巡視船まつしまが見た3.11大津波【前半】

2011年(平成23年)3月11日、
【巡視船まつしま】が遭遇した津波の動画を文字起こししました。

はじめに

巡視船「まつしま」、
大津波に遭遇!

平成23年3月11日午後3時49分ころ、巡視船「まつしま」(宮城海上保安部所属)は、福島県相馬市の沖合約5km海上において大津波に遭遇し、そのときの様子を撮影しました。

「まつしま」は、津波を横から受けないよう、押し寄せる大津波に対して船首を垂直に向け、また乗り越える際は速度を落として安全を確保しつつ、幾重にも連なる10mを超える大津波を乗り越えました。

その後、「まつしま」は沿岸に戻って捜索救助活動を行いました。

海上保安レポート 2012年版 / 特集 東日本大震災 > I 未曾有の大震災 > 1.我が国観測史上最大の巨大地震・大津波 (mlit.go.jp)


2011年(平成23年)3月11日の金曜日。
14時46分。

みなさんはどこで何をされていましたか?

私は横浜市で勤務しており、机の書類に目を通していました。

急に頭がふらついて、めまいかな?と思った瞬間に、同僚の携帯電話から緊急地震速報が流れ始めました。

その後、
断続的に続く揺れと、テレビに映し出される惨状に呆然としたのを覚えています。

この東北地方太平洋沖地震を原因とする【東日本大震災】は、主に東北地方沿岸に押し寄せた大津波によって生じました。

そして沿岸に向かってくる津波に沖合で遭遇し、それを乗り越えていく巡視船の動画が海上保安庁から公開されています。

この動画は、津波がいかに巨大なものであったかを示す貴重な資料です。

そのため今でもインターネット上の動画サイト(YouTubeやニコニコ動画)で視聴することができます。

さらに視聴者からは津波を乗り越える船・乗組員の様子にも注目が集まりました。


さて。
東日本大震災からまもなく12年、今回はこの動画を文字起こししました。

さらに当時この動画を観たことがある方にも、改めて発見があるよう私なりに解説も加えてあります。


なお、
これは私がヘッドフォンで頑張って聴き取っただけのものです。

なので、うまく聞き取れなかった部分もあります。

また、動画の内容では専門用語が飛び交います。

私はまったくの素人なので、聴き取りが誤っている可能性があります。
(色々勉強しましたが、どうしてもわからなかった箇所もあります。)

この点はご容赦いただくとともに、専門家のご指摘をいただきたいです。

それでは今回は動画前半、
第1の波遭遇までを観ていきます。

まつしまと乗組員たち

しれとこ型巡視船 – Wikipedia


まずは船と登場人物の紹介から。

今回の元動画は【PL126まつしま】の乗組員が船内から撮影したものです。

【まつしま】はこの船の2番目の名前で、全長は77.8m。

1980年くにがみ11管区本部
(那覇)就役
2009年まつしま宮城転属
による改名
2011年東日本大震災
に遭遇
2014年おしか新まつしま就役
による改名
2016年解役
PL126船歴


当時の乗組員で船橋にいたと判明しているのは、次の5名の方々です。

【船長】
 船の総責任者。
 航海長に対して指示を出している。
 気さくで豪放磊落な印象。

しかし部下への注意喚起も忘れない。

【航海長】
 船舶運航の責任者。
 「両舷前進〇〇度」の指示を出す。
 常に冷静沈着なイメージ。


【主任航海士】
 レーダー担当。
 岡田さん・岡田君と呼ばれている。


【通信長】
 位置や津波の大きさを関係先に通報する。
 後に業務管理官として再任する。


【主計士補】
 担務は調理や庶務。
 それ以外の警備救難業務もこなす。
 『海上保安レポート』に証言を残す。

VOICE 震災の記憶
沖合で大津波を乗り越えた巡視船「まつしま」乗組員の声


第二管区海上保安本部 宮城海上保安部
巡視船「まつしま」
主計士補

長期のしょう戒業務も最終日に近づき、そろそろ基地へ帰れると思ったまさにその日の出来事だった。激しく長い揺れが収まりラジオをつけると「大津波警報」と放送されていた。当時、「まつしま」は福島県相馬港内で錨を降ろしていたので、緊急出港した。

津波到達予想時刻を過ぎてもほぼ海面に異変はなく、ほっとしたのも束の間、「まもなく津波第1波が到着する、衝撃に備え身体を保持せよ!」という船内放送。私が操舵室へ入ると大津波が迫ってきていて、まるで一面「壁」が向かってくる様だった。

私は姿勢を低くして手すりにつかまり身体を保持した。「もしかしたら転覆するのでは…」というとてつもない恐怖を感じた。
(後略)

海上保安レポート 2012年版 / 特集 東日本大震災 > I 未曾有の大震災 > 1.我が国観測史上最大の巨大地震・大津波 (mlit.go.jp)

5名以外にも、
業務管理官(船のナンバー2)、
首席航海士
航海士(操舵担当)が船橋にいたと推測されます。

その他、ワッチ(見張り)の若い乗組員たちの声も聞こえます。

【動画】福島県沖・大津波に遭遇した巡視船(海上保安庁提供映像)

福島県沖・大津波に遭遇した巡視船 【海上保安庁提供映像】2015年4月15日公開 フジテレビ系列28局FNN「フジニュースネットワーク」公式チャンネル

※設定メニューから字幕ONにできます。
※字幕において陸上マイルと海上マイル(海里)を混同している表記があります。

第1の波、手前まで

※仙台市の南:相馬港を出港し、
一旦は南下した後、
大まかに東の方向へ船は進んでいる


**さんワッチどうします?

3.3マイル。
(約6km)
はーい。

お、ワッチこれから行く。
―はい。

ちょっとビデオカメラを誰かに代わって…


【船長】
前の船のね、あれ様子見といて。
前の船、あの1時方向の船

前の船の様子。
前の船、今到達しましたー。
今、***です。


今、登ってる。
登ってる、登ってる。
越えた。
越えた、越えた、越えた。
越えた越えた越えた…。


ちゅーことは波高が10mあるナァ。

3マイル。
(約5.6km)

おおーっ…すごい!

左、***ます。
こわい!
しかも一回チューブ出たね!?

うわっこれすごいな!
チューブまで行ってるじゃんか。

うわーすごい!
やばい、やばいこれはどうしよう。

2.8マイル。
(約5.2km)

まっすぐ向けて


まっすぐ行って!
はーい。
今行きまーす。


3マイルぐらいで、
10mの波高が向かってまして、
(10mだね。)
今、ちょうど直角に向かってます。

【業務管理官?】
津波班
波高は10m以上だから、

―10m以上だったら…

各位気をつけて。

―はい。


体を保持してくれよー。

***、
俺ちょっとワッチだから、
代わってもらっていい?

で、これズーム。

2.6マイル。
―2.6。
(約4.8km)

このままずっと
流し続ければいいですか?
あんまり動かさないように…。

最悪これもあるから、三脚も。
―はい。

2.5マイル。
(約4.6km)

今、360回転の20度ふた…じゅうどです。
(北緯)37度45.57。
今、11ノット。
(約時速20km)
位置方向70度。

村田、交代したから航海長…
―はい、わかりました。

現在40度です。

チューブ巻いてる。

あんまりいじると振動が来るから。
本当はこれある程度浮かして、
体に着けておく。

(左でチューブ巻いてる。)
着けて浮かしてた方が、
振動自分で抑えられるんで。

第**波まであと2マイル。
(約3.7km)
―はーい。

でかい。
明らかにでかい。

両舷前進りょうげんぜんしん15度。
―両舷前進15度。
はい。

【船内放送】
『あと…』

―2マイル。

『2マイル、あと2マイル』


スピードをねぇ…

―両舷前進15度。

両舷前進7度。
―両舷前進7度。

あ、7度じゃ効かなかった。
うん。

両舷前進10度。
―両舷前進10度。

ゆ~っくり。
本当にゆっくりでいい。
―はい。

来るぞ~!


自分でゆっくりと思っても
かなり…。

―両舷前進10度。

1マイルぐらい。

あと1.5マイル。
(約2.8km)

【ニュース音声】
…には3m(4m?)を超す

津波が観測されています。

向こうの船見えましたね。
ん、いや、今出てきたの、
たぶん津波じゃないかな。

現在70度。
―はーい。

あと何マイル?
―あと…1.3マイル。
(約2.4km)
1.3。

…そして石巻市では
3.3mの津波を観測しています…

岡田、
100mある高水線超えるの、
あとどのくらい?
―100m?
水深、水深。

【ピーピーピーと電子音】

第1の波、遭遇


お。
おい一発目来たぞ。ほら。
盛り上がって。

津波まで、
残り1.1マイル。
(約2km)

【小さな波が沖へ向かっていく】

これ後ろから来たやつだ。
これ跳ね返りのやつだな。

あ、こっち跳ね返り。
**あったときが怖いな。

まだまだ沖です。
―まだまだ沖。

9!(ケーブル)
(約1.7km)
あと9!

ガラス割れるかもしれんから
気をつけろー!?

【窓ガラスをノックする音】

【通信長?】
はい、沿岸まで大体2.6、

(でかっ…。)
2.6マイル北の方まで
ずーっと続いております。
どうぞ。

あと8ノッ、8ケーブル。
(約1.5km)
―はい。


放送してくれ!

まもなく来るよ!


総員!なんかつかまれ!

―つかまれ。
―つかまれ。

『総員、つかまれる所につかまれ』
『総員…姿勢保持』

あと5ケーブル。
(926m)
―はーい。

『津波まであと5ケーブル』

頼むぞー!

来るよー。

行くぞー!

でかい…。
カメラ(?)も抑えとけよ。


小松頼むぞ、保持してくれ。

―はい。

***撮らせてください。

しっかり自分を保持しろー。


つかまれ、つかまれ、つかまれ。
(でかっ…。)
つかまっとかないと…、
どうなるかわかんないよ。

10mだな。

路肩に停めて
車から降りてください…


えぇ~っ!?
えー!
津波初体験だな。
おおおおおおおおおおお
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
うわっ!
おおおおおおおおおおお
…おっしっ…

…おっしゃ…
越えた…

【第1の波を乗り越える】


第二弾来るからな!

…後半に続く…

用語解説

・マイル
 長さの単位。日本語では海里かいり
 1マイル(海里)=1.852km

・ケーブル
 長さの単位。日本語ではれん
 10ケーブル=1マイル=1.852km

・ノット
 1時間で1海里進む速さの単位。
 1ノット=時速1.852km
 10ノット=時速18.52km

・チューブ
 筒状になった波、巻波まきなみ
 サーフィンの場面で好まれる。

・高水線
 水陸の境界線。
 満潮最高時を高水線、
 干潮最低時を低水線という。
 

解説:両舷前進〇〇度

「両舷」
【まつしま】の船尾にはプロペラ2本が並列する形で備わっている。この左右のプロペラ両方のことを意味する。

・「前進〇〇度」
【まつしま】のプロペラは【可変ピッチプロペラ】という種類。プロペラの羽の角度ピッチ(翼角)を変えることができる。角度の調節によってスピードの増減や後進も可能。ある一定の角度までは、数値が大きいほど増速する。

・号令
操船は指揮者の号令と操舵者の復唱によって行われる。【まつしま】の場合は、航海長の指示によりが航海士がプロペラの角度を変えている。指示通りの角度に変更完了したときに、航海士がもう一度復唱する。

追記:2023.03.21
可変ピッチプロペラの角度調節は、

ブリッジにいる機関科職員の担当かもしれません。
今後の巡視船一般公開のときに確認してみます。
 
2023.7.18
海保職員の方によると、
可変ピッチプロペラのコンソール自体は機関科の所掌。
入出港時は機関科職員が操作、
通常航行時は航海科職員が操作するそうです。

はねかえりの波

ここからは船長の言葉に注目していきたいと思います。

まず、
第1の波を乗り越える前、不意に現れた小さな波が沖に向かっていく様子が映っています。

これ後ろから来たやつだ。
これ跳ね返りのやつだな。

実はこの動画の録画開始前に、【まつしま】は津波第一波を通過していたようです。

ただし、この時点は船に脅威を与えるような大きな波ではなかったのでしょう。

このため、
実際に生じた海象としての津波(第〇〇波)と、船長が言っている言葉にはズレがあります。

そこでこの記事では下表のように整理しました。

海象として
の津波
船長の
セリフ
この記事
での呼称
第一波
第二波一発目第1の波
第三波第二弾第2の波
第四波第3の波

船長の注意喚起

じりじりと近づく10mの巨大な水の壁。

それを乗り越える際の緊張と不安は、いかばかりだったでしょうか。

動画の背景からは若い乗組員たちの、動揺や驚愕の声が漏れ聞こえてきます。

その一方で、航海長と航海士らの「両舷前進〇〇度」「あと〇〇マイル」の淡々としたやりとりが続きます。

こうした様々な感情が錯綜する船橋で、船長は部下たちに様々な注意を促します。

たとえば津波が近づくと、
「ガラスが割れるかもしれないから気を付けろ」と声をかけています。

この時、船長が窓ガラスをコンコンとたたく音も聞こえます。

どうしても目の前の津波に見入ってしまうところ、とっさに自船の安全に意識が行くのは船長の立場ならではでしょうか。

その後、
船長は船内放送を流すよう指示を出します。

放送してくれ!
総員!なんかつかまれ!


これはおそらく「総員、衝撃に備えよ」と言いたかったのではないかと思います。

しかし、一瞬言葉が詰まったのか、何かにつかまれと言葉を続けています。

結果として、乗組員が何をすべきか具体的な指示ではありました。

その後、船内放送で『総員、姿勢保持』と言い直しているのがナイスフォローですね。

船と人への信頼

頼むぞー!
行くぞー!
小松頼むぞ、保持してくれ。

第1の波までいよいよあと5ケーブル。

残り1kmを切ったところで船長がしぼり出すように声を発します。

その声に緊張は感じられるものの、恐れるような印象は受けません。

むしろこの巨大な波に負けまいとする意志を感じます。

ところで、
最初の「頼むぞー!」は誰に向けた言葉だったのでしょうか?

私はこれを船長の【巡視船まつしま】に対する叱咤激励だと考えます。

なお、【まつしま】はこの時点で船齢30年を超えていました。

したがって船体強度についての懸念はあったかもしれません。

しかし、
それ以上に「無事、この波を乗り越えてくれ!」という、船への祈りが込められているように感じました。

これに対して、
その後の「行くぞー!」は自分と部下たちを鼓舞する声かけでしょう。

また、最後に名前が出てきた「小松」さんは、おそらく操舵員ではないかと推測します。

文字通り、
この船の舵取りを任された彼の緊張も相当なものだったはず。

そして、
ついに第1の波に直面した瞬間。

まさしく船と人とが一体となって、乗り越えたように私には思えました。

終わらぬ津波襲来

無事、津波を通過した【まつしま】

船内では安堵の吐息が漏れる中、船長が間髪入れずに第2の波を警告します。

繰り返し押し寄せる津波に、船はどう向かって行ったのでしょうか?

次回は動画の後半までと、
【まつしま】と乗組員たちのその後を観ていきたいと思います。



後半につづく


【動画の出典等について】

元の動画は現在でも海上保安庁HPに掲載されています。しかし動画拡張子が古くなっているせいか、現在のPCでは正常に再生することができません。

そこで今回はYouTubeのFNN公式チャンネルのものを掲載しています。なお、ニコニコ動画のものには、解説コメントも寄せられています。

動画の文字起こしの先行例として、こちらのHPの方が作成されたテキストがインターネット上に残っていました。ただし現在はHP上に掲載されていないようです。FNNの字幕とともに記事作成の参考とさせていただきました。

文字起こしの正確性に資するため、いずれも参照いただくと幸いです。

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