『不思議なマリナー』とあの頃の海上保安庁

川原 泉かわはら いずみ先生のマンガ
『不思議なマリナー』のご紹介です。

はじめに

みなさんは、
少女漫画家の川原 泉かわはら いずみ 先生をご存知ですか?

…たぶん、
当サイトをご覧いただいている方のほとんどは知らない、と思うのですが。

1983年に月刊誌『花とゆめ』でデビュー。

短編を中心として同誌に発表が続けられ、独特の世界観やキャラクター・セリフが魅力です。

現在では寡作になっていますが、今でもファンからの根強い人気を保っています。

有名な作品としては、
『笑う大天使ミカエル』と、
『メイプル戦記』でしょうか。

そんな中で今回取り上げるのは、食欲魔人シリーズと銘打たれた連作の一編。

(…食欲魔人ってワードが、もうすでに川原作品らしさ!です。)

ネタバレですが、この作品には海上保安官と巡視船と灯台が登場します。
(ちょっとだけ)

なので、
今回は私が大好きな川原マンガを、海上保安庁的目線で語っちゃおうという試みです。

作品紹介

タイトル不思議なマリナー
著者川原 泉
出版社白泉社
初出掲載1985年
『花とゆめ』
ページ数30ページ

作品の基礎データは上記のとおりですが、私が持っているのは白泉社文庫『川原泉傑作集 空の食欲魔人』に収録されているものです。

登場人物とあらすじ

この物語は、女子高校生の主人公と一人の海上保安官が出会うお話です。


登場人物その1

・白河 綾乃

聖セントミカエル学園に通う高校2年生。

良家のお嬢様方が集まる中にあって、唯一の趣味が魚釣り。

趣味を堂々と言えるような友達がいないのが悩み。

この道11年の釣り人なので、幼稚園最年長の頃からの筋金入り。

両親と歳の離れた兄姉と暮らしている。




登場人物その2

・加納 真之

主人公が磯辺で出会った釣り人。

釣りの腕は確かで、魚をその場で刺身にする包丁さばきも。

実は海上保安官。
彼にはもう一つの趣味もあって…。


~あらすじ~


そろそろクリスマスが近づく、とある休日。

磯釣りに出かけた白河綾乃さんは、ちょっと不思議な雰囲気の加納真之さんに出会います。

その後も偶然の再会が続くうちに、彼が海上保安官であることや、兄の同級生であることが明らかになるのですが…。

気になるあのこは女子高生

まずは主人公が通うお嬢様学校:聖ミカエル学園について。

この架空の学校は他の川原作品にも何度か登場します。

学園には幼稚園から短大まで存在し、エスカレーター式に進学する生徒が多いとのこと。

また、カトリック教の教えに基づく、いわゆるミッションスクールです。

本作品の設定では主人公が通う高等部の近くには港があるようです。
(学園の設定は作品によって微妙に異なります。)

そんなミッション系のお嬢様学校で港近くの高校と言えば。

神奈川県横浜市中区山手町やまてちょうに所在するフェリス女学院高等学校が有名ですね。

ということで、
以降は主人公の高校は横浜市中区にある…という想像でお話ししていきます。

最初の出会い


さて。
そんな横浜市の高校に通う白河綾乃さん。

ある休日に磯釣りに出かけたところ、そこでちょっと不思議な男性に出会います。

その彼は魚を釣り上げると、見事な包丁さばきでその場で刺身にしてしまうのです。

また、
そのお刺身を分けてくれたので、彼女も自分のおにぎりとお茶を提供するのでした。

お互いはんぶんこ



そして後日、
二人はお互いの制服姿で再会します。

気になるあの人は海上保安官

数日後、
学校帰りに海を眺めながら物思いにふける綾乃さん。
(期末テスト期間中のため、授業は午前中だけ?)

そこに通りすがった制服姿の男性。

それは先日の見事な包丁さばきの人、加納真之さんでした。

実は彼は海上保安庁の職員=海上保安官だったのです。

しかし、残念ながら綾乃さんは、


「海上保安…?」

「海上保安庁って具体的には何をする仕事なんだろう…」

…と思うのでした。

海上保安庁の職員なんです

階級は二等海上保安正

白泉社文庫『空の食欲魔人』「不思議なマリナー」より

さてこのシーンでで注目したいのは、加納海上保安官の制服の袖口!

太い線が2本描かれています。

ずばり【二等海上保安正】にとうかいじょうほあんせいの袖章ですね!
(`・ω・´) キリッ!

これは海上保安大学校・本科を卒業した幹部海上保安官が、30歳前後で与えられる階級です。

二等海上保安正 袖章
海上保安庁HPより

後に判明するのですが、加納さんは綾乃さんのお兄さんと同級生。
年齢は30歳!

また、
高校卒業後に海上保安官に任官し、海上保安大学校に入校しています。

なので、
年齢的にも経歴的にも自然な設定と言えるでしょう。

なお、海上保安庁で同じ階級と言えばマスコットキャラクター:うみまる!

うみまる
海上保安庁HPより



実はうみまるも【二等海上保安正】。
意外とエラいんですね…。

あの頃の巡視船ざおう

制服姿での再会の後、普段よりは早めに帰宅した綾乃さん。

たまたま放映されていた、
MHK教育テレビ『良太君のたのしい社会科』で海上保安庁のお仕事内容を知ります。

実はここで一コマだけ、
当時の【PL05ざおう】が描かれています!


白泉社文庫『空の食欲魔人』「不思議なマリナー」より


ざおうは宮城海上保安部に所属し、現在も活躍しているヘリコプター1機搭載型巡視船です。

現在の船番号の区分は【PLH】ですが、当時はこの区分がなかったので【PL】に一まとめにされていたんですね。


【PLH】
Patrol vessel Large with Helicopter

【PL】
Patrol vessel Large


さらにこの頃の巡視船は、
船首のレーシングストライプ「S字章」や、
船体の「JAPAN COAST GUARD」が表記されていません。

ちなみにざおうは1983年竣工。
この作品が『花とゆめ』に掲載されたのは1985年。

なので、当時はピカピカの新造船だったわけですね…。
(しみじみ)

加納さんのキャリアパス

では改めて、
加納真之さんは高校卒業後どう過ごしていたのでしょうか?

ここでは大学校HPの情報を参考に、加納 海上保安官の経歴を考えてみます。

海上保安大学校HPより



まずは海保大で約4年半を過ごした後、晴れて【三等海上保安正】として現場に着任したと思われます。

この階級を他の少女漫画で例えると。

大和和紀『はいからさんが通る』の伊集院 忍いじゅういん しのぶ 少尉のポジションに相当します。
(;・∀・)わかります?

とりあえず最初の配属先は大型巡視船の主任航海士。
(読者イメージ的に航海科かなと思うので)

その後の20代後半で東京:霞が関の本庁係員として勤務。

さらに30歳前後で【二等海上保安正】になるようです。

軍隊で言えば中尉さんと言ったところ。

この頃は大型巡視艇(PC型)の船長として海上勤務。

あるいは管区本部の係長として陸上勤務の可能性もあります。

ということで、
加納保安官はこの時点では【第3管区海上保安本部】の係長さんだったのではと想像します。

なぜなら、
船艇勤務にくらべて陸上勤務はカレンダー通りの休みがとりやすいから!

それはつまり高校生の綾乃さんが釣りに出かけるタイミングと重なりやすい、ということでもあるのです。


それではストーリー紹介に戻りましょう。

こんな所の湘南港灯台

次の休日。
二人は「こんな所で」偶然また出会ってしまいます。
これでもう3度目の出会いです。


さらにその次の休日。


違う釣り場にも加納さんは来ており、
「あ、やっぱし来てた」(^_^)
と綾乃さんは嬉しくなるのでした。

こうして仲良くなった二人。

加納さんがクリスマスの日にスズキ釣りに行きませんか?と誘います。
もちろんその約束をする綾乃さん。

これを楽しみに待っていたのですが…!


灯台のモデルは…?

…といったところでちょっと時間を巻き戻しましょう。

3度目の出会いの時、
二人が偶然出会った「こんな所で」は海辺の突堤でした。

二人がウミタナゴを釣る背後には灯台が立っています。

白泉社文庫『空の食欲魔人』「不思議なマリナー」より


実は私は今回の記事を書くに当たって、
な~んかこの灯台に見覚えがあるな~と思ったんですよ。

そこでもしやと思って、調べてみたらピッタリ!

藤沢市江ノ島にある湘南港灯台にそっくりでした。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より




この灯台の場所は実在する湘南海上保安署の裏手。

今では周辺の堤防は拡張されていますが、灯台の形はマンガのとおりです。



もしこの灯台がモデルだとすれば藤沢市と、綾乃さんの通う学校がある横浜市とは離れています。

だから綾乃さんが「こんな場所で」と思うのは確かにその通りでなのですね。

本日の成果は…

不思議なふたりのその後

さてその後、
クリスマスの約束がどうなったかというと…?

ここから先はぜひ作品を読んでいただきたいなと思います。

短い話ですし、最後はじんわりほっこりハッピーエンドですので。
\(^o^)/ オススメ!

なお、
この作品は読み切りなので、二人のアフターストーリーは描かれていません。

でもきっと二人は釣り仲間として、お互いの良き理解者として付き合っていくことでしょう。


ちなみに、
私の勝手な想像では…。


加納さんはその後大型巡視艇の船長として転勤。

おそらく長崎県【対馬海上保安部】などで久々の海上勤務をされたはず。

一方、綾乃さんは聖ミカエル短大へ進学。

短大を卒業して社会人になる頃には、加納さんも東京に戻ってくると思います。




もし将来この二人が結婚したとしても、各地の転勤先で海釣りを楽しめるんじゃないかな…。

なんてことを考えたりしますね。
(*´ω`*)


綾乃さんが海上保安学校・大学校へ進む道も考えたのですが、キャラクター的にちょっとナイかな…。

おわりに

さて、いかがだったでしょうか?

この作品を読んだことがない方にはぜひ読んでほしいですし、川原先生のファンで偶然このサイトにたどり着いた方も再読いただければ幸いです。

世の中には意外とひっそり【海上保安庁的要素】を含んだものが埋もれている!と思います。

今後もそういう作品をみなさんにご紹介していくつもりです。



『不思議なマリナー』と
あの頃の海上保安庁



おわり


参考動画

【海上保安庁公式チャンネル】「大学」ではなく「海上保安大学校」という『選択』(横浜海上保安部巡視船「いず」首席航海士Ver)2022/01/24

↑こちらの方の階級は【一等海上保安正】です。
太い2本線の間に細い1本線がありますね。

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