2023年8月8日より台湾海巡署の巡視船が晴海埠頭に寄港中です。
その船には知られざる日本との関わりがありました。
台湾巡視船が晴海埠頭に寄港
台湾の巡視船、晴海埠頭に停泊
海巡署「定例の補給のため」
2023/08/09 19:08:05(台北中央社)東京都中央区の晴海埠頭(ふとう)で8日、海洋委員会海巡署(海上保安庁に相当)の巡視船「巡護八号」が停泊している写真が撮影され、注目を集めている。
台湾の巡視船、晴海埠頭に停泊 海巡署「定例の補給のため」 – フォーカス台湾 (focustaiwan.tw)
海巡署は同日、停泊は定例の補給作業のためだと報道資料で明らかにした。
はじめに
先日、
ツイッター(今はエックスと言うべきなんでしょうが)で情報収集していたところ、東京:晴海埠頭に台湾の巡視船が寄港中との情報が飛び込んできました。
報道によると8月8日(火)の午前中から寄港していたとのこと。
実に10年ぶりの寄港になるそうで、これはめったにないチャンス!ということでさっそく見に行ってきました。
※以下に掲載した写真は当サイト管理人が撮影したものです。
※撮影は立入が認められている場所でのみ行っています。
東京オリンピック選手村跡地のマンション建設現場の横で、中華民国(台湾)の巡視船【巡護八号】がひっそりと停泊していました。
同じ岸壁に水産庁の漁業取締船【鳳翔丸】と東京海洋大の練習船【神鷹丸】も停泊していたので、興味のない方には白い船が3隻並んでるな~くらいの感覚だったかもしれません。
しかし、
私たち(海保ファン)が他国の巡視船を拝むチャンスがあるのは、観閲式で来賓参加するときか共同訓練などで来日するときしかないのです。
あとはアメリカ沿岸警備隊のカッター(巡視船)が修理のために、在日米海軍の基地に立ち寄るときくらいでしょうか。
その名の通り基本的にはコースト(沿岸)を警備するフネたちなので、普通はその国へ行かないと見ることができません。
なので、
向こうから来てくれるなんて実にありがたいことです。
…中華人民共和国のフネはほぼ毎日のように日本に来てくれますけどね。
(嫌味)
巡護八号の諸元
まずはこの船の基本スペックを抑えておきましょう。
巡護八號
(HSUN HU NO.8)長さ:84.5メートル
船幅:12.5メートル
材質:スチール、アルミニウム合金上部構造
排水量:1914.8トン
馬力:4045KW×22つのメインエンジン、可変ピッチ推進、船の速度は20ノットに達する。
西暦2013年、中信造船所で建造。
原文を管理人が適宜意訳しています。
海洋委員會海巡署艦隊分署全球資訊網-艦艇-巡護八號 (cga.gov.tw)
この船について、海上保安庁の巡視船で似たものを探すと【PL61はてるま型】の全長89mが近いイメージです。
ただ【はてるま型】は船体の横から排気する形状(舷側排気)のため煙突がありません。
その点では、92mと一回り大きいですが煙突のある【PL71いわみ型】が形としては似ていると思います。
第十管区海上保安本部 巡視船こしき (mlit.go.jp)
八管広報 – 第八管区海上保安本部 (mlit.go.jp)
前部甲板と船腹
さて。
その他のパーツを船首から見ていくと…
まず船の舳先には海巡署の旗が掲げられています。
旗のデザインは、
中華民国の国章、
黄金色の警鳩、
黄金色の法龍、
白色の天秤で構成されています。
鳩は警戒・平和・効率の象徴 龍は国土・沿海の保護、人々の安全の維持の象徴 天秤は公平さの象徴 |
旗には縦書きで「海洋委員會海巡署艦隊分署」とあります。
海洋委員會海巡署 – 维基百科,自由的百科全书 (wikipedia.org)
そして、レーシングストライプ(舷側標誌)には次のような意味があります。
赤色:犠牲と献身という奉仕の精神を象徴 白色「T」:台湾を表す英語の頭文字 青色:海を象徴 台湾の海域への奉仕を基調としており、「台湾を守る」との意味 |
次に、
船中央の側面には組織名が書かれています。
TAIWAN
海巡署 R.O.C. COAST GUARD
R.O.C.はRepublic of Chinaのことで中華民国の英語名称です。
ちなみに中華人民共和国の方はPeople’s Republic of China。
他国の船から見たとき、中国海警局と混同されないようにあえて”TAIWAN”を前面に出しているのだと思われます。
上部構造物
船橋の前面には”機関砲らしきもの”が置かれ、黒いカバーがかかっていました。
おそらくは20ミリ機関砲と思われますが、遠隔操作式ではないようです。
(私は兵装に詳しくないので、ここまでにしときます…)
その他、
ブリッジ周辺の投光器や電光表示装置などは、海上保安庁の巡視船と似ていました。
中央マストには入港中の国への敬意を示すため、日本国旗が掲げられています。
これは船の世界での儀礼的な慣習なので問題ないとして。
同時に、国際信号旗で数字の「1」を意味する数字旗も掲げられていました。
(日の丸が横長になっているみたいな形)
これが何を意味するのか私にはよくわかりません。
誰か詳しい方おしえてください。
(+_+)
追記 2023.8.24 数字旗「1」は、港則法に基づく掲揚のようです。 船舶交通が著しく混雑する特定港内では、総トン数500トン以上のフネは国際信号旗数字旗1をマストに見やすいように掲げなければならないとされています。 |
後部甲板
最後に後方部分を見ていきます。
後部には煙突や全天候型救命艇があり、船尾には台湾国旗が飾られています。
煙突の最上端は黒くふちどられているので、これが煙突マークかと思われます。
その他、オレンジ色の全天候型救命艇やクレーンが備え付けられているのが確認できます。
ヘリポートは無いようなので、この点はヘリの離着陸が可能な【はてるま型】や【いわみ型】と違うところです。
船尾にはやはり船名が書かれており、その下に船籍港と思われる「高雄」の文字があります。
そして中華民国の国旗「青天白日満地紅旗」が、夏の強い日差しを浴びながらゆらめいていました。
日本への寄港目的は?
それではなぜ【巡護八号】は晴海に寄港したのでしょうか?
おりしも自民党副総裁:麻生太郎氏が台湾を訪問中であったことや、同船の10年ぶりの寄港という珍しさもあってか、一部では「中国への牽制か」と推測する報道もありました。
台湾の巡視船が10年ぶり寄港
中国をけん制か
国際取材部
2023年8月9日 水曜 午後8:37台湾周辺で漁船の監視や保護を行う台湾の巡視船が、東京・中央区の晴海埠頭(ふとう)に寄港した。
台湾の巡視船が10年ぶり寄港 中国をけん制か|FNNプライムオンライン
中国を念頭に日本との関係をアピールする思惑もあるとみられる。
(中略)
台湾をめぐっては、自民党の麻生副総裁が台北市で蔡英文総統と会談するなど、双方の連携が活発になっていて、今回の活動も海洋進出を強める中国をけん制する思惑があるとみられる。
私も当初はそのような政治的意図があるのかと考えましたが、それにしてはひっそりとした入港です。
それにもし台湾との連携強化の一環であるならば、【横浜海上防災基地】に停泊するのではないでしょうか。
実際、過去にインド沿岸警備隊やベトナム海上警察の巡視船が同基地を訪れた際は、音楽隊による演奏を交えた華々しい入港歓迎式が行われたものです。
しかし、
晴海埠頭の岸壁の風景は、旅客船ターミナルの解体工事が進められていたこともあり、殺風景な印象すらありました。
結局、
台湾の報道機関によると、台風6~8号への避泊と補給・修理を兼ねた東京寄港だったようです。
巡護八號現身日本東京
停泊晴海碼頭整補引熱議
(巡護八号が修理のため晴海埠頭に停泊中、東京に現れ、激しい議論を巻き起こした)
2023/8/8 18:00(8/8 19:10 更新)據了解,「巡護八號」應是評估海域氣象,認為海象不佳,因應防颱作業選擇在日本東京進行補給作業。
巡護八號現身日本東京 停泊晴海碼頭整補引熱議 | 政治 | 中央社 CNA
(巡護八号は、海象が良くないと考え、海域の天候を見極め、台風に対応して東京で補給活動を行うことを選択したとみられる。)
※原文を管理人が適宜意訳した。
日本との知られざる関わり
それでもSNSの中には、台湾に近い沖縄県や九州地方への寄港でないことを疑問視する投稿もありました。
私もその点は不思議だったのですが…。
そもそも【巡護八号】は海巡署(本庁)の直属船隊に所属しており、その所掌範囲は広く「中西部太平洋、北太平洋、台湾周辺海域」とされています。
海洋委員會海巡署艦隊分署全球資訊網-組織架構-組織架構 (cga.gov.tw)
北太平洋というのは日本沿岸やハワイ、アメリカ西海岸までの海域です。
その一方、
中西部太平洋とは国で言えば、
サモア、フィジー、マーシャル諸島、パプアニューギニア、ミクロネシア連邦、キリバス、ソロモン、ナウル、クック諸島、トンガ、ニウエ、ニュージーランド、ツバル、バヌアツ、パラオ
…などの地域です。
例えば日本も条約に基づく【中西部太平洋まぐろ類委員会】に加盟しており、ここには先ほどの国々と台湾も含まれています。
また、
中国が南シナ海に領有権を主張して各国との間に緊張感を高めている一方で、台湾政府はそうした沿岸各国や太平洋諸島諸国と友好的な関係を結ぼうとしています。
なので、
【巡護八号】が台湾・高雄港を遠く離れて太平洋上で活動し、その途中で台風避泊のために東京港に寄るのは不自然ではないと言えるでしょう。
ところで。
実はそのことを証明する意外なニュースがありましたので、みなさまにご紹介いたします。
海洋委員会海巡署の巡視船、
ツバル残留の台湾人と日本人を救出
発信日: 2020/09/07行政院海洋委員会海巡署の遠洋巡視船「巡護八号」は6日、「中西太平洋公海漁業巡護(=中西部太平洋の公海における海上警備)」の任務の途中、ツバルに立ち寄り、新型コロナウイルスの影響で現地に取り残されていた台湾の外交代替役3人と日本人2人を救出し、台湾に無事戻ってきた。
海洋委員会海巡署の巡視船、ツバル残留の台湾人と日本人を救出 : Taiwan Today
(外交部)
これは台湾政府の外交部(外務省)の公式ニュースによるものです。
詳細はリンク先をお読みいただくとして、まさに【巡護八号】に搭載されていたあの救命艇で日本人が助けられていたとは!
私は今回の寄港で初めて【巡護八号】のことを知り、ネットで同船のことを検索していたら偶然このニュースを知りました。
あの世界的なコロナ禍の中でこんなことがあったとは全く知りませんでしたね~。
一応、
日本の外務省や報道機関による記事も検索してみたのですが、見当たりませんでした。
ということは私同様に多くの日本人が知らないことだと思います。
もしみんなが知っていれば、もうちょっと手厚く入港を歓迎してあげられたんじゃないかな…と思うと残念です。
(;´・ω・)
その節はお世話になりました…
なお、
【巡護八号】はまだしばらく日本に滞在するようなので、しっかりと鋭気を養ってからまた任務に戻っていただきたいと思います。
おわりに
当初、
もの珍しさと興味本位だけだった台湾巡視船に意外なエピソードがあることがわかりました。
そしてフネとヒトの間には深いつながりがあって、それを知ることで愛着がわいてくるなぁと改めて感じた次第です。
また、【巡護八号】が示してくれたように、コーストガードの船は平和友好の象徴であってほしいなと思います。
今回そんなことを感じさせてくれたことに、
謝謝!
巡護八號!
港則法
港則法 | e-Gov法令検索
第18条第3項
小型船及び汽艇等以外の船舶は、前項の特定港内を航行するときは、国土交通省令で定める様式の標識をマストに見やすいように掲げなければならない。
港則法施行規則
港則法施行規則 | e-Gov法令検索
第8条の4
法第18条第3項の国土交通省令で定める様式の標識は、国際信号旗数字旗1とする。
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