過去最多の参加を得たCGGSⅣが閉幕しました。会合に参加したCG機関を地域ごとに紹介していきます。
はじめに
これまでのふりかえり
世界海上保安機関長官級会合への参加国・不参加国を取り上げ、俯瞰するシリーズ第5回。
これまで、
アメリカ大陸、オセアニア、中東、アフリカのコーストガード機関をご紹介してきました。
これまでのシリーズで言及した国の数は22ヵ国。
・アメリカ大陸編…9ヵ国
(ジャマイカ、セントクリストファー・ネイビス、トリニダード・トバゴ、コスタリカ、セントビンセント・グレナディーン、コロンビア、エクアドル、チリ、ペルー)
・オセアニア編…4ヵ国
(ミクロネシア連邦・フィジー・ツバル・ソロモン諸島)
・中東編…5ヵ国
(バーレーン・トルコ・イラン・サウジアラビア・イエメン)
・アフリカ編…4ヵ国
(ジブチ・エジプト・ソマリア・セネガル)
これらの国々の中には、
皆さんにとって初めて国名を聞いた国もあったかもしれません。
これまでアメリカ大陸編から始めた旅も半分を過ぎ、改めて世界の広大さが感じられたことでしょう。
イメージの中の”ヨーロッパ”

さて。
今回から取り上げるヨーロッパは私たちにとってもお馴染みの地域です。
まず欧州と言えばイギリス・フランス・ドイツ・イタリア…などの国がすぐ頭に思い浮かぶことでしょう。
これらは日本・アメリカ・カナダとともに先進7か国首脳会議(G7)を構成する国々であり、政治経済上の結びつきも非常に強い関係にありますね。
また、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値観を共有しているのも大事な点です。
趣味・娯楽・文化の面では、
スペイン・ポルトガル・オランダは人気の観光旅行先であり、フィンランド・スウェーデン・ノルウェーなどの北欧の暮らしに憧れる人も多いはず。
ところで。
このように私たち日本人・日本とも馴染みが深いヨーロッパの国々ですが、その国の行政制度や治安維持機関については案外知られていません。
もちろん各国には政府があり、中央省庁があって、警察・消防そして陸海空の軍隊が存在するだろう…という想像はつくと思います。
実際これはその通りなのであって、おおよそのイメージは間違っていません。
(軍隊が存在しない国もある。例:アイスランド)

しかし、
じゃあその国のコーストガード機関は?と聞かれると、急に答えに詰まってしまうと思いませんか?
つまりここで私が言いたいのは、
比較的よく知っているヨーロッパについてさえ、やはりCG機関となると私たちが一般に想像できる範囲外ではないかということ。
考えてみれば、私たちは日本の警察・消防・自衛隊についてはそれなりに知識があり、その知識をある程度日本と均質な西欧諸国に投影して推測できるのです。
ところがCG機関の業務は多岐にわたり、しかも各国によって業務の範囲は様々であるため漠然としています。
そうしたこともあってか、
「ヨーロッパCG機関についてなんとなく知ってるけど、実は詳しくは知らない。」という中途半端な理解度にとどまってしまうのではないかと考えます。
そこで、
これまで大きく地域ごとに取り上げてきたCG機関について、今回からはより詳細に紹介していきます。
私たちがよく知っている国々をCG機関を通じて眺めてみたとき、はたしてどのようなヨーロッパ像が立ち上がってくるでしょうか。
いつものようにまずは地域全体を大きく俯瞰しながら、徐々に個別の国へとクローズアップしていきましょう。
それでは【CGGSで考えるCG機関の分布】シリーズ欧州編の始まりです☆
ヨーロッパCG機関の概要
ヨーロッパの範囲とCGGS参加国
最初にこれまでCGGSに参加したヨーロッパのCG機関の概要を確認してみます。
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アルバニア沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | |||
| 2 | アゼルバイジャン 国家国境庁 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 3 | ベルギー沿岸警備隊 | 調整 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 4 | ボスニア・ヘルツェゴビナ 保安省 | 国境 | 〇 | |||
| 5 | ブルガリア国家国境警備庁 | 国境 | 〇 | |||
| 6 | クロアチア沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | |||
| 7 | キプロス共和国法務省 | 独立 | 〇 | |||
| 8 | デンマーク海軍 | 軍事 | 〇 | |||
| 9 | エストニア警察国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 10 | フィンランド国境警備隊 | 国境 | 〇 | |||
| 11 | フランス海洋事務総局 | 調整 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 12 | ジョージア沿岸警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 13 | ドイツ連邦警察 | 警察 | 〇 | 〇 | ||
| 14 | ギリシャ沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 15 | アイスランド沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 16 | アイルランド沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | |||
| 17 | イタリア沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 18 | ラトビア国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 19 | リトアニア国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 20 | マルタ国軍 | 軍事 | 〇 | 〇 | ||
| 21 | モナコ内務省警察局 | 警察 | 〇 | |||
| 22 | モンテネグロ 海上安全港湾管理局 | 独立 | 〇 | |||
| 23 | オランダ沿岸警備隊 | 調整 | 〇 | 〇 | ||
| 24 | ノルウェー 王立海軍沿岸警備隊 | 軍事 | 〇 | 〇 | ||
| 25 | ポーランド国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 26 | ポルトガル海事局 | 軍事 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 27 | ルーマニア国境警察 | 国境 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 28 | ロシア連邦保安庁 国境警備局 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 29 | スロベニア海事局 | 独立 | 〇 | |||
| 30 | スペイン治安警察 海上業務隊 | 治安 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 31 | ウクライナ国境警備隊 | 国境 | 〇 | 〇 | ||
| 32 | イギリス王立沿岸警備隊 | 独立 | 〇 | 〇 | 〇 |

日本の外務省が定義するヨーロッパの国々は計54ヵ国。
大まかな範囲はユーラシア大陸の西:ポルトガルから、東のカザフスタン、ロシア極東連邦管区まで。
北はデンマーク自治領グリーンランドやアイスランドなど、南はスペイン、イタリア、トルクメニスタンまでとなっています。
その内、32ヵ国が海に面している国で、残り22ヵ国が内陸国。
欧州内陸国…アゼルバイジャン、アルメニア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、アンドラ、オーストリア、北マケドニア、コソボ、サンマリノ、スイス、スロバキア、セルビア、チェコ、バチカン、ハンガリー、ベラルーシ、モルドバ、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク
ただし、世界最大の湖であるカスピ海の沿岸国として、ロシア、イラン(中東国)、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンの5ヵ国があります。
特にアゼルバイジャンは過去4回のCGGSにすべて参加しており、その意味では”カスピ海”も海と同様に扱ってよいかと思います。
以上をまとめると次のとおり。
・欧州の国々 …54ヵ国
・欧州の内陸国 …22ヵ国
・欧州の海洋国家 …32ヵ国
・欧州のカスピ海沿岸国…03ヵ国
・欧州海洋国家+欧州カスピ海沿岸国…35ヵ国
・うち、CGGS参加国 …32ヵ国
端的に言えば、
欧州海洋国家+欧州カスピ海沿岸国の35ヵ国のうちスウェーデン、カザフスタン、トルクメニスタンだけがCGGSへの参加実績がありません。


右:カザフスタン共和国
カザフスタン、トルクメニスタンの不参加は、海洋国家を中心とする会合にそこまでの必要性を感じていないためではないかと考えられます。
しかし、スウェーデンが一度も参加したことがないのはかなり意外です。
同国にはスウェーデン沿岸警備隊が存在し、バルト海やボスニア湾によって隣国と接しているので、イタリアで開催された第4回会合に参加していてもおかしくはないと思うのですが…。
今後、2027年インド開催予定の第5回会合には参加するのか注目です。
参加国の組織形態ごとの分類
改めて、第4回までのCGGSに参加したヨーロッパ諸国は32ヵ国。
これらを組織形態ごとにまとめてみると以下のとおりです。
《独立機関型CG機関》
| № | 参加機関名 | 参加機関 所属組織 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アルバニア沿岸警備隊 | 国防省 | 〇 | |||
| 2 | キプロス共和国法務省 | ― | 〇 | |||
| 3 | ギリシャ沿岸警備隊 | 海運・島嶼政策省 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 4 | アイスランド沿岸警備隊 | 司法省(外務省) | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 5 | アイルランド沿岸警備隊 | 運輸省 | 〇 | |||
| 6 | モンテネグロ 海上安全港湾管理局 | ― | 〇 | |||
| 7 | スロベニア海事局 | インフラ省 | 〇 | |||
| 8 | イギリス王立沿岸警備隊 | 運輸省 海事沿岸警備庁 | 〇 | 〇 | 〇 |
《軍事機関傘下型CG機関》
| № | 参加機関名 | 参加機関 所属組織 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | クロアチア沿岸警備隊 | 国防省 海軍 | 〇 | |||
| 2 | デンマーク海軍 | 国防省 海軍 | 〇 | |||
| 3 | イタリア沿岸警備隊 | 国防省 海軍 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 4 | マルタ国軍 | 内務・安全保障省 | 〇 | 〇 | ||
| 5 | ノルウェー王立海軍 沿岸警備隊 | 国防省 海軍 | 〇 | 〇 | ||
| 6 | ポルトガル海事局 | 国防省 海軍 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
《警察機関傘下型CG機関》
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ドイツ連邦警察 | 連邦内務省 | 〇 | 〇 | ||
| 2 | モナコ内務省警察局 | 内務省 | 〇 |
《調整機関型CG機関》
| № | 参加機関名 | 組織 形態 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ベルギー沿岸警備隊 | 連邦内務省 フランドル地方政府 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 2 | フランス海洋事務総局 | 首相府 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 3 | オランダ沿岸警備隊 | 国防省 | 〇 | 〇 |
《国境警備機関傘下型CG機関》
| № | 参加機関名 | 参加機関 所属組織 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アゼルバイジャン 国家国境庁 | 内務省 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 2 | ボスニア・ヘルツェゴビナ 保安省 | ― | 〇 | |||
| 3 | ブルガリア国家国境警備庁 | 内務省 | 〇 | |||
| 4 | エストニア警察国境警備隊 | 内務省 | 〇 | 〇 | ||
| 5 | フィンランド国境警備隊 | 内務省 | 〇 | |||
| 6 | ジョージア沿岸警備隊 | 内務省 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 7 | ラトビア国境警備隊 | 内務省 | 〇 | 〇 | ||
| 8 | リトアニア国境警備隊 | 内務省 | 〇 | 〇 | ||
| 9 | ポーランド国境警備隊 | 内務省 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 10 | ルーマニア国境警察 | 内務省 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 11 | ロシア連邦保安庁 国境警備局 | 連邦保安庁 | 〇 | 〇 | ||
| 12 | ウクライナ国境警備隊 | 内務省 | 〇 | 〇 |
《治安機関傘下型CG機関》
| № | 参加機関名 | 参加機関 所属組織 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | スペイン治安警察 海上業務隊 | 内務省 | 〇 | 〇 | 〇 |
《まとめ表》
| 組織形態 | 機関数 | 例 |
|---|---|---|
| 独立機関型 | 8 | ギリシャ、イギリス、アイスランド |
| 軍事機関 傘下型 | 6 | イタリア、ポルトガル、 デンマーク、ノルウェー |
| 警察機関 傘下型 | 2 | ドイツ、モナコ |
| 調整機関型 | 3 | フランス、オランダ、ベルギー |
| 国境警備機関 傘下型 | 12 | ロシア、ウクライナ、フィンランド、 エストニア、ラトビア、リトアニア |
| 治安機関 傘下型 | 1 | スペイン |
| 計32 | 日本外務省における欧州国家…54ヵ国 |
まず一見してわかるのは
国境警備機関傘下型CG機関が多いこと。
旧ソビエト社会主義共和国連邦を構成していた15ヵ国の内、CGGSに参加した7ヵ国はすべて【国境型】です。
ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、ウズベキスタン、カザフスタン、ジョージア、アゼルバイジャン、リトアニア、モルドバ、ラトビア、キルギス、タジキスタン、アルメニア、トルクメニスタン、エストニア
その他、北から…
・フィンランド
・ポーランド
・ルーマニア
・ボスニア・ヘルツェゴビナ
(旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の構成国)
・ブルガリア
といった旧ソ連の影響を受けた北欧の国、東欧の国もやはり同様です。
後々、詳しく検討していく予定ですが、ソ連邦の中心存在だったロシアにおける組織形態が他の構成国や周辺国にも模倣された結果ではないかと私は推測します。
他方、
フランス、ベルギー、オランダは調整機関型です。
また、ドイツからは連邦警察がCGGSに出席していますが、国内ではMaritimes Sicherheitszentrum(マリティムズ・ジヒャーハイツゼントルム)が関係機関の船艇・航空機の運用を調整しています。

海上保安センター(日本語訳)
したがって、
実態としてはヨーロッパの調整機関型CG機関は計4つと数えてよいかと思われます。
その他、
独立機関型は8つ、
軍事機関傘下型は6つと数の上では拮抗しています。
そしてスペインのみが治安機関傘下型であり、他地域で同種に分類されるのは中国海警局しかありません。

この組織形態の類似はアジア地域における中国海警局を考察する際に、一つの参考になるものと思われます。
以上、
改めてヨーロッパ全体を眺めてみると、国境警備機関傘下型への偏差が見受けられるものの、それ以外の組織形態も様々存在することが確認できます。
ところで、
しばしばアメリカ沿岸警備隊や中国海警局を意識してか、「いわゆるコーストガードは軍事機関ないしは準軍事機関であるのが世界的には普通。」との意見が散見されます。
しかし、
多くの日本人が想定しているであろう“世界”、すなわち北米とアジア、欧州地域において軍事機関傘下型が一般的であるとまでは言えません。
ヨーロッパにおいては、
旧ソ連の影響を受けた(受けざるを得なかった)国に国境警備機関傘下型が多い…というのがせいぜいだと私は考えます。
加えて、そもそも準軍事機関とは何か?という定義の問題も残されています。
実際に各国の国境警備隊の性格は陸軍の歩兵部隊に近いものから、一般警察に近いものまで多様である点は過去の【中東編】で触れたとおりです。

いずれにせよ、
「世界ではこれが常識だ。」
「諸外国では〇〇なのが標準だ。」などと断定的に語る論説には注意が必要です。
むしろ漠然と共有されているイメージをもって語るのではなく、具体的に一つ一つの事柄を検証していく努力こそが必要ではないでしょうか。
…ということで、
その第一弾としてCGGSⅣの共同議長国となったイタリア共和国のイタリア沿岸警備隊を取り上げます。
日本の海上保安庁とは異なり、海軍傘下にあることが大きな特徴の機関。
はたして両機関は何が違って何が同じなのか?
日本とイタリアとを対比させながら読んでみてください。
イタリアの地理と歴史

イタリアの地理
本題に入る前にまずはイタリアの全体像を押さえておきましょう。
イタリア共和国は地中海に突き出した南欧の国。
“長靴”に例えられる半島の東にアドリア海、西にリグリア海とティレニア海、南にイオニア海という小海域が広がっています。
そして首都ローマの対岸に浮かぶサルデーニャ島と、”長靴”のつま先にあるシチリア島。
ちなみにサルデーニャ島の北にあるコルシカ島(コルス島)はフランスの領土であり、ナポレオン1世の出生地として知られています。
一方、
国土の北側にはアルプス山脈がそびえ、そこにスイスとオーストリアとの山岳国境が引かれています。
その他、
西にフランス、東にスロベニアと陸上国境で接しているのがイタリア共和国です。
イタリアの歴史
そもそも、
地中海(伊:マル・ミディティラーネオ)は「大地の真ん中の海」を意味するラテン語由来の言葉。
ヨーロッパ圏・アジア圏・アフリカ圏を結ぶ地中海交易が古くからここで行われてきました。
古代ローマ帝国の繁栄と衰退の後、イタリア領域は複数の小国に分裂し、各地の都市国家が独自の発展を遂げます。
| 年月日 | できごと |
|---|---|
| 476年 古墳時代 | 西ローマ帝国滅亡。 |
| 1096年 平安時代 | 第1回十字軍(~99年)、 イタリア都市国家が栄える。 |
| 1202年 鎌倉時代 | 第4回十字軍(~04年)、 ヴェネツィア共和国が出港地として栄える。 |
| 1298年 鎌倉時代 | ヴェネツィア共和国マルコ・ポーロ、 この頃『東方見聞録』刊行。 |
| 1380年 室町時代 | ヴェネツィア共和国がジェノヴァ共和国を キオッジャの海戦で破る。 |
| 1492年 室町時代 | ジェノヴァ共和国クリストファー・コロンブス、 スペイン王室の支援の下、サン・サルバドル島に到達。 |
| 1503年 室町時代 | フィレンツェ共和国アメリゴ・ヴェスプッチ、 この頃論文『新大陸』を発表。 |
| 1522年 室町時代 | ポルトガル王国マゼラン一行が世界一周を達成。 |
| 1532年 室町時代 | フィレンツェ共和国ニッコロ・マキャヴェッリ、 『君主論』刊行。 |
| 1585年 安土桃山 時代 | 天正遣欧少年使節、トスカーナ大公国リヴォルノに到着。 ローマ教皇領にて教皇に謁見。 |
| 1633年 寛永10年 | トスカーナ大公国ピサ ガリレオ・ガリレイ、 異端審問で有罪判決。 |
| 1789年 寛政1年 | 仏バスティーユ牢獄襲撃、フランス革命勃発。 |
| 1853年 嘉永6年 | 米ペリー艦隊、浦賀沖に来航。 |
| 1861年 万延2年 | サルデーニャ国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世が 【イタリア王国】成立を宣言。 |
その間、
・十字軍の遠征(11~13世紀)、
・ルネサンス(14~16世紀)、
・大航海時代(15世紀半ば~17世紀半ば)
…などの歴史的な紆余曲折を経た後、
北西部の都市トリノを中心とするサルデーニャ王国が他地域を取り込む形でイタリア王国(レーニョ・ディターリア)が建国されました。
時に1861年(万延2年)3月17日。
日本では第14代将軍徳川家茂の治世、前年の安政7年/万延元年に桜田門外の変が起こった頃のこと。
アメリカでは南北戦争が勃発した年であり、エイブラハム・リンカーンが同年3月4日に大統領に就任。
そんな時代の中、
国内統一を進めたイタリア王国においてヴィットーリオ・エマヌエーレ2世が初代国王として即位しました。
その次の次、
第3代国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の下では、ベニート・ムッソリーニによるファシスト政権が誕生。
第二次世界大戦を経て、
国民投票により王制を廃止して共和制へ移行し、現在のイタリア共和国(レプッブリカ・イタリアーナ)が成立しています。
それが1946年(昭和21年)6月2日のこと、今では共和国の建国記念日となっているのです。
国家元首・中央省庁・軍事機構
イタリアでは王制を廃止した代わりに、間接選挙で選ばれた大統領が国家元首となります。
そして、閣僚評議会(内閣)の長として首相が政府の政策全般を指揮し、実質的に国内を統治しています。


右:ジョルジャ・メローニ首相
イタリア共和国憲法
イタリア共和国上院 – 上院出版物
第87条
共和国大統領は、国家元首であり、国家統一を代表する。(中略)軍隊を指揮し、法律に基づいて設置される国防最高会議の議長を務める。また両院から決定された戦争状態の宣言を行う。
第95条
首相は、政府の政策全般を指揮し、その責任を負う。政策および行政方針の統一性を保障し、国務大臣の職務を支援、調整する。
※当該条文はイタリア共和国上院が出版した日本語版(PDF)を参考とした。ただし、内閣総理大臣を「首相」と翻訳し、その他読みやすさを考慮して一部改変している。
2026年9月現在、イタリア政府は大統領府や首相府の他に15の中央省庁によって構成されています。
内務省、外務省、国防省、経済財政省、農業・食糧・林業省、インフラ運輸省、環境・エネルギー安全保障省、文化省…など。
この内、
内務省が警察行政と消防行政を所管。
・国家警察(ポリツィア・ディ・スタート)
・国家消防隊(コルポ・ナツィオナーレ・デイ・ヴィジリ・デル・フオコ)



右:国家消防隊の紋章
経済財政省には財務警察(グアルディア・ディ・フィナンツァ)が置かれ、先ほどの一般警察とは別の警察機構として機能しています。


一方、
国防省(ミニステロ・デラ・ディフェーザ)は4つの軍種を統制しています。
・陸軍(エゼルチート・イタリアーノ)
・海軍(マリーナ・ミリターレ)
・空軍(アエロナウティカ・ミリターレ)
・憲兵隊(アルマ・デイ・カラビニエリ)



右:イタリア海軍


右:イタリア憲兵隊(カラビニエリ)
余談として、
憲兵隊(カラビニエリ)も司法警察機能を有しており、警察機関の一つとして数えられています。
※カラビニエリを国家治安警察隊と翻訳する例もある。
イタリアの警察制度はおそろしく複雑であり、国家警察・財務警察・憲兵隊・刑務所警察が国家警察機関として存在する一方、それらとは別の指揮系統に属する地方警察機関がさらに2系統存在します。
・県レベル警察 (Polizia provinciale)
・市町村レベル警察(Polizia Municipale)
首都ローマ周辺では県レベルに相当するローマ大都市圏(Città metropolitana di Roma Capitale)という広域自治体が構成されており、その枠組みの中で首都圏ローマ地方警察が機能しています。


話は元に戻って。
2026年6月2日は80周年の節目となる共和国建国記念日でした。
参考として、
マッタレッラ大統領がヴィットーリオ・エマヌエーレ2世記念堂において、無名戦士の墓に月桂冠を捧げる様子をご覧ください。
4分ほどの動画ですが、実に様々な制服を着た兵士たちを垣間見ることができます。
そして壮麗な記念堂と相まって、イタリアという国の歴史と文化の厚みが感じられることでしょう。
≪参考動画≫
私のわかる範囲で解説しておくと…。
大統領を出迎える高身長の男性がグイード・クロセット国防大臣。
音楽を演奏するのは陸軍音楽隊(Banda dell’Esercito)で、最初に流れるのは国歌 “マメーリの賛歌”(通称)です。
白いスーツの女性がメローニ首相。
甲冑姿の兵士は憲兵隊の儀仗部隊コラッツィエリで、大統領警護などの任務に就いています。
その他、セーラー服姿の海軍兵士も確認できます。
動画最後でローマ市街上空を鮮やかな三色のスモークで彩るのは空軍の曲技飛行隊フレッチェ・トリコローリです。
イタリア軍の組織構造
先に説明したようにイタリアの国家元首は大統領であり、憲法87条によって形式上最高の軍事指揮権を有しています。
実質的には閣僚評議会(内閣)の議長である首相に権限があり、その下に国防大臣(文民)が国防省・イタリア軍を指揮監督。
その国防大臣を補佐する存在として、国防参謀長(カポ・ディ・スタート・マッジョーレ・デッラ・ディフェーザ)が置かれ、イタリア軍人トップの地位にあります。
さらにその下に陸軍・海軍・空軍それぞれの参謀長と憲兵隊総司令官が従属しています。

それぞれの軍種は各参謀本部と総司令部によって統制されており、イタリア沿岸警備隊は海軍傘下の機関という位置づけにあります。
参考として日本の防衛機構と比較すると次のとおり。
| イタリア軍 | 日本自衛隊 | |
|---|---|---|
| 国家元首 | 大統領 | 法律上の定めはない |
| 行政府の長 | 首相 | 内閣総理大臣 |
| 国防行政の長 | 国防大臣 (国防省) | 防衛大臣 (防衛省) |
| 国防参謀長 (国防参謀本部) | 統合幕僚長 (統合幕僚監部) | |
| 海軍参謀長 (海軍参謀本部) | 海上幕僚長 (海上幕僚監部) |
《注意》
日本の自衛隊・自衛官について、本サイトでは軍隊・軍人に相当するものとして取り扱っています。
国内法における議論はあるものの、イタリア軍とのカウンターパートであるという点からこの前提で以降も記述しています。
イタリア沿岸警備隊の基本的事項
イタリア沿岸警備隊の正式名称
それではいよいよイタリア沿岸警備隊について本格的にご紹介していきましょう。
Corpo delle Capitanerie di Porto – Guardia Costiera(伊)
Italian Coast Guard(英)
イタリア沿岸警備隊


まず始めにイタリア沿岸警備隊(ITCG)のことはイタリア語で、
Corpo delle Capitanerie di Porto
Guardia Costiera
コルポ・デッレ・カピタネリエ・ディ・ポルト
グアルディア・コスティエラ
…と言います。これを英語に直訳すると、
Corps of the Port Captaincies
Coast Guard
コープス・オブ・ザ・ポート・キャプテンシーズ
コースト・ガード
…となります。
すなわち、
“コルポ・デッレ・カピタネリエ・ディ・ポルト”が国家機構としての本来の公称。
“グアルディア・コスティエラ”は船艇・航空機を運用する実働部隊としての側面を表現した名称です。
これら2つはロゴマークなどで必ず併記されますが、対外的にはグアルディア・コスティエラの方がよく用いられています。

ここで悩ましい点は“Corpo delle Capitanerie di Porto”を2026年直近において公式に日本語訳した文献が見当たらないこと。
海上保安庁が過去に行った先行研究は存在するものの、20年以上前の文献です。(文末に掲載)
ただし、
一般的にキャプテン・オブ・ザ・ポートと言えば港における船舶の出入りを監督する者=港長を指す言葉。

『港則法事務取扱規程』第8条より
昭和24年1月27日付海上保安庁達第7号
したがって本サイトでは“Corpo delle Capitanerie di Porto”について先行研究の表現を参考にしつつ、港長事務をつかさどる公的部署として【港湾監督団】と翻訳したいと思います。
イタリア沿岸警備隊の基礎データ
| イタリア 沿岸警備隊 | 日本 海上保安庁 | |
|---|---|---|
| 総職員数 | 10,488人 (うち有期勤務の兵卒4,997名) | 14,889人 |
| 女性職員割合 女性職員数 | 12% 約1,259人 | 約9.9% 約1,474人 |
| 船艇数 | 584隻 | 475隻 |
| 回転翼機数 | 16機 | 61機 |
| 固定翼機数 | 4機 | 33機 |
| 無操縦者航空機 | 0機 | 5機 |
≪数値出典≫
・イタリア沿岸警備隊『2024年版年次報告書』2025年3月現在
・海上保安庁『海上保安レポート2026』2026年4月1日現在
※海上保安庁女性職員割合は2025年4月1日現在
イタリア沿岸警備隊へのガイダンス
それでは、
ここからITCGのイタリアの軍事機構・中央省庁間における位置づけを検証していきます。
その過程でITCGが担う様々な業務を紹介しつつ、組織の性格を描き出していきたいと思います。
まず最初に押さえておきたい点はITCGは海軍機構の一部であるということ。
もう少し正確に言うと、
国防省や国防参謀本部といった統括管理組織への直属ではなく、自ら艦艇や軍用航空機などの実働勢力を有する組織=イタリア海軍、その一部機関なのです。
したがって、
自組織の上位機関もまた独自の実働勢力を持っているという点で、ITCGは独立機関型ではなく軍事機関傘下型に分類されます。
そして海軍の主要部門である作戦部などからは独立しているため、アンダーネイビー型に再分類することができそうです。
(「アンダーネイビー型」は当サイト管理人独自の造語)

さらにITCGは国防省:海軍に属するのみならず、他の複数の一般行政省庁にまたがって業務を実施しています。
その重層関係を示したものがこちら↓

日本の海上保安庁が国土交通省にのみ属し、基本的には海保単独で業務を完結させているのとは大きく異なっています。
これは単に必要な場面において他機関と協働する、あるいは職員の人事交流を行っているなどといったレベルの話ではありません。
ITCGは同時に複数の省の下部機関である、ということが矛盾なく成立している組織なのです。
これを理解するために各省の組織機構図を参照しながら、その中でITCGがどのように組み込まれているかを見ていきたいと思います。
イタリア海軍におけるITCG
海軍内の位置づけと階級制度
まず最初はイタリア海軍内におけるITCGの位置づけを見ていきましょう。
イタリア軍事法典
Codice dell’ordinamento militare第1巻 組織及び機能 ‐ 第4編 国防行政 ‐ 第3章 海軍
第2節 港湾監督団
第132条
【港湾監督団の設置及び軍事的機能】
1.港湾監督団は、第118条に基づきイタリア海軍に従属し、その枠組みの中で以下の権限を行使する。…2010年3月15日立法令第66号 – ノルマッティーバ(イタリア政府法令データベース)
Art. 132
【Istituzione e funzioni militari del Corpo delle capitanerie di porto】
1.Il Corpo delle capitanerie di porto dipende dalla Marina militare, ai sensi dell’articolo 118 ed esercita, in tale ambito, le seguenti competenze:
上掲の通り、
ITCGはイタリア海軍の管轄下に置かれることが軍組織法に明記されています。
そしてこのことは海軍の組織機構図からも確認できます。
≪イタリア海軍 組織機構図≫

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が必要部分を日本語訳した
原典:『2024年における軍規及び組織現状報告書』pdf版p18
上掲の機構図の通り、
ITCGは海軍参謀長(カポ・ディ・スタト・マッジョーレ・デッラ・マリーナ・ミリターレ)に直属することが示されています。
なお、ITCG長官のことは、
“Comandante generale del Corpo delle capitanerie di porto”(コマンダンテ・ジェネラーレ・デル・コルポ・デッレ・カピタネリエ・ディ・ポルト)と言います。


右:セルジオ・リアルド第41代ITCG長官(中将)
特徴的なのは、
ITCGは海軍の主要部門である作戦部・兵站部・訓練部とは一線を画していること。
また、海軍参謀長(特任中将)の下で艦隊司令官・兵站司令官・学校司令官と並んでITCG長官も海軍中将の階級をもって充てられています。
ここで、
補助知識としてイタリア海軍士官の階級制度をご紹介しておきます。
| 階級 | イタリア海軍 | イタリア沿岸警備隊 | 海上自衛隊 |
|---|---|---|---|
| 大将 | Ammiraglio アミラーリョ (国防参謀長) | 統合幕僚長たる海将 統合司令官たる海将 | |
| 特任 中将 | Ammiraglio di squadra con incarichi speciali アミラーリョ・ディ・スクアドラ・ コン・インカリキ・スペチャーリ (海軍参謀長) | 海上幕僚長たる海将 | |
| 中将 | Ammiraglio di squadra アミラーリョ・ディ・スクアドラ (艦隊司令官など) | Ammiraglio Ispettore Capo アミラーリョ・イスペトーレ・カポ (ITCG長官) | 海将 |
| 少将 | Ammiraglio di divisione アミラーリョ・ディ・ディヴィジオーネ (水陸両用部隊司令など) | Ammiraglio Ispettore アミラーリョ・イスペトーレ (ITCG副長官) | 海将補 |
| 准将 | Contrammiraglio(CA) コントラミラーリョ | Contrammiraglio (ITCG本部部長など) | |
| 大佐 | Capitano di Vascello(CV) カピターノ・ディ・ヴァッシェロ | Capitano di Vascello | 1等海佐 |
| 中佐 | Capitano di Fregata(CF) カピターノ・ディ・フレガータ | Capitano di Fregata | 2等海佐 |
| 少佐 | Capitano di Corvetta(CC) カピターノ・ディ・コルベッタ | Capitano di Corvetta | 3等海佐 |
| 大尉 | Tenente di Vascello(TV) テネンテ・ディ・ヴァッシェロ | Tenente di Vascello | 1等海尉 |
| 中尉 | Sottotenente di Vascello(SV) ソットテネンテ・ディ・ヴァッシェロ | Sottotenente di Vascello | 2等海尉 |
| 少尉 | Guardiamarina(GM) グアルディアマリーナ | Guardiamarina | 3等海尉 |
そもそもITCG職員は海軍軍人であり、海軍の階級を有しています。
ただし、長官と副長官の階級名称については少し独特のものとなっています。
例えば、
【アミラーリョ・イスペトーレ・カポ】は、
【チーフ・インスペクター・アドミラル】、
“首席執行官提督”とでも訳される階級名称で、これがITCG長官に与えられているのです。

将官階級の肩章・袖章
左から中将、少将、准将
この階級は他にも海軍参謀本部の造船士官や医療部隊の部隊長(医官)にも与えられており、専門分野・特殊技術部隊の長に対する階級名称であることが窺えます。
これに対して、
他の艦隊司令官・兵站司令官・学校司令官に対する階級【アミラーリョ・ディ・スクアドラ】は直訳すれば“艦隊提督”というほどの意味。
いずれも中将に相当する階級ですが、その名称から両者のニュアンスの違いが窺えます。
ITCGの長官人事
次にITCG長官の人選について。
イタリア軍事法典
第133条【港湾監督団長官】
1.港湾監督団の長は、国防大臣の提案に基づき、国防参謀長およびインフラ運輸大臣と協議の上、閣僚評議会の決議を経て、共和国大統領の布告により、港湾監督団の正規士官のうち、アミラーリョ・イスペトーレ(少将)の階級を有する者の中から任命される。3.港湾監督団長官は、部門の長として、部門における技術的・軍事的側面に関して海軍参謀長に従う。
2010年3月15日立法令第66号 – ノルマッティーバ
長官はITCG正規士官の内、少将(アミラーリョ・イスペトーレ)の階級を有する者から選ばれますが、同階級者は副長官一人しかいません。
したがって副長官に任命された時点で次期長官の地位が予定していることになります。
事実、現長官であるセルジオ・リアルド長官も副長官職からの繰り上げによって就任しています。
それはさておき、
手続き上は国防大臣が国防参謀長とインフラ運輸大臣との協議の上で、閣僚評議会(閣議)に提案し決定されます。
注目すべきは、長官任命に至るプロセスにインフラ運輸大臣との協議が加えられていること。
後述するようにITCGはインフラ運輸省とも強い関わりを持っているため、他の将官とは異なる人事プロセスになっているものと考えられます。
こうして任命された長官が船艇・航空機などの技術的側面や軍事的側面に関して海軍参謀長に直属しているというわけです。
それでは参考としてITCG長官交代式の様子をご覧ください。
《参考動画》38:45~42:45
↑上掲は2025年9月23日に行われた二コラ・カルローネ長官からセルジオ・リアルド長官への交代式典の様子。
相対する新旧長官の抜剣による儀式の後、前長官の中将旗が降ろされ、次に新長官の中将旗が掲揚されてその就任が宣明


右:海軍中将旗(Wikipediaより)
ITCG士官の人材育成
ITCG士官となるための一般的なキャリアコースは、17歳から22歳の間にリヴォルノ海軍兵学校(士官学校)に入校すること。
同校の本科において5年間の修学期間を積むことになります。
まず基礎教育期間である3年間を経た後、3学年次の終了時点で今後の進路を選択。
そこで2年間の港湾監督団コースに進み、航行安全、司法警察業務、水産、海洋環境、外国語、航空機・船艇運用に関する専門課程を履修。
その他、法学に関する専門教育を受けて、最終的にはピサ大学にて法学修士号が授与されます。
(斜塔で有名なピサとリヴォルノは隣接する都市)
すなわちITCG士官は、海軍軍人としての土台の上に法執行官としての教育を受けているのです。
≪参考動画≫
ITCGの軍事的任務ほか
それでは次にITCGに与えられた4つの軍事的任務について大まかに確認していきます。
イタリア軍事法典 第132条第2項
港湾監督団-沿岸警備隊は、特に国軍の枠組みの中で、以下の活動に貢献する。
a) 国家防衛の確保
b) 国際平和と安全保障の実現
c) 航海用刊行物に関する国立地図作製機関(海軍水路研究所)への支援
d) 規定の海上要員、港湾、軍事施設、商船の護衛に関する軍事任務、および海軍に割り当てられたその他の任務の遂行
2010年3月15日立法令第66号 – ノルマッティーバ
国防確保任務
まずITCGの任務の筆頭に挙げられているのは国防の確保について。
そのタイトルだけを読めばいかにも軍事機関らしさを感じるのですが、詳細規定を読むと少し違った印象となります。
a) 以下の手段による国家防衛の確保:
1) 海軍部隊および軍事的に重要な施設の防護。
2) 沿岸海域の哨戒および監視。
3) 海軍の指揮機関が存在しない港湾における、自国およびNATO海軍部隊への兵站支援。
4) 海軍の地域上級司令部からの委任に基づく、軍駐屯地機能の行使。
5) 海軍訓練センターでの活動や航空・海上合同演習への人員および装備の参加。
6) 本来の任務要件を優先しつつ、水中作戦部隊を支援すること。
ITCGは、イタリア海軍作戦部のように戦闘の前線に立って海上防衛を担う存在ではありません。
全般的には作戦部や兵站部への支援・補助的な役割が期待されていることがわかります。
国際平和と安全保障の実現
2番目に挙げられているのは国際業務について。
b) 以下の手段による国際的な平和と安全保障の実現:
1) 権限ある国際機関が命じた禁輸措置任務(商船の監視および検査を含む)への参加。
2) 国際協定に基づく、第三国の沿岸及び内水域を対象とする海上監視活動への参加。
3) 港湾業務および海上輸送の再構築(riorganizzazione)に関する、国際的な阻止活動および平和構築活動の実施。
4) 外国海軍の乗組員に対する訓練。
言うまでもなくイタリアは国連加盟国であり、
北大西洋条約機構(NATO)および
欧州連合(EU)の原加盟国でもあるため、特に国際的枠組みを重視しています。
その基本姿勢は憲法第11条に示されており、具体的なITCGの任務にも国際協調の精神が反映されているものと考えられます。
イタリア共和国憲法
イタリア共和国上院 – 上院出版物
第11条
イタリアは,他国民の自由を侵害する手段および国際紛争の解決手段としての戦争を否認する。他国と同等の条件において、国家間の平和と正義を保障する制度に必要とされる主権の制限に同意する。平和と正義の保障を目的とした国際機関を振興し、支援する。
※イタリア共和国憲法日本語版(PDF)
北大西洋条約(North Atlantic Treaty)
有斐閣『国際条約集2024年版』2024.3.21 p705
第1条【紛争の平和的解決と武力行使の禁止】
締約国は、国際連合憲章に規定するように、それぞれが関係する国際紛争を平和的手段によって国際の平和と安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びに国際関係において、国際連合の目的と両立しない方法による武力による威嚇又は武力の行使を慎むことを約束する。
第2条【国際協力】
締約国は、その自由な諸制度を強化すること、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進すること、並びに安定及び福利の条件を促進することによって、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策における対立を除去することに努め、また、いずれかの又はすべての締約国の間の経済協力を奨励する。
欧州連合条約(Treaty on European Union)
有斐閣『国際条約集2024年版』2024.3.21 p58
第5編 連合の対外行動に関する一般規定及び共通外交安全保障政策に関する特別規定
第2章 共通外交安全保障政策に関する特別規定
第2節 共通安全保障防衛政策に関する規定
第42条【共通安全保障防衛政策】第1項
共通安全保障防衛政策は、共通外交安全保障政策の不可欠の一部である。共通安全保障防衛政策は、連合に非軍事的及び軍事的手段に基づく作戦実行能力を提供する。連合は、国際連合憲章の諸原則に従い平和維持、紛争予防及び国際安全保障の強化のための連合外の任務のためにそれらを利用することができる。これらの任務の遂行は、加盟国により提供される能力を用いてなされる。
海軍水路研究所への支援
3番目の任務は海図作製に関する支援について。
c) 航海用文書に関して、国家地図作製機関(IIMM)を支援すること。
IIMMとは海軍水路研究所(Istituto Idrografico della Marina Militare)のことで、イタリアにおける地図作製機関の一つに指定されています。

イタリアではこの海軍水路研究所が海図作製を行っています。
そして海図作製の基礎となる水路測量に対する支援もITCGの任務となっています。
さらに余談として、
イタリアは海軍兵站部灯台信号局がインフラ運輸省との協力により各地の灯台などを維持管理しています。

比較として、
こうした海図作製や灯台管理について日本ではすべて海上保安庁が一元的に所管しています。
戦前、
海図作製については日本海軍の水路部が担っていましたが、燈台の管理は逓信省等が所管していました。
それらが戦後の海上保安庁発足とともに移管されて現在に至っている、という違いがあります。
護衛任務その他の任務
最後に海事・軍事関連の護衛任務、その他について。
d) 規定の海上要員、港湾、軍事施設、商船の護衛に関する軍事任務、および海軍に割り当てられたその他の任務の遂行
ITCGに限らずイタリア海軍は実に幅広い社会活動を展開しています。
例えばイタリア海軍の公式HPを参照すると次のような活動が列挙されています。
・水中遺跡や沈没船の位置特定と調査
・不発弾処理、森林火災消火活動の支援
・海洋マイクロプラスチックの分布監視活動
・北極圏や地球物地学などの科学研究への支援
・海底火山の監視・観測
・海事思想の普及、海洋生物多様性保護の促進
・障害のある人や社会的困難を抱える人々へのセーリングや水泳の訓練
これらを日本と比較してみると、例えば海上自衛隊も機雷掃海などの不発弾処理や災害派遣、海難救助、南極調査に従事しています。
しかし、海底火山の監視等は気象庁、海洋マイクロプラスチック問題や生物多様性保護は環境省の所管事項です。
ひるがえって、イタリア海軍は単に”軍事機関”という範疇にとどまらず、民間社会・一般行政分野への密接な関係を持っていることが窺えます。
こうした特性について海軍公式HPでは【二重かつ補完的な利用】という言葉で説明されています。
イタリア語:impiego duale e complementare
英語:Dual Use (nonmilitary activities performed by the Italian Navy)
これはイタリア海軍の技術や部隊は軍事・非軍事両方の場面に利用されることを意味するもの。
特に船舶はその性質上、自己完結性、機動性、行動の柔軟性を備えており、船内システムや装備を変更することなく、広範な援助やサービスが提供可能です。
…こうしたメリットを活かしつつ、必要とされる場面において海軍のリソースが投入されることが本来的に予定されているというわけです。
(イタリア海軍HP英語版も参照のこと)
さて、
次章以降でも引き続きご紹介しますが、ITCGは実に多様な業務を請け負っています。
しかし、それはITCGだけの特徴ではなく、母体であるイタリア海軍そのものが多面的な機能を有していることの一端と捉えるべきでしょう。
海上保安庁と海上自衛隊、
ITCGとイタリア海軍との関係性を考察するとき、この違いを見落としてはならないと私は考えます。
運輸インフラ省におけるITCG
それではここから一般行政組織(=非軍事機関)としてのITCGの位置づけを見ていきます。
まず、ITCG公式HPで紹介されている業務内容からいくつかを抽出すると次のとおり。
①海難救助
②自国船舶及び外国船舶に対する検査
③海上・港湾における治安維持活動
④小型船舶操縦免許の認定
⑤海洋環境の保護
⑥漁業資源の監督
⑦海上交通の保護
⑧港湾の指揮・保安
⑨海洋レジャーに関する規制・監督
それ以外にも特殊なものとして、
・海上交通警察活動
・違法薬物対策
・不法移民対策
・水中文化財の保護
…が挙げられています。
こうした業務の根拠は『イタリア軍事法典』第134条~第137条に規定されています。
第134条
インフラ運輸省の管轄下における職務の遂行
第135条
環境・国土・海洋省の管轄下における職務の遂行
→環境・エネルギー安全保障省に省名変更
第136条
農業・食糧・林業省の管轄下における職務の遂行
第137条
他省庁の管轄下における職務の遂行
加えて、
各省側の設置法にもITCGの活動根拠規定があり、とりわけ中心的な3つの省庁においてはITCGの存在が自組織の一部として組み込まれています。
そのことを省庁側の組織機構図を参照しながら確認していきましょう。
まずは最も密接に結びついているインフラ運輸省における業務について。
インフラ運輸省 組織図
≪組織機構図①≫
大臣直属部門ほか

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が日本語訳した
≪組織機構図②≫
業務実施部門

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が日本語訳した
特徴①位置づけと所在地
インフラ運輸省は日本の国土交通省に相当する省庁です。
同省の組織機構図①ではインフラ運輸大臣の下に副大臣・次官が並び、さらにITCG本部たる総司令部(コマンド・ジェネラーレ)の存在も明示されています。
したがってITCGは海軍組織であると同時にインフラ運輸省の組織であることが、視覚的にも理解できるかと思います。
そして日々の業務は、組織機構図②にある【運輸航海局】と連携を図りながら実施されています。
こうした省内における関係性は、日本の海上保安庁が国土交通省の内部部局【海事局】と連携しているのによく似ています。
なお、
総司令部はインフラ運輸省の本庁舎ではなく分庁舎に入居しています。


この分庁舎は首都ローマ郊外に所在しており、国防省や海軍参謀本部とも異なる場所をITCGが拠点としていることが一つの特徴なのです。
これもまたITCGが海軍主要部門とは一線を画していることの象徴だと考えられます。
≪ITCG関係機関位置図≫

ITCG本部の組織機構図

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が日本語訳した
改めて、
ITCG本部は中将たる長官によって率いられ、その下に少将たる副長官が仕えています。
その配下の第1部~第7部の部長職は准将が務め、さらにその下の課長職を大佐が担っています。
注目してほしいのが、
右下の【海洋環境部】と【漁政部】について。
この2つの部署はITCG本部庁舎ではなく、それぞれ環境・エネルギー安全保障省と農業・食糧・林業省内にオフィスを構えている飛び地的存在となっています。
これらについては各省の解説において後述します。
特徴②業務概要
ITCGはインフラ運輸省の管轄下において11の業務を担当しています。
≪インフラ運輸省におけるITCG業務≫
抄訳
①海難救助調整センター(MRCC)としての海上捜索救助
②船舶交通サービス(Vessel Traffic Services)
③欧州海事ワンストップサービス環境の調整
④航行安全および海上輸送分野における権限行使
⑤国内外の関係機関との連携
⑥海事関係者への訓練および教育訓練機関の認証
⑦海事部署の活動、組織、および検査の調整
⑧海事利用者のための技術的規則の策定
⑨沿岸警備隊員の配置、および海事関連部署における人員配置の承認
⑩沿岸警備隊員の専門的訓練および関連資格の発行
⑪船舶及び港湾施設の保安に関する運用の監督および管理
出典:インフラ運輸省HP
根拠法令:『2023年10月30日付政令第186号』第14条
(当該インフラ運輸省設置令の第4章において規定されている。)
これらの内、筆頭として挙げられているのが、海難救助調整センター(Maritime Rescue Coordination Centre)業務。
“海難救助調整センター(MRCC)”とはSAR条約(1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約)に基づいて、締約国内に設置することになっている海難通報部署のことです。
※ドイツのハンブルクで採択されたため、イタリアではハンブルク条約と呼ばれている。
その統一的呼称が”MRCC”であり、具体的な部署の名称は各国で異なります。
イタリアの場合は【Centro Operativo Nazionale della Guardia Costiera】(チェントロ・オペラティボ・ナツィオナーレ・デッラ・グアルディア・コスティエラ)と言い、端的に「沿岸警備隊オペレーションセンター」と翻訳できます。

ITCG公式フェイスブックより

将来的にはEU共通の緊急電話番号「#112」に統合予定。
ITCG本部のオペレーションセンターが中央指揮所として機能する他、地方組織にはサブセンターが置かれています。
例えばトスカーナ州のリヴォルノ港湾監督事務局(Capitaneria di porto di Livorno)は2012年1月13に発生したクルーズ船コスタ・コンコルディア号座礁事故に対応しました。
この座礁事故の中で特に有名なのが、
乗客よりも先に船外へ脱出した船長に対してリヴォルノ・サブセンター指揮官が船に戻るよう一喝したエピソード。
“Vada a bordo, cazzo!”(ヴァダ ボルド,カッツォ!)「早く船に乗れ、くそったれ!」という激しい叱責の言葉は当時イタリアで流行語になったほどです。
この一幕について日本の一部報道では「地元の港湾当局が~」などと報じられましたが、実はITCGのことを指していたのです。
話を元に戻すと、
以上のような海難救助がITCGの中心的かつ重要業務として位置づけられています。
この点は日本の海上保安庁と同じであり、海難救助に関する通報を引き受けて、自組織の船艇・航空機を現場に派遣する体制が整っている点も同様です。
≪参考動画≫
環境・エネルギー安全保障省
≪組織機構図≫

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が適宜日本語訳した

カッコ内は管理人が独自に日本語訳を付したもの
環境・エネルギー安全保障省は日本の環境省と経済産業省・資源エネルギー庁に相当する省庁。
同省の組織機構図では省略されていますが、支援組織の一つとしてITCGの海洋環境部(RAM)が省内に設置されています。

この海洋環境部長はITCG大佐が務め、その下の3課の課長も中佐によって構成された組織。
2026年9月現在…アッティリオ・マリア・ダコント大佐

佐官階級の肩章・袖章
左から大佐、中佐、少佐
先述したとおり、ここはITCGの飛び地的な部署であり、海洋環境保護行政を通じて同省に深く関わっているのです。
それに加えて、
同省の内部部局である【生物多様性・海洋保護部】(TBM)の部長職も准将が務めています。
※2026年9月現在…フランチェスコ・トーマス准将
“准将”に相当する階級は日本の海上自衛隊や海上保安庁にはありませんが、おおむね海将補あるいは一等海上保安監・乙あたりに位置する高級幹部と捉えてよいでしょう。
なお、
両部にまたがる業務を抽出すると次のとおり。
・陸上、海上、港湾における廃棄物処理過程の監視
・船舶からの大気汚染物質の排出の監視
・マルポール条約その他の国際条約およびEU法に基づく海洋環境の監視と保護
・有害物質による汚染の防止、海上および港湾地域の環境安全の促進


ひるがえって海上保安庁でも『海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律』を環境省と共管しており、海洋環境の保護は主要な業務の一つ。
しかし、
私が調べた限り環境省:水・大気環境局 海洋環境課などの管理職に海上保安官が就任した例は見当たりませんでした。
ましてや海上自衛隊の海将補が環境省に出向している例など無いのではと推測します。
以上、
こうした人事配置の点からも、ITCGは海上保安庁よりも深く環境行政機構に組み込まれていると評価できます。
農業・食糧・林業省
≪組織機構図≫

日本語訳版(管理人独自作成)
Google翻訳を元に管理人が日本語訳した
農業・食糧・林業省は日本の農林水産省・林野庁・水産庁に相当する省庁。
大臣に直属する形で【港湾監督団漁政部】が置かれ、同部長職はITCG大佐が務めています。
※2026年9月現在…マウロ・コラロッシ大佐
さらにその下に置かれる3課の課長職も大佐~中佐で占められているのが特徴。
他方、
内部部局の一つに水産行政を所管する【海洋漁業・養殖部】(PEMAC)がありますが、これとは別にITCGが同省に組み込まれているのです。
そして、
そもそもITCG総司令部がEU加盟国に必置義務のある【国家漁業管理センター】(チェントロ・コントローロ・ナツィオナーレ・ペスカ)としての機能を兼務しています。
したがって【港湾監督団漁政部】はITCG本部と農業・食糧・林業省とを結ぶ中継オフィスといった立ち位置となります。


≪業務内容≫一部抜粋
・違法漁業対策に関する監視・管理活動等の実施に関する技術支援
・国家漁業管理センターとの連携
・違法漁業対策に関する統計データの収集
・海洋漁業および養殖業の保護、水産物の市場拡大の啓発活動
港湾監督団漁政部は、日本で言えば水産庁・漁業取締本部に相当しますが、こちらは農林水産省及び水産庁職員によって構成される組織です。
そして海上保安庁と水産庁は密接に連携協力する関係であるものの、海上保安庁が水産行政の主体でないことは周知のとおりです。
逆に言えば、
イタリアでは海軍軍人が水産行政にも深く関わっており、それが違和感なく国民に受け止められているということです。
最後に、
【カラビニエリ森林・環境・農産物保護司令部】についてもご紹介しておきましょう。
これはイタリア軍・憲兵隊の専門部隊の一つで、農業・食糧・林業省と環境・エネルギー安全保障省の両方に組み込まれた組織です。


ここで強調したいのは、
軍事機関を母体とする実働部隊が一般行政に関与している例は、ITCGに限ったものではないということ。
むしろ、こうした軍事・非軍事の境界が曖昧なケースが多く見られる点がイタリアの特徴なのです。
かえりみて、
日本人が「コーストガードは軍事機関の傘下にあるのが普通」などと言った場合に、果たしてそこで想定している”軍事機関”が、本当にその国の実態に即しているかは疑ってかかるべきです。
特に現代日本における自衛隊の在り様を念頭にして、海上保安庁と他国の軍事機関傘下型CG機関を論じようとするときに大きな落とし穴が待っている。
…このことをイタリアの行政機構の例から学べるのではないかと私は考えます。
ITCGの司法警察権について
ITCGと海上保安庁の比較
ここまでITCGの海難救助・環境保護・漁業資源監督といった一般行政への関わりについて見てきました。
しかし、海上犯罪に対する司法警察活動(犯罪の捜査・犯人の逮捕など)について各省業務で触れられていない点にお気づきでしょうか?
実を言えば、
ITCGは日本の海上保安庁に比べてかなり限定された形での司法警察権を有しています。
その説明の前に、
まずは海上保安庁の場合を理解しておく必要があります。
そもそも日本の刑事訴訟法において「犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査する」存在として司法警察職員の概念が規定されています。
その上で、海上保安庁法において海上保安官は司法警察職員であることが示されているのです。
刑事訴訟法(日本)
刑事訴訟法 | e-Gov 法令検索
第189条
1.警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。
2.司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
第190条
森林、鉄道その他特別の事項について司法警察職員として職務を行うべき者及びその職務の範囲は、別に法律でこれを定める。
補足:司法警察職員は刑訴法第39条第3項によって、さらに司法警察員と司法巡査に分類される。
⇩
海上保安庁法
海上保安庁法 | e-Gov 法令検索
第2条第1項
1.海上保安庁は、法令の海上における励行、海難救助、海洋汚染等の防止、海上における船舶の航行の秩序の維持、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに附帯する事項に関する事務を行うことにより、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする。
第31条
海上保安官及び海上保安官補は、海上における犯罪について、海上保安庁長官の定めるところにより、刑事訴訟法の規定による司法警察職員として職務を行う。
こうした海上保安庁の司法警察活動の特徴は大きく2つあります。
第一に「海上における犯罪」とは、海上において行われまたは海上で始まりもしくは海上に及んだ犯罪を指すこと。
(出典:昭和46年9月17日付保警一第104号『警察庁と海上保安庁との犯罪捜査に関する協定の締結について(依命通達)』別添2 第1【海上犯罪の意義】)
・海上で始まり、終わった犯罪
・海上で始まり、陸上に及んだ犯罪
・陸上で始まり、海上に及んだ犯罪
第二に海上保安官は刑法に基づく一般犯罪(例:殺人・強盗・傷害・窃盗・往来妨害)を捜査できること。
加えて個別法(例:港則法・海上交通安全法・漁業法・関税法)の違反についても、特段の権限付与が規定されていなくとも捜査できます。
すなわち海上という場所的制約を除けば、海上保安庁は犯罪の種類を問わず広く捜査に当たる権限が与えられているのです。
さて。
これに対してITCGは犯罪の種類と犯罪発生場所に関する複合的な制約を受けた司法警察機関です。
イタリア刑事訴訟法
DECRETO DEL PRESIDENTE DELLA REPUBBLICA 22 settembre 1988, n. 447 – Normattiva
第57条【司法警察員及び司法巡査】
1.特別法の規定に従い、司法警察員とは、次の者をいう。
a) 国家警察のディリジェンティ、コミッサリ、イスペトーリ、ソヴリンテンデンティおよびその他公安行政規則により当該地位を付与された国家警察の職員
b) 憲兵隊、財務警察、刑務官及び国家森林警備隊の士官および下士官、ならびに各所属機関の規則により当該地位を付与されたその他の職員
c) 国家警察の署所、またはカラビニエリもしくは財務警察の指揮所が置かれていない市町村の長
2.司法巡査とは、次の者をいう。
a) 公安行政規則により当該地位を付与された国家警察の職員
b) 憲兵隊および財務警察の職員、刑務官、森林警備員、ならびに職務執行中の県及び市町村の警察官(ただし、その所属機関の管轄区域内に限る)
3.法第55条【司法警察の機能】に定める職務を付与された者も、その割り当てられた業務の範囲内およびそれぞれの職務に従い、司法警察員および司法巡査とみなされる。
補足:イタリア国家警察の詳細な階級制度は23階級制。日本警察の地位・役職を含めた11階級制に強引に当てはめれば次のとおり。
・ディリジェンティ(Dirigenti)…警察庁長官・警視総監・警視監・警視長
・コミッサリ(Commissari)…警視正・警視
・イスペトーリ(Ispettori)…警部・警部補
・ソヴリンテンデンティ(Sovrintendenti)…巡査部長
・アジェンティ(Agenti)…巡査長・巡査
⇩
イタリア航海・航空法
第1235条【司法警察員および司法巡査】
REGIO DECRETO 30 marzo 1942, n. 327 – Normattiva
1.刑事訴訟法第221条【専門員の任命】の適用上、以下の者を司法警察員とする。
港湾監督局の指揮官および士官、港湾業務名簿に記載された海軍部隊の士官、およびこれに属する下士官、空港長およびその代務者、ならびに臨時飛行場の管理者。
ただし、本法に規定する犯罪、並びに港湾又は空港において発生した一般犯罪について、当該場所に公安機関が存在しない場合において、司法警察官の職務を遂行する。
4.(略)警備または監視の任務に就いている港湾当局または国営・民間空港の職員もまた、司法巡査の職務を遂行する。
ITCGは、個別法の中で権限の付与が規定されている場合に、その法令の違反について捜査することができます。
逆に言えば、権限が付与されていなければ捜査に当たることができません。
加えて港湾または空港における一般犯罪について、その発生場所に他の司法警察機関(国家警察・財務警察・憲兵隊など)が不在である場合に限って捜査できます。
言い換えれば、
ITCGは司法警察機関ではあるものの、法的にはその対象領域・行動範囲がかなり限定された存在であるということです。
| 日本海上保安庁 | イタリア沿岸警備隊 | |
|---|---|---|
| 刑 法 犯 | ・海上で始まり、終わった犯罪 ・海上で始まり、陸上に及んだ犯罪 ・陸上で始まり、海上に及んだ犯罪 …であれば捜査可能 | 港湾・空港において発生した 一般犯罪であれば捜査可能 ※他の司法警察機関が 不在の場合に限る |
| 個 別 法 違 反 | 個別の権限付与規定が なくとも捜査可能 | 個別の権限付与規定が なければ捜査不能 |
≪その他の個別法≫
・『海洋保護規定(海洋汚染防止法)』第23条
・『環境規則』第132条【代執行】、第195条【国家権限】第5項
・『漁業及び養殖に関する法制の再編措置規程』第22条【監督及び管理】第3項、第6項
財務警察との競合
それでは結局イタリアにおける海上における刑法犯への対応主体は一体どこなのでしょうか?
これは既に度々名前が挙がっている財務警察(グアルディア・ディ・フィナンツァ)となります。
元々、海上治安の維持・海上犯罪の捜査は国家警察と憲兵隊(カラビニエリ)とで分担していたものの、一連の法改正により2017年1月1日以降は財務警察に集約されました。
財務警察は金融犯罪や密貿易を主として取り扱う組織であり、ここに海上における刑法犯(一般犯罪)への取締まり機能が加わった形です。
同組織は一見すると日本の財務省・税関部門に似ており、独自の船艇を有する点では共通。
しかし、日本の税関職員はけん銃などの武器を携帯しておらず、司法警察職員としては数えられていません。
(※関税法第104条において武器の携帯及び使用が認められているが、実際には保有していない)
例えるならば、
イタリア財務警察は、税関に陸上警察と海上警察の機能が足されたような、大規模かつ強力な組織。
その一方、
ITCGは海上における刑法犯(一般犯罪)を専門的に扱う組織ではないため、「海の警察」といった表現はされていないのです。

ITCGの歴史
イタリア王国の成立
それでは最後にITCGの歴史をふり返ってみます。
まず2025年7月20日はITCG創立160周年となる記念の年でした。

遡ること160年前、
1865年に「港湾監督団」という名称の海事組織が生まれ、様々な変遷はありながら組織的アイデンティティーを保ったまま現代のITCGに結びついています。
誕生のきっかけはイタリアの国内統一が進んだこと。
逆に言えば、
それ以前はヴェネツィアやジェノヴァ、ピサ、ナポリ、ミラノ、フィレンツェといった小国家が分立している状態が長く続いていたのです。
したがって、
それぞれの国において都市が栄え、多数の船舶が出入りする港湾が整備され、独自の前近代的”海軍”を各個に擁していました。
そんな小国同士が併合と分裂を繰り返し、スペインやフランスの支配を経て、ようやく国内をまとめる立憲君主制国家イタリア王国が建国されたのが1861年のことでした。
そして、その4年後。
1865年7月20日、
初代国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世が港湾監督団の設立文書に署名。
これにより各地で分立していた海事規則が一本化され、ここから港湾監督団の歴史が始まります。

ITCG公式HP『歴史アルバム』pdf版p5より
| 年月日 | できごと |
|---|---|
| 1861年 万延2年 | 03月17日: 立憲君主制国家【イタリア王国】の成立宣言。 |
| 1865年 慶応1年 | 07月20日:港湾監督団(Corpo delle Capitanerie di Porto)創設。 海軍省の管理を受ける準軍事的編成による文民組織として出発。 |
| 1910年 明治43年 | 12月08日:港湾監察局(Ispettorato del Corpo delle Capitanerie di Porto)として改組。 翌年2月より初代監察総監フランチェスコ・マッツィンギ就任。 |
| 1914年 大正3年 | 6月28日:サラエヴォ事件発生。 7月28日:第一次世界大戦始まる(~1918.11.11)。 |
| 1915年 大正4年 | 05月24日、イタリア王国、 三国協商(英仏露)側にて参戦。 |
| 1918年 大正7年 | 02月03日:港湾監察局の戦時軍事化。 職員に軍階級が与えられる。 |
| 1919年 大正8年 | 11月27日:正式に軍事組織化されると同時に、 民間商船関係省庁の監督下にも置かれる。 |
| 1922年 大正11年 | 10月31日:ムッソリーニ内閣成立。 (~1943年7月25日) |
| 1923年 大正12年 | 09月10日:王立海軍の一部となる。 |
| 1937年 昭和12年 | 11月06日、イタリア王国が日独防共協定に加わる。 12月11日、イタリア王国が国際連盟より脱退。 |
| 1938年 昭和13年 | 11月11日:海軍中将が率いる港湾監督団総司令部 (Comando generale delle capitanerie di porto)に改組。 |
| 1939年 昭和14年 | 09月01日:第二次世界大戦始まる。 当初、イタリア王国は非交戦国宣言。 |
| 1940年 昭和15年 | 6月10日:イタリア王国、仏英に宣戦布告。 9月27日:日独伊三国同盟締結。 |
| 1941年 昭和16年 | 12月07日:日本、真珠湾攻撃。 12月11日:イタリア王国、アメリカに宣戦布告。 |
| 1943年 昭和18年 | 07月25日:ムッソリーニ逮捕・幽閉。 09月18日:独軍に救出されたムッソリーニが新政府樹立宣言。 以降、国内はイタリア王国とイタリア社会共和国に分裂。 11月13日:連合国側、イタリア王国を共同参戦国と認定。 |
| 1945年 昭和20年 | 04月28日:ムッソリーニ銃殺刑。 08月15日:日本、ポツダム宣言受諾の玉音放送。 |
| 1946年 昭和21年 | 06月02日:政体決定の国民投票実施。 06月18日:共和制国家【イタリア共和国】成立。 |
設立当初から海軍省の管理下に置かれていたものの、文民組織として出発。
第一次世界大戦を経て、次第に王立海軍の一部組織として組み込まれていきます。
ただし、民間商船に関係する省庁からの監督も受ける重層性は初期から存在していました。

フランチェスコ・マッツィンギ
初代ITCG長官として数えられている。
第二次世界大中、
イタリア国内は南北に分裂し、それぞれの政府の下に港湾監督団も分立。
最終的にムッソリーニを追放したイタリア王国が”戦勝国”として終戦を迎えます。
すなわちイタリア王国海軍は断絶することなく、現在の共和国イタリア海軍に連続しています。
イタリア共和国の成立から現在まで
| 年月日 | できごと |
|---|---|
| 1946年 昭和21年 | 06月02日:政体決定の国民投票実施。 06月18日:共和制国家「イタリア共和国」成立。 |
| 1948年 昭和23年 | 港湾監督総監部(Ispettorato generale delle capitanerie di porto)に改組。 商船省(Ministero della marina mercantile)監督下へ業務移管。 職員の軍人身分は維持される。 (5月1日、日本海上保安庁創設) |
| 1968年 昭和43年 | 任務に供される海軍艦艇の直接運用管理が可能になる。 |
| 1988年 昭和63年 | 航空機4機を取得。航空部隊の設立。 |
| 1989年 平成1年 | 06月08日:船艇・航空機の運用部隊に「Guardia Costiera」の名称付与。 07月22日:以降、船艇・航空機に同ロゴを標示。 |
| 1994年 平成6年 | 01月28日:港湾監督局総司令部 (Comando Generale del Corpo delle Capitanerie di porto)に改組。 |
| 1996年 平成8年 | 商船省の廃止に伴い運輸航行省 (Ministero dei trasporti e della navigazione)に業務移管。 |
| 1998年 平成10年 | 7月1日:救難船は視認性が高いものであるべきとの考えに基づき、 従来の灰色迷彩に代えて船艇に白色塗装を採用。 |
| 1999年 平成11年 | 07月30日:省庁再編によりインフラ運輸省に業務移管。 国防省及びイタリア海軍としての構成と連携を維持しつつ、 「港湾監督団・沿岸警備隊」として確立。 |
| 2025年 令和7年 | 07月20日:創立160周年 |
第二次世界大戦の後、
一般行政機関としての所属組織は商船省→運輸航行省→インフラ運輸省へと変遷しますが、職員の軍人的身分は一貫して保たれました。
それと同時に「グアルディア・コスティエラ」を名乗り始める、船体色を白色に塗装するなどのCG機関独自の変化も表れ始めます。
そして、
戦前・戦後を通じたITCGの歴史から特徴的な要素を抜き出すと次の点が挙げられます。
①近代統一国家の成立以前から各地に国際的な港湾都市があり、”海軍”が存在していたこと。
②組織の創設初期から軍民双方の性格を有していたこと。
③母体となるイタリア海軍とともに組織的連続性が一貫していること。
これらを日本に対比させてみると、中世以前から国際貿易を行う港湾と、前近代的”海軍”の存在が各地にあった点が大きく異なっています。
すなわち国際港湾と海軍は古来から”イタリア人”にとって身近な存在であり、軍事・非軍事の領域が明確に分かれることなく海事行政が進められてきました。
加えて、
日本の場合は太平洋戦争敗北の結果、海軍省・帝国海軍の解体後に海上保安庁が発足。
旧帝国海軍士官の採用、機雷掃海・海図作製など一部連続性の要素がありながら、行政機構としてはまったく別の組織として創立されています。
このような歴史的経緯の違いが、今日の両国CG機関の在り様に影響を及ぼしているのです。
おわりに
以上、
イタリア沿岸警備隊の現状と歴史的変遷ををご紹介してきました。
特に軍事機関の一部でありながら、複数の省庁にまたがって業務を実施している点に驚かれたかもしれません。
日頃、
「二重行政の排除」「行政のスリム化」といった言葉に慣れた日本人的感覚からすれば、めまいがするほどの複雑性をITCGは持っていました。
私もITCGをできるだけ網羅的に全体像を描き出そうと試みましたが、調べても調べても組織の新たな一面が見えてきて戸惑うばかりでした。
まるでギリシア神話の合成獣キメラを相手にしているような気分になったのも事実。
このような戸惑いを代弁してくれるかのような論説を引用しておきます。
第1章「複数」のイタリア ― 都市国家のいま
和田忠彦編『世界文化シリーズ5 イタリア文化55のキーワード』p2 ミネルヴァ書房2015,4,30 執筆:土肥秀行部分
並列し分散する権力
…イタリアの権力構造は分散型であるといえる。
憲兵隊(いわゆる「カラビニエーリ」、軍に属する)と警察(内務省管轄)というほぼ同じ機能をもつ公共の治安維持組織の併存も、実にイタリアらしい。それぞれが異なる経緯をもつため打ち消し合わず、また国家の側からも取捨できない。効率性や経済性よりも、長年培われてきたアイデンティティの保護に重きがおかれている証である。長い歴史があって、その重みがのしかかる国の仕組みは複雑で、ときに不可解である。それなりの秩序はあるものの。
ところで、
今回の記事を読んで「日本の海上保安庁もイタリア沿岸警備隊のように軍事機関化(防衛省に編入)できないだろうか?」と考えた方もいるかと思います。
しかし、
ITCGが現在のような組織形態となっているのは長い歴史と伝統と、国家機構全体に複雑性・重層性を許容する文化があるためです。
仮にこれをリアルに想像してみたとき、海上自衛隊が国土交通省や環境省、農林水産省に部署を置き、そこに海将、海将補、1等海佐級の人材を常駐させておく余裕があるでしょうか。
まして、
大規模な自然災害に自衛隊が派遣される都度、「自衛隊の主任務は国防であって、災害派遣はあくまで副任務である。」との意見が強調される日本です。
そうすると運輸行政、環境保護行政、水産行政に海上自衛官を割り当てるのは、かなり実現性に乏しいのではないかと私は考えます。
いずれにせよ、
現代的かつ表面的な視点からのみ他国の制度を参照し、それを自国に当てはめようとするのは比較検討としては不十分だということを今回の執筆で痛感した次第です。
そして皮肉な話ではあるものの、
日本を含めて世界各国の行政組織が、必ずしも合理性のみに基づいて編成されているわけでもありません。
そもそも、
コーストガード機関は治安維持や海洋安全保障のみならず、海運業・漁業・海洋レジャーといった国民生活に直接関係する組織です。
そうすると自国のCG機関の軍事的要素について知識を有しているだけでは、およそ他国のCG機関を正確に理解することは大変難しいと言わざるを得ません。
逆に言えば、
他国の例を知りたいと欲するならば、まずは自国の制度について学んでおく必要があるのです。
以上、
今回の記事が世界のCG機関の多様性を示すと同時に、日本の海上保安庁へのより深い理解につながれば幸いです。
《次回、ヨーロッパ編②へつづく》
先行研究
①1998年(平成10年)3月発行
海上保安大学校『海保大研究報告第43巻』第2号p102-120
廣瀬肇(海保大行政管理学講座教授:当時)
「イタリアの海上保安制度」
“Capitanerie di Porto”→「港湾管理局」
②1999年(平成11年)3月発行
(財)海上保安協会『平成10年度 国際的海上保安業務の推進事業報告書』
下江旭(協会常務理事:当時)
「先進諸国海上保安体制調査(フランス・イタリア)」
“Comandante Generale del Corpo dell Capitan”→「港湾監督事務総司令部」→正しくは「港湾監督事務総司令官」と訳されるべきだが文献上そのように記述されている。
参考:NATO・EU加盟状況
| № | 国名+ CGGS参加機関名 | 組織 形態 | NATO 加盟年 | EU 加盟年 | CGGS 参加回数 | Ⅰ 2017 H29 | Ⅱ 2019 R1 | Ⅲ 2023 R5 | Ⅳ 2025 R7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | アルバニア 沿岸警備隊 | 軍事 | 2009年 | × | 1回 | 〇 | |||
| 2 | アゼルバイジャン 国家国境庁 | 国境 | × | × | 4回 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 3 | ベルギー 沿岸警備隊 | 調整 | 1949年 | 1958年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 4 | ボスニア・ヘルツェゴビナ 保安省 | 国境 | × | × | 1回 | 〇 | |||
| 5 | ブルガリア 国家国境警備庁 | 国境 | 2004年 | 2007年 | 1回 | 〇 | |||
| 6 | クロアチア 沿岸警備隊 | 軍事 | 2009年 | 2013年 | 1回 | 〇 | |||
| 7 | キプロス共和国 法務省 | 独立 | × | 2004年 | 1回 | 〇 | |||
| 8 | デンマーク 海軍 | 軍事 | 1949年 | 1973年 | 1回 | 〇 | |||
| 9 | エストニア 警察国境警備隊 | 国境 | 2004年 | 2004年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 10 | フィンランド 国境警備隊 | 国境 | 2023年 | 1995年 | 1回 | 〇 | |||
| 11 | フランス 海洋事務総局 | 調整 | 1949年 部分脱退 2009年復帰 | 1958年 | 4回 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 12 | ジョージア 沿岸警備隊 | 国境 | × | × | 4回 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 13 | ドイツ 連邦警察 | 警察 | 西独1955年 統一ドイツ1990年 | 1958年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 14 | ギリシャ 沿岸警備隊 | 独立 | 1952年 | 1981年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 15 | アイスランド 沿岸警備隊 | 独立 | 1949年 | × | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 16 | アイルランド 沿岸警備隊 | 独立 | × | 1973年 | 1回 | 〇 | |||
| 17 | イタリア 沿岸警備隊 | 軍事 | 1949年 | 1958年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 18 | ラトビア 国境警備隊 | 国境 | 2004年 | 2004年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 19 | リトアニア 国境警備隊 | 国境 | 2004年 | 2004年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 20 | マルタ 国軍 | 軍事 | × | 2004年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 21 | モナコ 内務省警察局 | 警察 | × | × | 1回 | 〇 | |||
| 22 | モンテネグロ 海上安全港湾管理局 | 独立 | 2017年 | × | 1回 | 〇 | |||
| 23 | オランダ 沿岸警備隊 | 調整 | 1949年 | 1958年 | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 24 | ノルウェー 王立海軍沿岸警備隊 | 軍事 | 1949年 | × | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 25 | ポーランド 国境警備隊 | 国境 | 1999年 | 2004年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 26 | ポルトガル 海事局 | 軍事 | 1949年 | 1986年 | 4回 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 27 | ルーマニア 国境警察 | 国境 | 2004年 | 2007年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 28 | ロシア連邦 保安庁国境警備局 | 国境 | × | × | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 29 | スロベニア 海事局 | 独立 | 2004年 | 2004年 | 1回 | 〇 | |||
| 30 | スペイン 治安警察海上業務隊 | 治安 | 1982年 | 1986年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 31 | ウクライナ 国境警備隊 | 国境 | × | × | 2回 | 〇 | 〇 | ||
| 32 | イギリス 王立沿岸警備隊 | 独立 | 1949年 | 1973年 2020年 | 3回 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| NATO 32ヵ国中 23ヵ国 | EU 27ヵ国中 21ヵ国 |
おことわり
以下に示す参加国一覧表は当サイト管理人が独自に作成したものです。
作成に当たっては、海上保安庁・日本財団の共同発表資料pdf及び『世界の海上保安機関の現状に関する調査研究報告書』を参考としました。
(以下、『報告書』と呼びます。)
世界の海上保安機関の現状に関する
調査研究報告書岩並秀一・大根潔 共著
書籍等 :: 世界の海上保安機関の現状に関する調査報告書 (xn--p8j1fc3cznsc6g4e.jp)
(公財)海上保安協会 発行
A4版 63頁 カラー画像付
次に、
参加国名等の邦訳については、公表資料に準拠しつつも当サイト管理人が一部修正しています。
(誤:コロモ連合→正:コモロ連合 など)
最後に、
「組織形態」の項目で軍事・国境・治安・警察・独立・調整とあるのは、『報告書』における分類を参考に表記したものです。
ただし、この『報告書』の内容はCGGSⅡ終了後時点でのものであり、CGGSⅢ初参加国については、当サイト管理人が独自に判断し分類しています。
【組織形態の分類】
①軍事機関 傘下型「軍事」
軍事機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関
②国境警備機関 傘下型「国境」
国境警備機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関
③治安警察機関 傘下型「治安」
治安警察機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関
④警察機関 傘下型「警察」
警察機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関
⑤独立機関型「独立」
上部機関が実働勢力を有しない機関であって、
①~④の機関形態以外の機関
⑥調整機関型「調整」
他のCG機関間の調整を行うことを任務とする機関














