海上保安大学校に配備
大型練習船の進水式 下関市の造船所
07月04日 12時41分海上保安官の幹部候補生を養成する海上保安大学校に配備される大型練習船の進水式が、4日、下関市の造船所で行われました。
海上保安大学校に配備 大型練習船の進水式 下関市の造船所|NHK 山口県のニュース
下関市にある三菱重工下関造船所で行われた進水式には、海上保安庁や造船所の関係者らおよそ20人が出席し、はじめに、練習船の名前は、海上保安大学校が広島にあることにちなんで、「いつくしま」と命名されました。
はじめに
2023年(令和5年)7月4日、
【PL23いつくしま】の進水式が行われました。
来年には海上保安大学校に配属され、学生のための練習船として活動する予定です。
このため【いつくしま】は乗船実習などを通じて、将来の幹部海上保安官を育てる重要な役割を担っていると言えるでしょう。
これまでも海上保安大学校に【PL21こじま】、海上保安学校に【PL22みうら】が配属されており、多くの海上保安官たちがこれらの船で航海術を学んできました。
しかし、今建造中の【いつくしま】にはこれまでの練習船とは異なる「新しさ」があります。
今回はその新しさに注目してご紹介していきます。
名前があたらしい
まず、
いきなりですが船名【いつくしま】!
これが実に新しい!
海上保安庁船艇史の中で初めて使われた船名です。
由来はもちろん広島県「安芸の宮島」で有名な厳島神社がある島ですね。
先日のG7サミットで岸田総理が各国首脳とともに訪れた場所としても注目を浴びました。
ちなみに、あの神社や海に浮かぶ大鳥居がある島のことを「宮島」というのかと思っていましたが、これは現在では「厳島」「宮島」どちらでも呼ばれるようです。
ただ、
「厳島」という名前の方が古く、「宮島」は江戸時代以降に定着した呼び方とのことです。
(くわしいことはいつものWikipediaで☆)
それはさておき。
【いつくしま】は海保大への配属を念頭に設計・建造された練習船です。
つまり現在の海保大練習船【こじま】の後継となるべきフネなので、てっきり船名もこれ引き継ぐのかと思っていました。
実際に海保大の練習船は現【こじま】が4代目であり、船名「こじま」としては3隻続いてきたからです。
初代:栗橋 第六管区に所属した巡視船 (mlit.go.jp) 2代目:こじま 3代目:こじま 4代目:こじま(現)
が、まさかの新命名。
ということは、
しばらくは【こじま】と【いつくしま】は併存して使用されるのでしょう。
この話はまた後で。
船体構造があたらしい
番号 | 船名 | 全長 | 学生数 | 最大 搭載人員 |
PL 21 | こじま | 115m | 60名 | 118名 |
PL 22 | みうら | 115m | 60名 | 150名 |
PL 23 | いつく しま | 134m | 100名 | ???? |
PLH ?? | 国際業務 対応・ 練習船 | ?? | ?? | ???? |
【いつくしま】の目新しい点は、
何と言っても通常船橋と【実習船橋】の二重構造になっている点です。
(公財)海上保安協会公式ツイッター 午前11:23 · 2021年7月8日『海上保安新聞』記事掲載画像より
令和2年度補正予算にかかる事業評価結果(令和3年1月)(PDF)『令和2年度 第3次補正予算に係る新規事業採択時 評価結果一覧』より
今までの練習船では、通常の船橋と同じ場所で学生たちの航海実習も行われていました。
しかし【いつくしま】では、実習専用の船橋を別につくることで通常航行と実習訓練の場を分けています。
このことは船体の外観からもハッキリとわかる大きな特徴となっています。
上の図で言うと、
船前方の窓ガラスが並んだ二つのフロアのことです。
上のフロアが船長や航海長が実際の航行指揮を執る通常船橋。
下のフロアが航海科学生や教官が航海実習を行う実習船橋。
このことが【いつくしま】の二重船橋構造とでも言うべき、独特の外観を生み出しているのですね。
そもそも、
これまでの【こじま】【みうら】も、練習船として通常の巡視船よりは余裕ある造りでした。
それでも一つのフロアに通常の乗員と教官と学生が配置され、さらにそこに操舵スタンド・機関操縦盤・レーダー計器が立ち並び、背後にカメラモニターや通信機器が迫ってくると結構せまくなってしまいます。
そう考えると【いつくしま】の二重船橋は、乗員と学生らがそれぞれの作業に集中できるメリットがあると考えられます。
あとはスペースに余裕があると、人影が邪魔で教官の説明が後ろの見学者からは見えづらい…なんてことも解消されるのではないでしょうか。
なお、
海上保安庁公式チャンネルに【みうら】の船内を見学できる動画が掲載されています。
通常の動画とは違って、画面をマウスで上下左右にドラッグすることで360度覗き見ることができるので、船橋のイメージがつかめるかと思います。
(ぜひチャンネル高評価もしてあげてください!)
その他、
機関科・通信科学生用のスペースもあるようなので、効率的な実習が進むものと期待できますね。
対応業務があたらしい
そもそも、
なぜ【いつくしま】は建造されることになったのでしょうか?
まず単純に【こじま】の船齢が30年を超えて、老朽化していることが考えられます。
就役:1993年(H5)3月11日。
その他、
先に掲載した【いつくしま】各区画の説明イラストの出典『巡視船艇整備事業 評価書』での説明によると…
『巡視船艇整備事業評価書』
令和2年度補正予算にかかる事業評価結果(令和3年1月)
大型巡視船(練習船)1隻建造
事業の効果分析
(1)必要性・緊急性
海上保安大学校では、幹部職員を増員するため、平成28年度から、本科学生の採用人数を15名増員し(令和元年度から240人体制)、また特修科研修生についても、平成30年度から75名へ増員している。
これらに加え、令和3年度より「初任科課程」を新設し、30名の研修生(2年間で計60名の研修生が増加)に対し、幹部職員としての必要な学術・技能(海技免状)を教授することとしている。
大型巡視船(練習船)は、海上保安大学校に派遣され、ほぼ周年、学生に対して乗船実習を実施することとなるが、既存の巡視船では、増加する学生・研修生の乗船実習に対応できないことから、早期に施設の拡充を図る必要がある。
一番の理由としては、
乗船実習の対象となる学生・研修生の数が増えたから。
海保大で4年間幹部教育を学ぶ本科。
海保校卒業者が幹部となるための特修科。
一般大卒業者が幹部となるための初任科。
これらの課程の学生・研修生を【こじま】では受け入れることが難しくなってきたことが説明されています。
そしてもう一つ。
『海上保安新聞』2021.7.8の記事では、練習船の「定員が約100人に増えれば、特修科や海外の海上保安機関の研修生らを乗せることができる。」と報じています。
これは海上保安大学校と政策研究大学院大学で行われている海上保安政策プログラムの研修生を指しているのではないかと想像されます。
実際に【いつくしま】の建造が初めて予算要求された際の資料には、
「アジア諸国等の海上保安機関に対する能力向上支援の強化等 国際連携の強化」も謳われています。
『令和3年度 海上保安庁関係 予算決定概要』令和2年12月
を一部加工令和3年度海上保安庁関係予算概要(PDF)
海上保安庁予算の概要|海上保安庁 (mlit.go.jp)
簡単に言えば、
海外からの留学生受け入れを強化していく、ということなのですが。
注目すべきは「練習船の効果的派遣」との記述。
これこそ【いつくしま】が建造されたもう一つの理由だと考えます。
派遣…という言葉から察するに、日本に滞在している留学生への乗船実習のほか、【いつくしま】を海外へ派遣して現地職員の実習も行うのではないでしょうか。
元々、【こじま】は遠洋航海訓練の過程で各地に寄港し、そこで国際親善も行ってきました。
【いつくしま】はさらに発展した国際貢献を果たすのだと期待できますね。
こじまの行方
さて、
新造船【いつくしま】への期待が高まる中、既存船【こじま】は今後どうなるのでしょうか?
それを占うための新情報がまた一つ。
2隻目の新型練習船の建造開始です。
令和4年度補正予算 及び 令和5年度当初予算において新規着⼿する船艇・航空機⼀覧
『令和5年度 海上保安庁関係予算概要』令和5年1月から一部抜粋 令和5年度海上保安庁関係予算概要(PDF)
海上保安庁予算の概要|海上保安庁 (mlit.go.jp)
「海上保安能⼒強化に関する⽅針」に基づく⼤型巡視船・航空機等の整備
海上保安庁予算の概要|海上保安庁 (mlit.go.jp)『令和5年度 海上保安庁関係予算概要』令和5年1月
を一部加工
これは最新の予算要求の中で登場したPLH型練習船です。
そして、イメージ図のモデルになっているのは【PLH41みずほ】(2代目みずほ)のようなので、全長134m・ヘリ2機搭載が可能なタイプではないかと思われます。
特筆すべきはただの練習船でなく、【国際業務対応・練習船】と紹介されている点です。
同船の建造目的としては、
1.新安保戦略を踏まえた海上保安能力の強化
海上保安庁予算の概要|海上保安庁 (mlit.go.jp)
(4) 戦略的な国内外の関係機関との連携・支援能力
警察、防衛省・自衛隊等の関係機関との情報共有・連携体制を一層強化する。
また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法とルールの支配に基づく海洋秩序維持の重要性を各国海上保安機関との間で共有するとともに、外国海上保安機関等との連携・協力や諸外国への海上保安能力向上支援を一層推進する。
…と記述されているので、これに沿った運用がなされるのでしょう。
問題はこれが広島・呉の海上保安大学校に配属されるのかどうか?ということです。
(正確に言うと、呉保安部に所属し海保大に常時派遣される形かどうか)
先に触れた海上保安政策プログラムの留学生などを中心に対応するのであれば、海保大に配属される可能性はあります。
一方で警察、防衛省・自衛隊との連携を重視するのであれば、【横浜】か【鹿児島】に配備されることも考えられます。
話を【こじま】に戻しますと。
【国際業務対応・練習船】が海保大に置かれるなら、【こじま】は解役あるいは他所へ転出。
逆に海保大以外に置かれるなら、【こじま】は当面現在のまま残り続けるような気がします。
そして結局【こじま】の名は今後どのように引き継がれるのでしょうか…?
おわりに
以上、
新型練習船【いつくしま】がもたらす新しさについてご紹介いたしました。
この船は単なる新造船ではなく、幹部候補生の育成の在り方、さらには海上保安庁の国際業務の在り方を変える大きな存在になりそうです。
何はともあれ、
平和な海を守る若きコーストガード隊員を育む”母船”として、【いつくしま】には大いに期待していきましょう。
【参考動画】
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