令和4年(2022年)10月24日、
鹿児島港谷山2区における海上保安庁施設の整備についての報道がありました。
尖閣諸島周辺の中国船対応
〝要衝〟鹿児島港谷山2区で
給油施設、格納庫整備に着手
大型巡視船の機動力向上
海上保安庁
南日本新聞 2022/10/24 11:00海上保安庁は鹿児島海上保安部の母港鹿児島港谷山2区(鹿児島市七ツ島2丁目)で、給油施設(容量6000㎘)、ヘリコプター5機分の格納庫(2908㎡)・駐機場(4650㎡)の整備に着手した。中国船が領海侵入を繰り返す沖縄県・尖閣諸島周辺の警備強化に伴い、同港に配備が相次ぐヘリ搭載型大型巡視船の機動力を高める狙い。
尖閣諸島周辺の中国船対応 〝要衝〟鹿児島港谷山2区で給油施設、格納庫整備に着手 大型巡視船の機動力向上 海上保安庁 | 鹿児島のニュース | 南日本新聞 | 373news.com
現在は設計段階で、いずれも24年9月末の完成を見込む。
23年度には同港に大型巡視船2隻の追加配備も計画されている。
23年度中に新たな桟橋の完成も見込むが、給油施設はない。
現在は民間に依頼して燃油を積んだバージ船(荷船)をピストン輸送したり、県外の大型バージ船をチャーターしたりして給油。日程調整や輸送に時間がかかり、海上保安庁幹部は「尖閣諸島周辺などで不測の事態も想定される海域を預かっており、すぐに燃料補給できる環境が必要」と整備の意義を説明する。
ヘリ格納庫を設けることで、搭載ヘリの点検、整備の効率化を図る。組織の強化も進め、23年度予算の概算要求では、鹿児島海保が所属する第10管区海上保安本部に巡視船の整備・修理を担う船舶技術部の新設が盛り込まれた。
鹿児島港の谷山2区について
『南日本新聞』報道のとおり、
【鹿児島海上保安部】のPLH大型巡視船のための、関連設備が増強されるようです。
そもそも、
鹿児島保安部には従来のPL型3隻に加えて、
PLH型4隻も配備されていました。
・PLH31しきしま
・PLH33れいめい
・PLH34あかつき
・PLH42しゅんこう
これらは海上保安庁最大の全長140~150mの船であり、ヘリコプターを格納・運用できます。
その機動力向上のため、
【れいめい】【あかつき】【しゅんこう】が主に係留されている谷山2区に、給油施設・ヘリ駐機場・ヘリ格納庫が新たに建設されるとのこと。
記事の図解によると、
船艇桟橋のすぐ隣に設けられるようです。
これは相当な効率アップが期待できそうですね。
新たな2つの桟橋
この報道の中で注目なのは、
2023年度(令和5年度)に「大型巡視船2隻の追加配備も計画されている。」とある点です。
これと関連する情報として。
現在配備中の【PLH31しきしま】は、
近いうちに解役されるとの報道も既になされています。
その一方で、
建造中の【PL202おおすみ】の就役も間近となっています。
とりあえず、
船名が大隅半島に由来する【おおすみ】が、【鹿児島】配属になるのはほぼ確実でしょう。
そうなると、
次に配備されるのは【PLH43あさなぎ】か、あるいは船名未定の【PLH44】が考えられます。
ただ、
【あさなぎ】が来るのが順番としては自然なような気がします。
なお、過去の私の記事では、
【あさなぎ】の配備先は【那覇海上保安部】と予想していました。
これは、
既に多数の大型巡視船を抱える鹿児島港に、さらなる船を受け入れるキャパシティが無いのでは?と想像したためです。
(あとは【うるま】の老朽化による代替問題も。)
しかし、
今回の報道を受けて、
改めて鹿児島港の港湾計画を調べてみました。
2022年(令和4年)3月、
鹿児島県庁:地域振興局建設部:河川港湾課が作成したパンフレット『鹿児島港』によると…。
この計画図では工事中と表記されている桟橋Aも、南日本新聞によると完成している模様。
そして2023年度中に桟橋Bも完成が見込まれています。
この計画図をみると、
増強予定の巡視船に対する鹿児島港の受入計画は既に進んでいたようです。
ということで、
コメント欄でもご指摘いただいておりましたが、どうやら【あさなぎ】は【鹿児島】配備の可能性が高そうですね。
(あくまで私の予想なので、
結果が違っていたらご容赦ください。)
船艇の分散配置と集中配置
ここからは海上保安庁における船艇配備について、思うところを書いてみます。
今回の報道にあるように、
【鹿児島】にはPLH大型巡視船が集中的に配備されています。
そして、
【石垣】には同型PL巡視船が12隻、
【宮古島】には同型PS巡視船が9隻配備されています。
これら集中的な配備の在り方は、
すべて尖閣諸島問題と中国の海洋進出に対応するためです。
それにしても、
現在のように特定の船型のみが突出して一つの海上保安部に置かれる、というのはこれまでなかった形だと思うのです。
ここで私が思い出したのは、
廣瀬肇:教授(広島文化学園大学大学院)の論文です。
『海上保安庁法第25条の意義』という論文の中で、海上自衛隊(海軍)と比較して海上保安庁の部署・船艇は分散配置される点を特徴として挙げています。
海上保安庁 (COAST GUARD) | 海上自衛隊 (NAVY) |
分散配置 (海上保安部署, 船艇の分散配置) | 先制と集中 (艦隊行動) |
考えてみれば、
海上保安部は「海あり県」に必ず一つ以上あり、管区内で大中小の巡視船を運用しています。
それは各県に警察本部があり、
都市部・地方部による濃淡はあるにせよ、基本的には満遍なく人員が配置されているのと同様です。
一方で、
海上自衛隊の場合は「海あり県」でも基地・艦艇が置かれていない所はあります。
むしろ大湊・横須賀・舞鶴・呉・佐世保といった5大基地に艦艇は集中しています。
この違いは、
警察機関と軍事機関の行動目的が異なることによって生ずるものだそうです。
【補足】
もちろん、瀬戸内海を管轄する第6管区にはCL・PCが多い、など地域特性による偏りはあります。また、韓国・中国と領海を接する第7管区には、PCが多く配備されています。
改めて、
三保安部にみられる特定船型の集中は、
海上保安庁の伝統的な配備からすれば異質と言えるでしょう。
そして、
このことは単純な良い悪いでは論じられません。
今やPLHの最大拠点となった【鹿児島海上保安部】が、今後どのように発展していくのか注目していきたいと思います。
鹿児島海上保安部:大型巡視船一覧
番号 | 船名 | 全長 | 搭載 ヘリ | 備考 |
PLH 31 | しきしま | 150m | 2機 | 配備中 解役予定 |
PLH 33 | れいめい | 150m | 1機 | 配備中 |
PLH 34 | あかつき | 150m | 1機 | 配備中 |
PLH 42 | しゅんこう | 140m | 2機 | 配備中 |
PLH 43 | あさなぎ | 140m | 2機 | 配備? |
PL 202 | おおすみ | 120m | なし | 配備? |
PL 07 | さつま | 91.4m | なし | 配備中 |
PL 52 | あかいし | 95m | なし | 配備中 |
PL 69 | こしき | 89m | なし | 配備中 |
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