86条 – 治安部隊)
I. The security forces of Puntland shall be responsible to maintain the internal and external security of Puntland State and shall consist of:(プントランドの治安部隊は、国内および対外的な治安維持に責任を負い、以下の部隊で構成される)
(a) Border Police (Darawishta);
(国境警察(ダルヴィーシュタ))
(b) Police;
(警察)
(c) Intelligence forces; and
(諜報部隊)
(d) Correctional forces.
(矯正部隊)※国連食糧農業機関、国際自然保護連合、国連環境計画による共同データベースに掲載された意訳を含めた英語訳版。カッコ内は当HP管理人による日本語訳。
Constitution of the Puntland State of Somalia pdf
ECOLEX→”puntland constitution”で検索
そもそも、
プントランドはソマリア連邦共和国の一部として属する、という体裁をとっています。
これを自治州というのか、準独立国というのか難しいところです。
さらにプントランドの実力組織はミリタリー・サービス(軍隊)とは名乗ってはいません。
ただし、“ダルヴィーシュ部隊”と呼ばれる陸上組織は、事実上の陸軍とみなしてよいのではないか…と私は考えます。
それはさておき。
プントランド海上警察隊は一般警察及びダルヴィーシュ部隊と並列する存在であるため、独立機関型CG機関と位置づけることができそうです。
(軍事機関の傘下にもなく、陸上の一般警察機関の傘下にもないため)
この点は先に見たソマリランドのソマリランド沿岸警備隊と同様です。
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そして、プントランド沿岸警備隊の上部機関については、安全保障省だと推定されます。(内務省とは異なる組織)

ところでPMPFの活動内容ですが、2025年6月直近ではダルヴィーシュ部隊とともにテロ組織であるイスラム過激派の掃討作戦に従事しています。
フェイスブックには当たりさわりのない写真が掲載されていますが、テレグラムには凄惨なものが数多く掲載されています。
(あえてリンクは張っていませんので、閲覧は自己責任でお願いします。)
はたしてこれがコーストガード機関の業務と言えるのかと理解に苦しむところです。
とは言え、
プントランドにはプントランドの現実があるのであり、それを外国人の私が軽々しく評価することはできません。
改めて外国組織の位置づけを考察することの難しさを痛感させられた次第です。
話は変わって。
プントランドの海上交通・港湾・海上防犯省について触れておきます。

構造 – MOPTMCP
同省には海上防犯部門についての紹介があり、一見すると海上警察隊の上部機関のようにも思えるのですが…。
しかし、同省のフェイスブックにはPMPFではなく、一般警察の職員の姿が頻出しています。
このことから海上防犯部門は、港湾警察あるいは水上警察を所管しているではないかと想像されます。
(PMPFとまったく無関係ということはないと思います)


ソマリア連邦共和国(南部地域)
Somali Police Force
Department of Coast Guard
(SPF-DCG)
ソマリア警察沿岸警備隊
https://police.gov.so/
https://www.facebook.com/SomaliPolice
https://www.facebook.com/BooliiskaSoomaaliya?locale=fo_FO



“POLICE COAST GUARD”の意味




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それでは本章の締めくくりとして、ソマリア連邦共和国のCG機関をご紹介します。
ソマリア警察沿岸警備隊は国内治安省に所属する一般警察の部署(Department of Coast Guard)です。
まず、この組織が警察機関傘下型CG機関であることは間違いありません。
そして、沿岸警備隊部門に強い独立性が見られないことから、警察機構本体が海上保安業務を行っているマルチポリス型と判断されます。
ところで。
実はソマリア連邦共和国にはもう一つの”コーストガード”が存在します。
Somali Navy and Coast Guard(SNCG)
ソマリア海軍・沿岸警備隊
https://web.mod.gov.so/







大変ややこしいことに、
ソマリア連邦共和国の海軍組織の名称は“Somali Navy & Coast Guard”(SNCG)と言います。
これは小規模海軍の呼称としてコーストガードを名乗っている例の一つだと考えられます。
この海軍組織はソマリア共和国の草創期から存在していたのですが、無政府状態だった1991年~2012年の間はほとんど機能していなかったようです。
その後、ソマリア連邦共和国の成立とともに徐々に復活し、海賊対策も行ってきました。
そんなSNCGですが、意外なことに日本の海上保安庁との交流の記録が残っています。
レポート:ソマリア連邦共和国海上法執行能力向上支援検討会合及びフォーラム
[2013年10月21日(Mon)]検討会合では、英国グリニッジ大学のGeorge Kiourktsoglou講師及び獨協大学の竹田いさみ教授により基調講演が行われ、ソマリア沿岸警備隊のFarah Ahmed Omar長官及びBulhan Hersiソマリア特使から、ソマリアの現状と課題、同国が実施している各種取り組みについて説明されるとともに、参加各機関から海賊対策・法執行能力向上に係る取り組みについて発表があり、活発な意見交換が行われました。
レポート:ソマリア連邦共和国海上法執行能力向上支援検討会合及びフォーラム-海洋政策研究所ブログファラー・アフメド・オマール長官
それは約20年ぶりに無政府状態が解消された年の翌年、2013年(平成25年)のこと。
海上保安庁と笹川平和財団との共催で会合が行われ、“沿岸警備隊長官”という肩書でファラー・アフメド・オマール氏が日本に招待されています。
同氏の名前は英語版Wikipediaの【ソマリア海軍】の記事の中にも登場するので、おそらくこの時の”沿岸警備隊”はSNCGのことだと思われます。
そして、この際ファラー長官が次のように語っています。
「ソマリア連邦共和国は、20年以上の内戦が続き、多くの国民が難民になるなどの状況にあったが、この2年の間に憲法が制定され、昨年、中央政府が樹立された。ソマリア沿岸警備隊は、約50年前に設立された歴史のある法執行機関である。」
「近年、ソマリア周辺海域における海賊行為が減少していることは、ソマリア国内における警察による取締り、沿岸警備隊の陸上における海賊対策及び宗教や氏族(部族)のリーダーによる指導が一定の成果を収めていることも寄与している。」
ソマリア連邦共和国海上法執行能力向上支援検討会合 成果概要(PDF)
ファラー長官の「約50年前」とはおそらく1964年で、SNCGが設立された年のこと。
また、「歴史ある法執行機関である」との言葉から、その当初から海上治安維持の機能も果たしていたことがうかがえます。
(なお、このフォーラムのことは『海上保安レポート2014』でも簡単に触れられている)
改めて整理してみると、
2つのCG機関がソマリア連邦共和国には存在することがわかります。
ソマリア警察沿岸警備隊
ソマリ・ポリス・フォース
デパートメント オブ コーストガード(SPF-DCG)

ソマリア海軍・沿岸警備隊
ソマリ・ネイビー アンド コーストガード(SNCG)


この両者が日本の資料で語られるとき、同じ“ソマリア沿岸警備隊”という表記になるため、一体どちらのことを指しているのか注意しなくてはなりません。
| 参加機関名義 | 参加機関 所属組織 | 出典 | |
|---|---|---|---|
| 2013年 (平成25年) ソマリアフォーラム | ソマリア沿岸警備隊 Somali Coast Guard | 笹川平和財団 海洋政策研究所ブログ | |
| 2017年 (平成29年) CGGSⅠ | 参加せず | ||
| 2019年 (令和1年) CGGSⅡ | ソマリア沿岸警備隊 Somali Coast Guard | 港湾省及びソマリア海軍 Ministry of Ports and Somali Navy | 『調査研究報告書』 |
| 2023年 (令和5年) CGGSⅢ | ソマリア沿岸警備隊 Somali Coastguard, Recourses & Resaerch Centre (SCRRC) | 不明 | CGGS公式HP |
既に見たように、
2013年のソマリアフォーラムで来日したのはSNCGの長官であり、その後の2017年のCGGSⅡに参加したのもSNCGだったと思われます。
なぜなら『調査研究報告書』ではその参加機関の所属先をソマリア海軍としているため。
ただし、2023年CGGSⅢが警察系・海軍系どちらの組織だったのかはハッキリしません。
おそらく警察系のSPF-DCGではないかと思われるのですが、情報不足によって断定はしづらい状況です。
いずれにせよ、
今後、国際的にどちらのCG機関がソマリアを代表していくのか注目されるところです。
以上、
ソマリアのCG機関に関するご紹介でした。
《参考文献》
・高野秀行『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』(株)本の雑誌社 2013.2.12
・遠藤貢『崩壊国家と国際安全保障 ソマリアにみる新たな国家像の誕生』有斐閣 2015.11.20
とりわけ高野氏の文献なくして本章はとても書き進められないものでした。著者による現地報告(ルポルタージュ)によって、ソマリの人々の様子が生き生きと描かれています。大著ですが平易に読み進めることができるので一読をおすすめします。
セネガル共和国
ハスマールの概要
High Authority for the Coordination
of Maritime Safety,Maritime Security and
Protection of the Marine Environment
セネガル
海上安全・治安・海洋環境保護
調整担当高等庁
(HASSMAR)
https://www.hassmar.gouv.sn/
https://www.facebook.com/mrccdakar



それでは最後にアフリカ大陸:西海岸の国から、セネガルをご紹介しましょう。
セネガル共和国と言えば、サッカー強豪国の一つ。
その他、首都ダカールの名を冠した「パリ・ダカール ラリーレース」も有名です。
さらにそのダカール市を、アニメ『機動戦士Zガンダム』でクワトロ・バジーナ大尉が演説を行った地として記憶している人も多いのではないでしょうか。
(第37話「ダカールの日」)
さて、
そんなセネガルのCG機関はセネガル海上安全・治安・海洋環境保護調整担当高等庁と言います。
通称はHASSMAR。
(High Authority for the Coordination of Maritime Safety,Maritime Security and Protection of the Marine Environment)
英語読みならば“ハスマー”ですが、同国の公用語はフランス語なので“ハスマール”と発音するのが適当と考えます。(固有名詞なので語頭のhは発音すると思われるのですが、いかがでしょうか…?)
とりあえずこのハスマールは調整機関型CG機関に分類されます。

そして、
ハスマールは“高等庁”の名の通り、他の省庁に対して優越的な位置づけにあるのが特徴です。
これを日本政府で例えるならば、内閣府 総合海洋政策推進事務局のような海洋政策全般を統括する部署と言えるでしょう。
次に、その対象となる業務は以下のとおり。
・主権的権利の擁護
・国家の利益の保護
・公共の秩序の維持
・航行の安全性の確保
・違法行為の防止と摘発
・人、財産、施設の安全の確保
・海洋環境の保護と海洋資源の保全
これら中で特に重要と思われるのは海難救助業務です。
ハスマールは組織内に海難救助調整センター(MRCC)を構えており、これは担当する海域において海難事故の通報を受け付ける部署なのです。
(Maritime Rescue Coordination Centre)


そもそも“海難救助調整センター(MRCC)”はSAR条約(1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約)に基づいて、締約国内に設置することになっている海難通報部署のこと。
その統一的呼称が”MRCC”であり、具体的な部署の名称は各国で異なります。
例えば、日本の場合は海上保安庁本庁の警備救難部管理課【運用司令センター】がMRCCとしての機能を果たしています。
したがって、海上保安庁が海難の通報を受け、そのまま海上保安庁の船艇・航空機が現場に向かうわけです。
一方、セネガルのハスマール自体は船舶を運用する要員を抱えていないので、主としてセネガル海軍の艦艇を差し向ける形となります。
以上のように実働勢力の在り方は国によって様々ですが、セネガルが国際条約に基づいて海難救助体制を確立していることに大きな意義があると言えます。
ハスマールの位置づけ
ここからはハスマールのセネガル政府内における位置づけを詳しく見ていきます。
前述のとおり、ハスマールは海洋政策全般の司令塔としての役割とともに、関係する省庁間の調整役を担っています。

ただし、調整を受ける一般省庁の中でも、国防省、外務省、経済企画協力省、水産・海洋経済省、保健・社会福祉省はハスマールの監査委員会に委員を送りこむ立場にあります。
すなわち調整を受ける側と調整をする側との相互牽制が図られています。
さらに特徴的なのは、国防省の強い影響力を受けていること。
実際、長官職はセネガル海軍の将校をもって充てられています。
HASSMAR長官の言葉
ママドゥ・ンディアエ海軍大佐 HASSMARは、海上における国家的活動を調整し、海上国家緊急対応計画(PNIUM)を実施する超越的な使命を委ねられています。
MOT DE MONSIEUR LE SECRETAIRE GENERAL DE LA HASSMAR | HASSMAR
共和国大統領府に所属し、行政上および横断的な立場から、海上緊急事態の省庁間コーディネーターとしての戦略的な役割を担っています。
これはそもそも『HASSMAR設置法』において、「HASSMARは”事務総長”と呼ばれる海軍の将官または上級士官の指揮下に置かれる。」と規定されているため。
(※当サイトではCG機関の長を長官と統一的に表現しています。)
もっと大きく言えば、ハスマールは首相府に属しつつも、国防省による技術的な監督を受けることになっているのです。
HASSMAR設置法
第2条 HASSMARは、国家の権限を所管する機関であり、海上における国家の行動の調整における政府の代表機関である。HASSMARは首相府に所属し、国防省の技術的監督下に置かれる。
第9条 HASSMARは、首相の提案に基づき大統領令により任命され、事務総長と呼ばれる海軍の将官または上級士官の指揮下に置かれる。
DECRET PORTANT CREATION DE LA HASSMAR | HASSMAR
このようにハスマールが国防省=セネガル海軍の強い影響を受けている理由としては、国内において他に十分な実働部隊を擁する機関が存在しないためではないかと考えられます。
また、船舶と船員の確保が難しい場合、海軍の物的・人的資源を以て充てるのは合理的な措置だと思われるからです。
なお、
海軍の影響力が強い調整機関としてはタイ海上法令執行司令センターも同様でした。
セネガルとタイの事例のように、調整機関型CG機関は建前として中立的・独立的な立場にはあります。
しかし、実際には実働勢力(船艇・航空機・人員など)を主として提供する政府機関の影響を受けやすいとみられます。
したがって、調整機関の場合は「その主体となる組織はどれか?」という点まで含めて考察していく必要があるでしょう。
おわりに
以上、CG機関の分布【アフリカ編】でした。
今回、執筆に時間がかかってしまいましたが、これは予想外に調査と整理が困難だったためです。
特にソマリアに関しては、表面的な現状をなぞるだけでは全く理解できませんでした。
そもそも国家、政府とは何か?
政治的に統治するとはどういう意味か?
国家が成立するとはどういうことなのか?
…そんな政治学の根源を考えさせられ、立ち止まることもしばしばでした。
ひるがえって、
ある国の行政機構がどのような形態で存在するか?はその国の地理・歴史・文化的な背景と深く関わっていることも痛感しました。
例えば、我が国の海上保安庁も、戦前の統一的海上保安機関の不在と太平洋戦争の敗戦という歴史的経緯を抜きにしては語れません。
現代の国家行政機構は世界的な潮流や傾向と無関係ではいられませんが、さりとて各国固有の事情を勘案せずに組織の在り方を論じても意味がないのです。
そして話は少し変わりますが、
コーストガードの“世界標準”を持ち出して日本の海上保安庁のことを語る風潮について。
そうした話題の展開を好む方々の脳裏に、果たして今回とりあげたようなアフリカ諸国の例は含まれているか私は疑わしく思っています。
しかし、“世界の”あるいは“諸外国の”といった文言を使い、標準や通常の在り方を論じるならば、少なくとも国連加盟国の7割~8割を子細に検討した結果でなくてはなりません。
当然、その中にはアフリカのことが含まれるはずですが…。
逆にこうした意味で、
今回【アフリカ編】を書き上げられたことを私は嬉しく思っています。
本稿が皆さまのお役に立てれば幸いです。
《次回、ヨーロッパ編へつづく》
《参考動画》
おことわり
以下に示す参加国一覧表は当サイト管理人が独自に作成したものです。
作成に当たっては、海上保安庁・日本財団の共同発表資料pdf及び『世界の海上保安機関の現状に関する調査研究報告書』を参考としました。
(以下、『報告書』と呼びます。)
世界の海上保安機関の現状に関する
調査研究報告書岩並秀一・大根潔 共著
書籍等 :: 世界の海上保安機関の現状に関する調査報告書 (xn--p8j1fc3cznsc6g4e.jp)
(公財)海上保安協会 発行
A4版 63頁 カラー画像付
次に、
参加国名等の邦訳については、公表資料に準拠しつつも当サイト管理人が一部修正しています。
(誤:コロモ連合→正:コモロ連合 など)
最後に、
「組織形態」の項目で軍事・国境・治安・警察・独立・調整とあるのは、『報告書』における分類を参考に表記したものです。
ただし、この『報告書』の内容はCGGSⅡ終了後時点でのものであり、CGGSⅢ初参加国については、当サイト管理人が独自に判断し分類しています。
【組織形態の分類】
①軍事機関 傘下型「軍事」
軍事機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関
②国境警備機関 傘下型「国境」
国境警備機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関
③治安警察機関 傘下型「治安」
治安警察機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関
④警察機関 傘下型「警察」
警察機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関
⑤独立機関型「独立」
上部機関が実働勢力を有しない機関であって、
①~④の機関形態以外の機関
⑥調整機関型「調整」
他のCG機関間の調整を行うことを任務とする機関





















