世界海上保安機関長官級会合で読む国際情勢

過去最多の参加を得たCGGSⅢが閉幕しました。
会合に参加した国・しなかった国から国際情勢を読み解きます。

【ANNnewsCH】世界の海上保安機関トップ級ら 対話や協力体制の構築の重要性を確認(2023年11月1日)

海保機関のトップ会議閉幕=
過去最多出席、ロシアは参加せず―東京
2023-11-01 15:56

海上保安機関のトップが集う「世界海上保安機関長官級会合」(海上保安庁、日本財団共催)が1日、閉幕した。
(中略)
会議には米沿岸警備隊や中国海警局などから、長官級の幹部ら約200人が出席。ウクライナや欧州連合(EU)など計21の国と機関が初参加した。

ロシアは過去2回の会議は出たが、今回は参加しなかった。

海保機関のトップ会議閉幕=過去最多出席、ロシアは参加せず―東京 | 時事通信ニュース (jiji.com)

結果概要

開催
期間
国・
地域
機関国際
機関
開催
場所
第1回2017.
(H29)
09.14
35383ウェスティン
ホテル東京
目黒区三田
第2回2019.
(R1)
11.20
~11.21
75768ヒルトン東京
お台場
港区台場
第3回2023.
(R5)
10.31
~11.01
86879ホテル
ニューオータニ
千代田区
紀尾井町

はじめに

第3回 世界海上保安機関長官級会合(CGGSⅢ)が2023年(令和5年)10月31日~11月1日に開催されました。

これまで日本が議長国となって東京で行われてきましたが、次回以降は立候補制により開催地を決めるとのことです。

そして、会合の事務局を務めた海上保安庁・日本財団からその結果概要が公表されています。

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当サイトでは今回の参加国と過去2回の状況をふり返り、コーストガード機関の視点から現在の世界情勢を読み解きます。

さらに、今後も継続が予定されているCGGSの意義を考えてみました。

おことわり

以下に示す参加国一覧表は当サイト管理人が独自に作成したものです。

作成に当たっては、前掲の海上保安庁・日本財団の共同発表資料pdf及び
『世界の海上保安機関の現状に関する調査研究報告書』を参考としました。
(以下、『報告書』と呼びます。)

『世界の海上保安機関の現状に関する調査研究報告書』

岩並秀一・大根潔 共著
(公財)海上保安協会 発行
A4版 63頁 カラー画像付


公益財団法人海上保安協会では、海上保安活動の調査研究事業の一環として、岩並秀一氏(前海上保安庁長官)及び大根潔氏(元第三管区海上保安本部長)を研究員として迎え、「世界海上保安機関長官級会合」から得られた知見をもとに、両氏共著による「世界の海上保安機関の現状に関する調査研究報告書」を取りまとめました。
(うみまるショップHPより)

書籍等 :: 世界の海上保安機関の現状に関する調査報告書 (xn--p8j1fc3cznsc6g4e.jp)

なお、
CGGSⅢなどの英語略称については、海上保安庁公式のものではなく独自のものです。

第一次世界大戦・第二次世界大戦をWWⅠ・Ⅱ(ワールドウォーワン・ツー)と略すのにならいました。


次に、
参加国名等の邦訳については、公表資料に準拠しつつも当サイト管理人が一部修正しています。
(誤:コロモ連合→正:コモロ連合 など)

最後に、
「組織形態」の項目で軍事・国境・治安・警察・独立・調整とあるのは、『報告書』における分類を参考に表記したものです。


ただしCGGSⅢ初参加国については、当サイト管理人が独自に判断し分類しています。




【組織形態の分類】

①軍事機関 傘下型「軍事」
軍事機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関

②国境警備機関 傘下型国境
国境警備機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関

③治安警察機関 傘下型「治安」
治安警察機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関

④警察機関 傘下型警察
警察機関 本体または
その傘下の実働勢力を有する機関

⑤独立機関型「独立」
上部機関が実働勢力を有しない機関であって、
①~④の機関形態以外の機関

⑥調整機関型「調整」
他のCG機関間の調整を行うことを任務とする機関

CGGS初参加の国

地域参加機関名組織
形態

2017
H29

2019
R1

2023
R5
1中米バハマ国防軍軍事
2中米グアテマラ国防軍軍事
3中米ジャマイカ国防軍沿岸警備隊軍事
4南米コロンビア海軍軍事
5南米エクアドル海軍軍事
6南米ガイアナ国防軍軍事
7南米パラグアイ海軍軍事
8大洋州ミクロネシア国家警察警察
9中東イラン沿岸警備隊国境
10中東ヨルダン海軍軍事
11中東オマーン王立警察沿岸警備隊警察
12中東カタール沿岸警備隊独立
13欧州ラトビア国境警備隊国境
14欧州リトアニア国境警備隊国境
15欧州マルタ国軍軍事
16欧州オランダ沿岸警備隊調整
17欧州ウクライナ国境警備隊国境
18アフリカベナン海軍軍事
19アフリカカメルーン海軍軍事
20アフリカエジプト海軍軍事
CGGS初参加の国

最初は今回初めてCGGSに参加した国のご紹介から。

今回最も注目を浴びたのは、
やはりウクライナ

逆に初めて不参加となったロシアとの対比もあって、マスメディアにも取り上げてられています。


その対ロシアの観点から、エストニアに続いてラトビア・リトアニアのバルト三国がそろい踏みした点にも注目。

ロシアによるウクライナ侵攻が黒海のみならず、バルト海にも緊張をもたらした結果ではないかと私は考えています。

赤い枠はロシアの飛び地:カリーニングラード州


その他、
中南米・中東・アフリカ地域からの参加が増えています。

個人的に興味深いのは南米:パラグアイ

同国は内陸国なのですが、会合にはパラグアイ海軍(英:Paraguayan Navy)が参加しています。

海がないのに海軍とは…?という気もしますが、実際には国内の河川や湖水地域を管轄する部隊のようです。

この海軍がコーストガード(沿岸警備)の任務も担っているのですね。



中東諸国では親米的なヨルダン・オマーン・カタールとともに、反米で有名なイランも席を同じくしています。

赤い枠はカタール国



アフリカ地域ではエジプトの存在が大きいです。

このスエズ運河を管理するエジプトが参加したことは、世界の海上交通の安定に寄与するものと期待したいところです。

ただ残念ながらパナマ運河のパナマ、キール運河のドイツの参加はありませんでした。



過去3回すべて参加した国

次にCGGSⅠから参加している常連国をみていきましょう。

地域参加機関名組織
形態

2017
H29

2019
R1

2023
R5
1北米カナダ沿岸警備隊独立
2北米アメリカ沿岸警備隊独立
3アジアバングラデシュ沿岸警備隊独立
4アジアカンボジア国家警察警察
5アジア中国海警局治安
6アジアインド沿岸警備隊独立
7アジアインドネシア
海上保安機構
独立
調整
8アジア日本海上保安庁独立
9アジア韓国海洋警察庁独立
10アジアマレーシア
海上法令執行庁
独立
11アジアモルディブ国防軍
沿岸警備隊
軍事
12アジアパキスタン海上保安庁独立
13アジアスリランカ沿岸警備隊独立
14アジアベトナム沿岸警備隊独立
15大洋州オーストラリア国境警備隊
/海上国境司令部
国境
調整
16大洋州フィジー共和国海軍軍事
17大洋州ニュージーランド王立海軍軍事
18大洋州パラオ司法省
海上保安・魚類野生動物
保護部
独立
19中東トルコ沿岸警備隊独立
20欧州アゼルバイジャン
国家国境庁
国境
21欧州フランス海洋事務総局調整
22欧州ジョージア沿岸警備隊国境
23欧州ポルトガル海事局軍事
24アフリカジブチ沿岸警備隊独立
25アフリカナイジェリア海事安全庁独立
調整
過去3回すべて参加した国

過去3回議長国を務めた日本はもちろんのこと、アメリカ・カナダの北米2か国、中国・韓国・インドなどのアジア諸国が毎回参加しています

このように各国政府が自国の職員を毎回派遣できるということは、それだけそのCG機関が国内で地位を確立しているということの証明でもあります。

この点、いわゆる先進国や大国に限った話ではありません。


例えばかつてアジア最貧国とも呼ばれたバングラデシュや、大洋州オセアニアのフィジーやパラオのような島嶼国もCGGSに毎回参加しています。


意外なところでは、
カスピ海(世界最大の湖)に面するアゼルバイジャンなども常連国。
(機関邦訳名は国境庁とするのが適当ではないかと思うのですが、参考資料に準拠しました。)



当然、
会合の参加には職員の渡航費用や滞在費がかかります。

それでもなおCGGSに参加し続けるのは、その国の海洋政策にかける意気込みの強さを示すものと言えるでしょう。

赤い枠はアルメニア。アゼルバイジャンとナゴルノ・カラバフ地域について係争中。

再参加国・機関

地域参加機関名組織
形態

2017
H29

2019
R1

2023
R5
1中米コスタリカ
沿岸警備隊
独立
2アジア香港警察/海上部警察
3アジアフィリピン
沿岸警備隊
独立
再参加国・機関


ここでは、
CGGSⅠに参加、
CGGSⅡには不参加、
CGGSⅢで再び参加した国・機関をご紹介します。

注目は何と言ってもフィリピン沿岸警備隊(PCG)。


海上保安庁とも連携訓練を行うなど長年交流があるのですが、実は意外なことにCGGSⅡには参加していません。

当時はアメリカと距離を置いていたドゥテルテ大統領の時代(2016~2022)でしたが、日本・海上保安庁との関係は良好でした。

たとえば2016年(平成28年)にドゥテルテ大統領が横浜海上防災基地を視察、翌2017(平成29年)には海上保安庁とPCGの協力覚書が交換されています。

私としてはこうした親密な記憶があっただけに、ふり返ってみるとフィリピンはCGGSⅡに参加していなかったのか…という意外な印象です。


しかし、
今回のCGGSⅢ閉幕直後に岸田総理・石井長官がPCG本部を訪問し、巡視船の供与を約束したことが大きな話題となりました。

「自由で開かれたインド・太平洋」
「法の支配による海洋秩序」を目指す日本にとって、同じ価値観を共有する国との連携が一層強化されることは喜ばしいことです。

TOPICS 海上保安の一年
08 フィリピン大統領による海上保安業務視察

平成28年10月27日、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、訪日にあわせ海上保安庁の業務を視察しました。
(中略)
また、日本からフィリピンへ供与予定の大型巡視船とほぼ同じ大きさの巡視船「もとぶ」を視察したドゥテルテ大統領からは、「海保の訓練は非常に良かった。有意義な訓練であった。」との感想をいただきました。

視察中のフィリピン大統領
(下列中央右)
海上保安レポート 2017年版 / TOPICS 海上保安の一年 > 08 フィリピン大統領による海上保安業務視 (mlit.go.jp)

過去参加したが今回不参加の国

地域参加機関名組織
形態

2017
H29

2019
R1

2023
R5
1アジア王立ブルネイ警察隊警察
2アジアラオス公安省独立
3アジアミャンマー海事局独立
4大洋州マーシャル諸島警察局警察
5大洋州ニウエ警察警察
6大洋州トンガ王国軍軍事
7大洋州ツバル警察警察
8大洋州バヌアツ警察警察
9中東サウジアラビア
国境警備隊
国境
10欧州ドイツ連邦警察警察
11欧州ロシア連邦保安庁
国境警備局
国境
12アフリカモーリシャス警察隊:
国家沿岸警備隊
警察
過去参加したが今回不参加の国

ここでは、
過去には参加したけれど、今回CGGSⅢには参加しなかった国を挙げていきます。

まず大きく目立つのは大洋州(オセアニア)の島嶼諸国の不参加。

逆に言えばCGGSⅡの特徴の一つはこうした国々の多数参加であったわけですが…。

オセアニア地域ではオーストラリア・ニュージーランドが影響力を持つ地域協力機構太平洋諸島フォーラムが形成されており、各国のCG機関の組織形態や使用船艇も類似・同型となっています。

しかし、最近のニュースではこのフォーラムの足並みが乱れているとの報道もあり、この地域の情勢に一抹の不安が残ります。
(観光で訪れるぶんには天国みたいな所なんですけどね…)


太平洋諸島フォーラム
4首脳が欠席、足並み乱れ目立つ
2023/11/10 17:55

太平洋島しょ国やオーストラリア、ニュージーランド(NZ)など18の国・地域で作る地域協力機構「太平洋諸島フォーラム(PIF)」の首脳会議がクック諸島で開かれ、9日、気候変動対策などについて議論した。

域内で中国の影響力が強まる中で、日米などはPIFを通じた島しょ国との連携強化を図るが、今回は4首脳が欠席するなど足並みの乱れが目立っている。
(中略)
今回は中国と安全保障協定を締結しているソロモン諸島のソガバレ首相が欠席。

太平洋諸島フォーラム 4首脳が欠席、足並み乱れ目立つ | 毎日新聞 (mainichi.jp)


次にウクライナの初参加とともに注目されたのが、ロシア不参加。

同国はCGGSⅠ・Ⅱに参加しており、今回は初の不参加となります。

日本とはオホーツク海を挟んで接していますが、他方でロシアは黒海・バルト海・北極海・北太平洋・カスピ海で多数の国々と接しています。

あらためてロシア国土の広大さを感じずにはいられないのですが、この大国が世界の海上保安の枠組みに入ってこないのはやはり憂慮すべき状況です。


もう一つ私が気がかりなのはミャンマー

ロシアのウクライナ侵攻、
ナゴルノ・カラバフ地域紛争、
ハマス対イスラエルの衝突などの様々な国際武力紛争の影にすっかり隠れてしまった印象があります。

これまでミャンマー連邦共和国からは運輸通信省海事局の職員がCGGSⅠ・Ⅱに参加していました。

また、
2015年(平成27年)には海保から同国へ航空機【ちゅらわし】を派遣。

さらに2018年度・2019年度(平成30年度・令和1年度)には海図作成能力向上のための研修生をミャンマーから受け入れています。

しかし、
2021年2月1日に発生した軍事クーデターにより、海上保安庁と同国海事局との関係は途切れてしまったようです。

その一方で同年10月6日にミャンマー沿岸警備隊が発足しています。

同国では運輸通信省などの非軍事組織を母体とする組織形態を模索していましたが、誕生した沿岸警備隊はミャンマー国軍の影響下に置かれたようです。

2023年10月6日には設立2周年を迎え、国軍最高司令官であり、かつ国家行政評議会議長の地位を手にしたミン・アウン・フラインがこれを祝福しているニュースも見受けられます。

Just a moment...



ただ、
この沿岸警備隊の実態をつかむのはなかなか難しく…、というより軍事政権の実態はベールに包まれたままです。

そうした背景もあったため、CGGSⅢにミャンマー沿岸警備隊が初参加か、あるいはミャンマー海事局が連続参加かを注目していたのですが…。

残念ながら、
今回はどちらの参加もありませんでした。

今となっては、かつて日本で学んだミャンマー研修生の方が無事であることを祈るばかりです。

7 海をつなぐ > CHAPTER II.
諸外国への海上保安能力向上支援等の推進
2 各国水路機関への支援

第48回目となる平成30年は、6月から12月までの約6ヶ月間、JICAと協力し、開発途上国で水路測量に従事する技術者6名(インドネシア、ミャンマー、パプアニューギニア、フィリピン)を対象とした、海図作製能力向上のための研修を開催しました。

本研修を修了した研修員には、水路測量国際B級資格が付与され、修了者の多くが各国水路当局の幹部として活躍しています。

測量船「明洋」による乗船実習
海上保安レポート 2019年版 / 7 海をつなぐ > CHAPTER II. 諸外国への海上保安能力向上支援等の推進 (mlit.go.jp)

そもそもCGとは何か?

ここからはCGGSが開催されることの意義を考えてみます。

その前提として。

そもそも”コーストガード”とは、
何なのでしょうか?

あるいは、
どんな業務を行う組織のことを、
”コーストガード”と呼べばいいのでしょうか?

この点について前掲『報告書』では次のように定義しています。

(2)海上保安機関(コーストガード機関)の概念

「コーストガード機関」
船艇、航空機等の実働勢力を用いて、
戦時以外の状況において、
海上の安全、治安及び環境保護の業務を

総合的に、あるいは
その一部分を実施している機関

「コーストガード」
自らの組織の英語名称としてコーストガードを使用している機関

「海上保安業務」
海上の安全、治安及び環境保護の業務



岩並秀一・大根潔
『世界の海上保安機関の現状に関する調査研究報告書』(公財)海上保安協会 2021.3

冊子版p5 pdf版10pより

調査研究報告書 | 海上保安資料館横浜館オンラインミュージアム (jcgmuseum.jp)



報告書では、
【コーストガード機関】と
【コーストガード】は区別されています。

これは単に対外的に”〇〇 Coast Guard”と名乗っているか否かだけでは、その組織の性格を定義づけることができないためです。

たとえば、
日本JCGアメリカUSCGが警備・救難業務その他を総合的に実施しているの対して、イギリスHMCGカナダCCGは救難と環境保護を専門とする機関です。

その他にもブラジル海軍のように直接に海上保安業務を行ったり、タイ海軍のように他機関を調整する機能を担うケースもあります。

つまり、
コーストガードと名乗っていないから「海上保安機関ではない」とも断定できませんし、さりとてコーストガードを名乗る機関がすべて同じ業務を行っているわけでもないのです。


このややこしさの理由について、
各国の海上保安機関などがどのような業務を任務とするのかは、

「それぞれの国の業務環境、政策、組織体制、各組織の発展経緯等の状況に応じて決定されるものであり、また、これら機関が急速に発展してきたのはここ数十年のことであるから」

…と『報告書』では述べられています。

考えてみれば警察・消防・軍隊(陸軍)にくらべて、近代的組織としての海上保安機関の歴史は浅いと言えるでしょう。

こうした歴史の浅さ・各国事情の多様さのために、海上保安機関の概念を「一意的に定義付けることは困難である。」とされています。

しかし、
そうした困難さを前提にしつつ、一応の包括的な定義を試みたのが
【コーストガード機関】という概念なのです。
(当サイトではCG機関と略す)

CGGS開催の意義①

さて。
CG機関のややこしさ・複雑さがおわかりいただけたでしょうか。

それでは、
そんな各国バラバラの名称・業務内容の機関が一堂に集まる意義とは何なのでしょうか?

それは世界のCG機関がまさに今、


自分たちは何者なのか?


自分たちは
何をなすべき存在なのか?


…というアイデンティティを模索する過程にあって、一つの方向性を見出すための場としてCGGSは機能している。

と、このように私は考えます。

もっと言えば、
その組織形態や業務内容がおぼろげな者同士が集まり、近しく接することで自分自身の輪郭を明瞭にすることができると思うのです。

そうした手探りの作業のなかから、自然とCG機関の在りようも一つにまとまっていくのではないでしょうか。

では一体どのような形にまとまるのか?
CG機関はどんな方向に発展していくのか?


この論点についてはまた別に検討してみたいと思います。

CGGS開催の意義②

もう一つの開催の意義は、
各国を代表するCG機関はどれなのか?が明確になる点だと私は考えます。

例えば海上保安庁やアメリカ沿岸警備隊について、日本やアメリカ合衆国を代表するCG機関かどうかを疑う人はいないでしょう。

しかし、
世界はそう単純な国ばかりではありません。

3つ例を挙げてみます。

まず、
CGGSⅡから参加していたイギリスの王立沿岸警備隊HMCG

何度か紹介したように同機関は救難と環境保護を専門としており、領海警備については別の国境警備隊ボーダーフォースに任されています。

ただし、この国境警備隊が使用する船舶にもレーシングストライプが描かれており、その外観だけをもってどちらがイギリスを代表するCG機関かを判断することはできません。

そこでCGGSの参加国リストを見れば、2回連続で参加したHMCGこそが名実ともにイギリスを代表するCG機関だとみなすことができるのです。


イギリス王立沿岸警備隊のボート

Albert Bridge / Coastguard boat at Bangor / CC BY-SA 2.0
File:Coastguard boat, Belfast – geograph.org.uk – 1443045.jpg – Wikimedia Commons

イギリス国境庁の巡視船

ポーツマス港を出港する英国国境局の船HMRCシーカー
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:P19_HMRC_Seeker_Portsmouth_Harbour.jpg


2つ目の例は今回初参加のラトビア。

同国には海軍の下部機関として
ラトビア沿岸警備隊が存在します。

ラトビア語では”Krasta apsardzes dienestsクラスタ アプサルデゼズ ディエネスツ“。
(と私には聞こえる)

この英訳は”Coast Guard Service”なので、私はてっきりこの機関がラトビアを代表するCG機関かと思っていました。

しかしCGGSⅢに参加したのは別組織
ラトビア国境警備隊

ということは、
ラトビア政府は海上保安庁の呼びかけに対して、KADではなく国境警備隊の方が派遣するに適当と考えたということになります。

こればかりは他国の人間が容易に推測できるものではありません。

ラトビア海軍沿岸警備隊の巡視船

KBV class Latvian coastal patrol boat “Kristaps”.
File:KBV class Latvian coast patrol boat.jpg – Wikimedia Commons

ラトビア国境警備隊のボート

Valsts robežsardze(20+) Facebook


3つ目の例は香港警察。

日本にとっては中国海警局の活動ばかりが目立つので、なんとなく香港地域の海上保安も中国海警局の管轄かと思っていました。

しかし一国二制度の下に香港特別行政区政府が設置した香港警察の海上部が、CGGSⅠとⅢに参加しています。

香港における海上保安はこのまま香港警察にゆだねられるのか、あるいは中国本土の海警局に吸収されるか?

これも他国の人間からは推測が難しいところです。


以上のように、
CGGSに参加する・しないはその機関が国内外に対してCG機関としての地位を明確にする意味を持ちます。

簡単に言えば、
子供の遊びの一つ「この指とまれ!」のようなもの。



もし海上保安庁の呼びかけに中国海軍やロシア海軍の軍人が参加してきたら、彼らは会場で相当な疎外感にさいなまれるでしょう。

逆に海上自衛隊が同盟国会議を呼びかけたとして、アメリカ沿岸警備隊やカナダ沿岸警備隊の方に来られても困ると思います。

ちょっと妙なたとえをしましたが、CGGSに参加するということは各国政府が「我が国のCG機関はコレだ!」と内外に表明しているのと同じこと。

反対に他国からすれば「我が国のCG機関の対等の交渉相手カウンターパートはどれか?」ということがわかりやすくなる効果もあります。

そして将来的にCGGSが世界中の海洋国の参加を得たならば、

コーストガードとはどの組織を指すのか?

それはCGGSに参加した機関がコーストガードなのだ。

と逆説的に答えることも可能であろうと思います。


まとめ

今回は計3回のCGGSをふりかえって世界情勢を動向を読み解きつつ、開催の意義について考えてみました。

さてCGGSⅢの閉幕に当たり、議長を務めた石井昌平長官は「引き続き有効に機能させていく必要性を確認した。」

と総括しています。

それでは日本の海上保安庁が運営してきたこのプラットフォームは、今後どの国がどのように引き継いでいくのでしょうか?

そしてCG機関の在り方、世界の海上保安業務はどう変化していくのか?

今後、日本の海上保安庁はどのような形で世界に貢献していくのか?

こうした点について、
次回はCGGS参加国の組織形態に着目して考察していきたいと思います。


参考動画

【密着】世界の海上保安機関トップが集結 会議の裏の“オモテナシ” 2023/11/04

CGGS参加国一覧

地域参加機関名組織
形態

2017
H29

2019
R1

2023
R5
1北米カナダ沿岸警備隊独立
2北米アメリカ沿岸警備隊独立
3中米バハマ国防軍軍事
4中米コスタリカ沿岸警備隊独立
5中米エルサルバドル海軍軍事
6中米グアテマラ国防軍軍事
7中米ハイチ海運局独立
8中米ジャマイカ国防軍沿岸警備隊軍事
9中米メキシコ海軍軍事
10中米セントクリストファー・
ネービス国防軍沿岸警備隊
軍事
11中米セントビンセント及び
グレナディーン諸島警察
沿岸警備隊
警察
12中米トリニダード・トバゴ国防軍
沿岸警備隊
軍事
13南米アルゼンチン沿岸警備隊独立
14南米ブラジル海軍軍事
15南米チリ海軍
海上領域商船総局
軍事
16南米コロンビア海軍軍事
17南米エクアドル海軍軍事
18南米ガイアナ国防軍軍事
19南米パラグアイ海軍軍事
20南米ペルー港務沿岸警備総局軍事
21アジアバングラデシュ沿岸警備隊独立
22アジア王立ブルネイ警察隊警察
23アジアカンボジア国家警察警察
24アジア香港警察/海上部警察
25アジア中国海警局治安
26アジア中国海事局独立
27アジアインド沿岸警備隊独立
28アジアインドネシア海上航空警察警察
29アジアインドネシア運輸省
海運総局警備救難局
(KPLP)
独立
30アジアインドネシア海上保安機構
(Bakamla)
独立
調整
31アジア日本海上保安庁独立
32アジア韓国海洋警察庁独立
33アジアラオス公安省独立
34アジアマレーシア海上法令執行庁独立
35アジアモルディブ国防軍沿岸警備隊軍事
36アジアミャンマー海事局独立
37アジアパキスタン海上警備庁独立
38アジアフィリピン沿岸警備隊独立
39アジアシンガポール警察沿岸警備隊警察
40アジアシンガポール海事港湾管理局独立
41アジアスリランカ沿岸警備隊独立
42アジアタイ国家警察/海上警察部警察
43アジアタイ海上法令執行司令センター調整
44アジアタイ海事局独立
45アジア東ティモール国家警察
:海事警察ユニット
警察
46アジアベトナム沿岸警備隊独立
47大洋州オーストラリア国境警備隊
/海上国境司令部
国境
調整
48大洋州クック諸島警察警察
49大洋州フィジー共和国海軍軍事
50大洋州キリバス警察隊警察
51大洋州マーシャル諸島警察局警察
52大洋州ミクロネシア国家警察警察
53大洋州ナウル警察警察
54大洋州ニュージーランド王立海軍軍事
55大洋州ニウエ警察警察
56大洋州パラオ司法省
海上保安・魚類野生動物保護部
独立
57大洋州パプアニューギニア国防軍軍事
58大洋州サモア警察警察
59大洋州トンガ王国軍軍事
60大洋州ツバル警察警察
61大洋州バヌアツ警察警察
62中東バーレーン沿岸警備隊独立
63中東イラン沿岸警備隊国境
64中東ヨルダン海軍軍事
65中東オマーン王立警察沿岸警備隊警察
66中東カタール沿岸警備隊独立
67中東サウジアラビア国境警備隊国境
68中東トルコ沿岸警備隊独立
69欧州アゼルバイジャン国家国境庁国境
70欧州ベルギー沿岸警備隊調整
71欧州エストニア警察国境警備隊国境
72欧州フランス海洋事務総局調整
73欧州ジョージア沿岸警備隊国境
74欧州ドイツ連邦警察警察
75欧州ギリシャ沿岸警備隊独立
76欧州アイスランド沿岸警備隊独立
77欧州イタリア沿岸警備隊軍事
78欧州ラトビア国境警備隊国境
79欧州リトアニア国境警備隊国境
80欧州マルタ国軍軍事
81欧州オランダ沿岸警備隊調整
82欧州ノルウェー王立海軍
沿岸警備隊
軍事
83欧州ポーランド国境警備隊国境
84欧州ポルトガル海事局軍事
85欧州ルーマニア国境警察国境
86欧州ロシア連邦保安庁
国境警備局
国境
87欧州スペイン治安警察海上業務隊治安
88欧州イギリス王立沿岸警備隊独立
89欧州ウクライナ国境警備隊国境
90アフリカアルジェリア海軍
沿岸警備局
軍事
91アフリカベナン海軍軍事
92アフリカカメルーン海軍軍事
93アフリカコモロ沿岸警備隊独立
94アフリカジブチ沿岸警備隊独立
95アフリカエジプト海軍軍事
96アフリカガーナ海事局独立
97アフリカケニア沿岸警備隊独立
98アフリカケニア海事局独立
99アフリカマダガスカル海軍軍事
100アフリカモーリシャス警察隊
:国家沿岸警備隊
警察
101アフリカナイジェリア海事安全庁独立
調整
102アフリカセネガル
海上安全・治安・海洋環境保護
調整担当高等庁
調整
103アフリカセーシェル国防軍
沿岸警備隊
軍事
104アフリカシエラレオネ海事局独立
105アフリカソマリア沿岸警備隊独立
106アフリカ南アフリカ海上安全局独立

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