尖閣諸島の警備強化へ…
大型巡視船が次々配備される鹿児島海上保安部、職員も6年で倍増
2024/01/15 08:08大型巡視船が続々と就役する鹿児島海上保安部では増船に比例し、所属する海上保安官も増えている。6000トン型巡視船が初配備された2018年から6年で定員は倍増。管轄する第10管区海上保安本部は職員が住む宿舎の整備を急ぐ。
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(中略)
谷山2区は最前線の同県石垣島に並ぶ国内最大級の拠点になりつつある。
(中略)
18年度の職員数が256人だったのに対し、23年度は521人。うち約9割の483人が船員だ。10管人事課の塚野治専門官は「短期間にこれだけ増えるのは全国的にも異例」と語る。
2024年1月8日、
【しゅんこう型】3番船【PLH44ゆみはり】初の一般公開が行われました。
開催場所は鹿児島市の中心部から近い鹿児島本港。
桜島へ向かうフェリー乗り場もあるため、鹿児島市民のみならず観光客も訪れる繁華なエリアです。
一方で、
普段の巡視船たちは郊外の谷山二区という港湾エリアに停しています。
ここには【しゅんこう型】や【れいめい型】の大型巡視船が控えており、今や全国でも有数の船艇基地となっているのです。
ただし、
このエリアは工業地帯であり、一部を除いて関係者以外は立入禁止。
そのため巡視船たちを間近に見ることはできません。
でもなんとかこの海上保安庁最大・最新鋭の巡視船の姿を見てみたい!
…ということで近くの展望台から撮影してきました。
今回はこれをご紹介しつつ、
鹿児島港・鹿児島海上保安部について考えてみたいと思います。
ロケット広場からのながめ
鹿児島湾(=錦江湾)に面する山の中腹に、ロケット広場という展望台があります。
そこから桜島火山を遠くに眺め、手前に市街地を望むことができました。
そして上の写真にも4隻の巡視船が映っているのがわかるでしょうか。
ズームアップした写真はこちら↓
谷山二区のF岸壁A桟橋に2隻。
写真奥から、
【PLH33れいめい】全長150m
【PLH42しゅんこう】全長140m
同じく谷山二区のE岸壁に写真左から、
【PLH34あかつき】全長150m
【PLH43あさなぎ】全長140m
この他【鹿児島】には【PLH31しきしま】も所属しています。
しかし、この数日前から令和6年能登半島地震のため派遣されており不在でした。
さらに、
対岸には【PL202おおすみ】全長120mの姿も。
もしかしたら写真ではあまり大きく感じられないかもしれません。
しかし、例えば全長140mの【ゆみはり】がこちら↓
あまりに大きすぎてカメラのフレームに収まりきらないほどです。
これぐらい巨大な船が谷山二区に結集しているのだと思ってください。
鹿児島の現有勢力
それでは、
改めて【鹿児島海上保安部】の所在地を確認してみましょう。
まず鹿児島市は、地元では古くから錦江湾の名で呼ばれている鹿児島湾に面し、南北に細長い形をしています。
そして同保安部は鹿児島本港付近の港湾合同庁舎内に入居しています。
この庁舎から車で5分くらいの場所に、小型巡視艇【CL01さつかぜ】や第10管区本部に所属する測量艇【HS22いそしお】が係留されています。
一方、
庁舎から車で30分くらいかかる谷山二区に、大型巡視船たちが停泊しているわけです。
【鹿児島】の船艇勢力はこちら↓
番号 | 船名 | 全長 | 搭載 ヘリ | 就役年 転入年 | |
1 | PLH31 | しきしま | 150m | 2機 | 1992年 2018年 |
2 | PLH33 | れいめい | 150m | 1機 | 2020年 |
3 | PLH34 | あかつき | 150m | 1機 | 2021年 |
4 | PLH42 | しゅんこう | 140m | 2機 | 2020年 |
5 | PLH43 | あさなぎ | 140m | 2機 | 2023年 |
6 | PLH44 | ゆみはり | 140m | 2機 | 2023年 |
7 | PL202 | おおすみ | 120m | なし | 2023年 |
8 | PL07 | さつま | 91.4m | なし | 1999年 |
9 | PL52 | あかいし | 95m | なし | 2006年 |
10 | PL69 | こしき | 89m | なし | 2010年 |
11 | CL01 | さつかぜ | 20m | なし | 2016年 |
これら船艇の中で大型巡視船は…、
というより【さつかぜ】以外は谷山二区の中でさらに分散して係留されています。
①1号用地A区 B岸壁
日本ガス(株)関連施設付近の岸壁。
【おおすみ】が係留することが多い。
②第3突堤
種子島・屋久島行きフェリーの発着場。
【さつま・あかいし・こしき】が係留している。
③1号用地B区 E岸壁・F岸壁
七ツ島と呼ばれるエリア。
メガソーラー発電所のパネル建設地の脇。
【れいめい】などが複数の桟橋に係留している。
以上が【鹿児島海上保安部】と谷山二区の概略です。
相次ぐ大型巡視船の就役
さて、
冒頭の南日本新聞の記事にもあったように、近年【鹿児島】には大型巡視船が配備されています。
特に2023年度(令和5年度)中には、3隻の大型巡視船が続々と就役。
初入港日
05月01日【PL202おおすみ】全長120m
07月15日【PLH43あさなぎ】全長140m
12月06日【PLH44ゆみはり】全長140m
これにより【鹿児島】は大型巡視船 計10隻を擁し、その内ヘリコプター搭載型(PLH型)は6隻となりました。
なお、PLH型は最大クラスの巡視船の船種であり、この隻数では全国最多を誇っています。
一方で沖縄県の【石垣海上保安部】には大型巡視船が14隻配備されています。
内、PLH型は1隻のみ。
この船艇勢力を図にしてみると↓次のとおりです。
奄美・沖縄本島・宮古島を挟んで、【鹿児島】と【石垣】の勢力が突出していることがわかるかと思います。
さて。
このようにPLH型を多数抱える【鹿児島】について、海上保安庁”最大”の保安部と表現することができそうです。
また、それら船艇が持つ能力をもって、海上保安庁”最強”の保安部と呼ぶことも可能かと思います。
では、
果たしてどちらの表現がふさわしいのでしょうか?
そこで次は【鹿児島】の船艇勢力が、全国の海上保安部署のどのような位置づけにあるのかを見ていきます。
最大・最強についての一考察
まず前提として、
何をもって最大・最強とするかの明確な定義はありません。
特に海上保安庁の警備・救難業務の質は、巡視船の特性や乗員の練度に左右されます。
その意味で明確な答えは出せないのですが、あえて一つの目安を考えてみました。
まず各保安部に所属する船艇にポイントを割り振ります。
その合計をごく大雑把な警備救難能力として捉えてみる考え方です。
実際に見てもらうと次の通り。
PLH 2機 | PLH 1機 | PL | PM | PS | PC FL | CL | ||
7点 | 6点 | 5点 | 4点 | 3点 | 2点 | 1点 | 計 | |
横浜 | 7 | 6 | 10 | 8 | 4 | 35 | ||
鹿児島 | 42 | 20 | 1 | 63 | ||||
那覇 | 18 | 5 | 3 | 2 | 28 | |||
宮古島 | 5 | 4 | 30 | 39 | ||||
石垣 | 7 | 65 | 2 | 1 | 75 |
繰り返して言いますが、
これはごく単純に船種ごとにポイントを割り振った結果に過ぎません。
(※小型の監視取締艇や測量艇などは含めていない)
それでも、
少し見えてくるものがありませんか?
たとえば35点で第4位の、
第3管区【横浜海上保安部】。
全長約20mの小型巡視艇(CL)からヘリ搭載型の大型巡視船(PLH)までバラエティ豊かに船艇をそろえています。
この内、PLH型はヘリコプターを1機搭載するものと、2機搭載するもの二つに分かれます。
【横浜】のPLH
・ヘリ2機搭載型【PLH32あきつしま】150m
・ヘリ1機搭載型【PLH03さがみ】105m旧名おおすみ
従来、
横浜には【PLH31しきしま】もいましたが、鹿児島にいた【PLH03おおすみ→さがみ】と交換するような形で配属替えが行われました。
それまではここが最も格の高い海上保安部でした。
次に39点で第3位の、
第11管区【宮古島海上保安部】。
少し意外かもしれませんが、ここでは尖閣漁船対応体制の基地として全長43mの小型巡視船(PS)が9隻配備されています。
さらにそれ以外のPS・PM・PL型もそろっているため高い点数となりました。
そして63点で第2位の、
第10管区【鹿児島海上保安部】。
既に述べたように全国最多のPLH型を擁し、【宮古島】と20点以上の差があります。
いかに大規模な保安部かわかるかと思います。
最後に75点で第1位の、
第11管区【石垣海上保安部】。
尖閣領海警備体制の基地として、ヘリ非搭載の大型巡視船(PL)の同型12隻を保有。
加えて別型PL1隻と、【PLH35あさづき】150m1隻などがいます。
さていかがでしょうか?
こうしてみるとやはり【石垣】に船艇が集中しており、保安部全体としての警備救難能力は”最強”と呼ぶことができそうです。
(もっともその勢力はもっぱら尖閣諸島の領海警備用なのですが…。)
また追随する【鹿児島】も、ヘリ2機搭載型を最も多くそろえる点で”最大”と表現して差し支えなさそうです。
【参考】
PLH 2機 | PLH 1機 | PL | PM | PS | PC FL | CL | ||
7点 | 6点 | 5点 | 4点 | 3点 | 2点 | 1点 | 計 | |
小樽 | 10 | 4 | 2 | 16 | ||||
函館 | 6 | 4 | 2 | 1 | 13 | |||
釧路 | 6 | 5 | 4 | 1 | 16 | |||
宮城 | 6 | 10 | 2 | 1 | 19 | |||
横浜 | 7 | 6 | 10 | 8 | 4 | 35 | ||
名古屋 | 7 | 2 | 4 | 13 | ||||
神戸 | 6 | 6 | 4 | 16 | ||||
広島 | 2 | 2 | 4 | |||||
呉 | 5 | 4 | 3 | 12 | ||||
下関 | 2 | 2 | ||||||
門司 | 5 | 4 | 4 | 5 | 18 | |||
福岡 | 7 | 5 | 2 | 1 | 15 | |||
舞鶴 | 7 | 6 | 5 | 2 | 20 | |||
新潟 | 6 | 10 | 2 | 18 | ||||
鹿児島 | 42 | 20 | 1 | 63 | ||||
那覇 | 18 | 5 | 3 | 2 | 28 | |||
中城 | 10 | 4 | 1 | 15 | ||||
宮古島 | 5 | 4 | 30 | 39 | ||||
石垣 | 7 | 65 | 2 | 1 | 75 |
鹿児島のこれまで
それでは、
再び【鹿児島】に目線を戻しましょう。
船種 全長 | 2017 H29 年度 | 2018 H30 年度 | 2019 R1 年度 | 2020 R2 年度 | 2021 R3 年度 | 2022 R4 年度 | 2023 R5 年度 | 2024 R6 年度 | 2025 R7 年度 | 2026 R8 年度 |
PLH 150m | しきしま 転入 | 〃 | しきしま れいめい | しきしま れいめい あかつき | 〃 | 〃 | しきしま れいめい あかつき | 〃 | しきしま PLH36と 代替? | |
PLH 140m | しゅんこう | しゅんこう | 〃 | 〃 | しゅんこう あさなぎ ゆみはり | 〃 | 〃 | PLH45 就役? | ||
PLH 105m | おおすみ | 〃 | おおすみ 横浜転出 | |||||||
PL ~120m | さつま あかいし こしき | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | さつま あかいし こしき 新おおすみ | |||
計 | 5隻 | 5隻 | 6隻 | 7隻 | 7隻 | 7隻 | 10隻 | 10隻 | 10隻 | 11隻 |
元々、
【鹿児島】は【PLH03旧おおすみ】を筆頭に計4隻の大型巡視船で長く構成されていました。
状況が大きく変わったのは、
【れいめい】【しゅんこう】が配備された2019年度以降です。
さらに2023年度現在で、ヘリコプター搭載型大型巡視船(PLH)は計6隻と全国最多。
単純に大型巡視船(PL~PLH)のくくりとして見ても、やはり【石垣】に次ぐ隻数の多さです。
そして、
これにともなう職員数の倍増や宿舎(社宅)の不足について、冒頭の『南日本新聞』が報じています。
他にも谷山二区には新たな給油タンク、ヘリ格納庫の建設が進められています。
海上保安庁では建築士の資格者を募集しており、募集案内の中で建設工事の一端を窺い知ることができました。
海上保安庁@採用担当
海だけじゃない!
第十管区では格納庫・大型給油タンク・桟橋建築中!
海上保安庁では、建築に興味がある方を募集中 ! 君も海を守るための施設を作ってみない?午後6:01 · 2023年10月5日
海上保安庁採用担当公式ツイッター(新X)
https://x.com/JCG_saiyou/status/1709856364653330927?s=20
このようにフネが増えるだけではなく、それを動かすヒト・基地となる港も大きく様変わりしています。
ではこの急速な変化について、
鹿児島市民の方はどのように思っているのでしょうか?
鹿児島のこれから
尖閣警備 進む鹿児島の要衝化
まるで戦艦…機関砲やヘリ2機を装備
最新鋭の大型巡視船「あさなぎ」乗船ルポ
全国最多の6隻態勢へ
2023/09/25 08:03鹿児島海上保安部に今年7月就役した大型巡視船「あさなぎ」(約6000トン)を見学した。
尖閣警備 進む鹿児島の要衝化 まるで戦艦…機関砲やヘリ2機を装備 最新鋭の大型巡視船「あさなぎ」乗船ルポ 全国最多の6隻態勢へ | 鹿児島のニュース | 南日本新聞 | 373news.com
中国船が領海侵入を繰り返す尖閣諸島(沖縄県)周辺海域の警備強化などを目的に配備された船は、機関砲やヘリコプター格納庫などを搭載。関係者が「機動力を備えた最新鋭の船」と紹介する巡視船の機能は、まるで“戦艦”のようだった。
(中略)
見学会があった今月13日、あさなぎが停泊する鹿児島市の鹿児島港谷山2区には、別の大型巡視船2隻も係留。桟橋に全長140メートル以上の船が並ぶ光景は艦隊のような迫力があった。
同保安部には現在、6000トン級の大型巡視船が全国の海保で最多の5隻所属。本年度中に巡視船「ゆみはり」も加わり6隻となり、より拠点化が進む。
再び『南日本新聞』からの引用です。
同紙はローカル新聞として、継続的に鹿児島港の変化を報道し続けています。
そして上掲の記事は【あさなぎ】が就役した後、【ゆみはり】が就役する前に行われた報道陣向けの見学会に関するもの。
参加した記者の感想からは、明確に否定的ではないものの急速に変化する地元の風景に戸惑っている印象を受けます。
一方で鹿児島市民・県民の方々が、これと同様の意見なのかそうでもないのかはわかりません。
いや、
むしろまだ多くの方が海上保安庁への理解や認識は薄いと見るべきでしょう。
したがって【鹿児島】の急拡大や鹿児島港の変化も、あまりご存知ないのではないでしょうか。
もちろん、そのことは当の海上保安庁側もわかっているようで、2023年度は巡視船の一般公開のラッシュが続いています。
さらに同じく最新鋭・最大測量船の【HL11平洋】【HL12光洋】の公開も図られています。
奇しくも今年度は海上保安庁創設75周年という一区切りではありますが、他管区に増して熱心な広報活動は注目に値します。
これはやはり重要度と規模を増しつつある【鹿児島海上保安部】を、地元の人々に正しく理解してほしいという熱意の表れなのでしょう。
当サイトでは過去にも指摘したことがありますが、そもそも海上保安庁の梅の花に込められた精神の一つは、
「海上保安庁は常に民衆とともにある。」
…でした。
私としては巡視船艇たちが地元の人々に愛され、そして市民にとって海上保安庁が身近な存在であってほしいと願うばかりです。
微力ながら、
当サイトもその一助になればと決意を新たにする次第です。
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