令和4年(2022年)7月19日、
【巡視船しもじ】による誤射事案が発生しました。
市長「二度と事故ないように」
/実弾誤射の巡視船視察
再発防止策は評価/宮古島海保
宮古島海上保安部(福本拓也部長)所属の巡視船「しもじ」が20ミリ機関砲の実弾8発を誤射した事故を受け、座喜味一幸市長が15日、伊良部池間添の長山港を訪れ、巡視船を視察した。
福本部長が船上で再発防止の履行状況を説明。実弾誤射は7月19日午前11時10分ごろ、巡視船が停泊していた長山港で発生。洋上射撃訓練に備えて機関砲の点検をした後、取り扱い訓練を実施し、陸上側に実弾8発を誤って発射した。
けが人や民間施設への被害はなかった。船上で福本部長は
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▽島内では実弾の装填は行わない
▽砲を陸側に向けない
▽弾薬箱の状況を船長自らが現場確認する-
ことなどを説明。
福本部長は「再発防止策が取られていることを、理解いただいたと認識している。市長と市議会から再発防止の徹底が求められていることを強く肝に銘じたい」と語った。
宮古毎日新聞 2022年8月16日(火)9:00
はじめに
今回は2022年7月19日に発生した、
【宮古島海上保安部】の【巡視船しもじ】における誤射事案について取り上げます。
ごく簡単に説明すると。
係留中であった巡視船の搭載機関砲を空撃ちしようとしたところ、誤って実弾を発射してしまった事案です。
まず、
私は報道された以上のことを知りません。
さらに、
私は宮古島市民ではありませんし、沖縄県民でもありません。
そしてこのようなサイトを運営している以上、海上保安庁に対しては従来から好意的な立場です。
これを自覚した上で、今回の誤射事案については非常に残念に思っています。
海上保安庁に対しては厳しい批判が寄せられて当然だと思いますし、再発防止措置を徹底する必要があると考えます。
特に船の最高責任者である船長は責めを免れません。
さて。
以上のことを大前提としながら、私なりに今回の事案に関して思うことを述べたいと思います。
というのも、
私は宮古島に行ったことがあり、その際に今回の現場:長山港を訪れたことがあるからです。
もちろん、
一般人としての立場で、です。
その時のことを思い出しながら述べていきます。
どこに長山港はあるか?
まず誤射事案が発生した長山港の位置を確認していきます。
このサイトではすっかりおなじみになった(?)、PL型以上の大型巡視船の配備図です。
宮古島(沖縄県宮古島市)は、沖縄本島と石垣島の間にあります。
この図で言うと【PL201みやこ】が配備されている所です。
さらに宮古島の詳細をみてみましょう。
宮古島市は大小6つの島々で構成されています。
・宮古島
・池間島
・大神島
・来間島
・伊良部島
・下地島
この周辺海域を管轄するのが【宮古島海上保安部】です。
同保安部は宮古島本島の平良港にあって、その周辺に【PM35はりみず】や【PC113なつづき】が係留されています。
さらに少し離れた大型船係留バースに【PL201みやこ】がいます。
【みやこ】については以前の記事でご紹介しましたね。
そして宮古島本島から橋を渡って対岸の島・伊良部島の長山港(長山地区)に【PS31しもじ】などが係留されています。
※長山港は長山地区と渡口地区の2か所に分かれています。当記事では長山地区のことを指すことにします。
Googleマップでは車で15分と出ますが、体感としては30分くらいの距離だったように思います。
(途中の伊良部大橋をゆっくりめに走ったせいかもしれません)
長山港はどんな所か?
さらに長山港の詳細を見ていきましょう。
長山港は下地島空港へ続く県道の途中にあります。
下地島空港は現在LCCの国内便が就航していますが、一般的には宮古空港を利用することの方が多いと思われます。
むしろ下地島空港は夕日スポットとして有名な観光地です。
港の周辺は畑が広がっており、人口密集地ではありません。
(決して無人地帯ではないです!)
さらに、
港を取り囲むように鬱蒼としたやぶが広がっており、道路から港は見えません。
特に案内看板もないので、気付かずに通り過ぎる人がほとんどだと思います。
なお、この現地の様子についてはGoogleストリートビューで見ていただけると一目瞭然です。
港には港湾関連施設がある以外は海上保安庁の船艇用品庫があるのみです。
実際のところ、
港…というよりは海上保安庁の専用岸壁ですね。
ここには、尖閣諸島周辺において違法操業する外国漁船に対応するために、9隻ものPS型巡視船が配備されています。
一つの場所にこれだけの数が配備されているのは、全国的にも珍しいです。
私が現地を訪れたときは、人や船の出入りもなく閑散としていました。
そもそも普段から海保関係者以外が訪れることのない場所だと思います。
そんな中で【しもじ】たちが静かに停泊していたのを印象深く思い出します。
なぜ誤射が起きたか?
今回の誤射によって、人への被害は発生していません。
それは前述したように現場は人口密集地ではなく、船舶が輻輳する港湾でもなかったことが幸いしています。
とは言いながら、
付近で工事作業をしていた方もいますし、現に付近に駐車していた海上保安庁職員の車両が被弾しています。
では改めて、
なぜ今回の誤射は起きたのでしょうか?
それは、
現場が人目につかない場所にあったから。
…と私は考えています。
もちろん、
海上保安庁側が発表しているように、
「船長と部下職員との連絡ミス」や、
「射撃マニュアルの不順守」があったとは思います。
しかし、
この事案はたとえば宮古島本島の平良港であれば起きなかったのではないか?と私は考えるのです。
あらためて、
【宮古島海上保安部】の周辺を見てみましょう。
【宮古島海上保安部】は平良港湾合同庁舎に入居しています。
そして、
その庁舎から徒歩圏内に巡視船艇の係留地が2か所あります。
特に【はりみず】は旅客船や遊漁船の船溜まりに接しており、ホテル建物の裏手側に位置しています。
もしかしたら、宮古島観光の途中で無意識のうちに同船を見ていた人もいることでしょう。
一方、
【なつづき】も主要道路に沿った位置にあり、コンテナの隙間から垣間見ることもできます。
このように平良港地区は人も船舶も密集している地域です。
まさに衆人環視の状況です。
さて。
今回の批判点の一つに、砲身が陸側を向いていたことが挙げられます。
この理由は報道では明らかにされていません。
追記
2022.08.28
当該事案について報道記事を再度見直したところ、砲身が陸側を向いていた理由が書かれていました。よって文末に補足記事を追加しました。
しかし、
仮に【しもじ】がこの平良港に係留されている状態であれば、空撃ちであっても絶対に行われなかったでしょう。
(絶対に行われなかった、と私は信じたいのです。)
ましてや砲身が陸側に向いていれば、船長に限らず誰かが止めていたはずです。
逆に長山港で誤射が起きたのは、職員以外の人の目がないことによる油断のためと私は考えます。
一般市民が訪れることもなく、
周囲から隔絶されていること。
それが乗組員たちの、
気のゆるみを生んだのではないでしょうか。
その結果として、
マニュアルを守らなくてもいいだろう、
言わなくてもわかっているだろう、
大丈夫だろう。
…という易きに流れたのではないかと思うのです。
繰り返しますが、
長山港は無人の地ではありません。
しかし、
視覚的に長山港が閉鎖空間であるかのような錯覚に陥っていたのではないでしょうか。
長山港の特殊性
私が以上のように推論する理由は、長山港だけが巡視船艇の係留地としては特殊だからです。
巡視船マップを作成する過程で、私は全国すべての係留地をGoogleマップで確認しました。
そこでわかったこと。
まず、
海上保安庁は港則法上の申請書類の届出先でもあるので、庁舎が極端に人里離れた場所にある…ということはないのです。
そして多くの場合、船艇はその海上保安部・署の庁舎近くに係留されています。
ただし、
大型巡視船は庁舎から離れた大型岸壁に位置することが多いです。
とは言え、逆にそこは一般の大型船舶も行きかう場所でもあります。
つまり、
海上保安庁の巡視船艇は、
一般市民や他船と共にあるのが
通常なのです。
たとえば、
【石垣海上保安部】が良い例です。
(以前の記事を参考にしてください。)
改めて、
長山港のように人気の少ない場所に、多数の巡視船艇が置かれた所は他にはありません。
そのような特殊な立地条件が、
海上保安庁において前代未聞の不祥事を引き起こしたのではないでしょうか。
もちろん、
原因は複合的なものだとは思います。
しかし長山港の立地について、
私なりに指摘しておかなければと考える次第です。
【追記】なぜ砲身は陸側を向いていたか?
砲口、なぜ陸地へ?
砲口、なぜ陸地へ? 巡視船の誤射 見つからない弾丸8発の行方 | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
巡視船の誤射
見つからない弾丸8発の行方
2022年7月21日 08:56
宮古島市の伊良部島、長山港に係留していた巡視船「しもじ」の機関砲から19日午前、実弾8発が陸方向へ発射された。海上保安庁では前例がない誤射だ。
同保安部の説明では「しもじ」の海側に別の巡視船が隣接していたことなどを理由に、現場の船長が、人けがなく土が壁になるやぶに向けた方が安全だと判断したという。
訓練前に周囲を確認したというが、交通を規制しておらず、人や車が自由に立ち入りできる状況だった。実弾を扱う訓練を実施する上で、安全対策に疑問が残る。
私なりに補足しますと。
長山港における【しもじ】~【まえはま】の9隻は、普段からいわゆる「メザシ係留」されています。
つまり船が横に並列し、同一方向を向いた形で接岸しているのです。
事案当日も【しもじ】は【ながやま】とメザシ係留されていました。
その際に、
【しもじ】は陸側、
【ながやま】は海側の配置でした。
さらに2隻の後方には【くりま】など別の巡視船も係留されていたようです。
改めて『沖縄タイムス』の記事から推測すると、
【しもじ】のすぐ隣に【ながやま】がいたので反対方向に砲身を向けた。
…ということのようです。
もしそうなら、
「銃口を僚船に向けるのは止めておこう」となる船長の感覚は理解できます。
ただし、
それは機関砲の運用規則に従ったというより、人間的な感覚でそうしたのではないでしょうか。
ちなみに、長山港の9隻はすべて同型・同サイズのため【しもじ】機関砲の真横に【ながやま】の機関砲もあったわけですね。
さて、
海側の【ながやま】に配慮した結果、砲身は陸側に向けられました。
(そしてさらなる重大な結果になるのですが)
しかし、
なぜ真正面への空撃ちではなかったのでしょうか?
少なくともそちら方向には県道はありません。
これもおそらくは単純な話で、
船橋から砲身の回転を目視したかったから。
…ではないかと想像します。
砲身が真正面を向いていると、その手前の砲台に隠れて見えない。
だから砲身を左右いずれかに向ける必要があった。
以上は私の推測に過ぎません。
しかし、なんとなく事案の重大さにくらべて、その背後関係の他愛のなさに落差を感じます。
以上、
「なぜ砲身は陸側を向いていたか?」についての補足でした。