瀬口次長、コーストガードを語る(前半)

2022年(令和4年)11月29日、第9回海洋安全保障シンポジウムで元・第三管区本部長の講演がありました。

はじめに

笹川平和財団海洋政策研究所と水交会との共催で、第9回海洋安全保障シンポジウムが開催されました。

シンポジウムタイトルは、


海上自衛隊と海上保安庁
~似て非なる組織のこれまでとこれから~

会場での参加とインターネット配信が行われています。

その中で、元・第三管区海上保安本部長であった遠山純司さんが、尖閣諸島での警備活動と海上保安官の精神について語っておられます。
(以下の文章では、尖閣警備担当時代の「次長」の肩書でお呼びします。)

シンポジウム全体の中のわずか10分ちょっとの短い発言ですが、大いに聴きごたえのある内容でした。特に現場指揮官としての決意や思いは、これまで知られてこなかったことだと思います。

そこで今回は、この動画の音声を書き起こしてみたいと思います。

ただし、
これは私がヘッドフォンで頑張って聴き取っただけのものです。なので、うまく聞き取れなかった部分もあります。

そこはどうぞご容赦ください。
(カッコ書きは私の注釈です。)

なお、
このプレゼンで用いられた資料は笹川平和財団HPに掲載されています。

パネルディスカッション資料①

第9回海洋安全保障シンポジウム 「海上自衛隊と海上保安庁~似て非なる組織のこれまでとこれから~」
笹川平和財団は国際理解・国際交流および国...

講演者の紹介

遠山 純司(とおやま あつし)
・日本水難救済会理事長
・元海上保安庁第三管区海上保安本部長

(略歴)
1985(昭和 60)年 3 月海上保安大学校本科卒業、巡視船しきしま(初代主任砲術士)、巡視船ざおう(首席航海士)、練習船こじま(航海長)等の船艇勤務、

海上保安庁本庁(警備第一課、警備第二課、国際課、国際刑事課、教育訓練管理官等)、

フィリピン海上保安人材育成プロジェクト初代長期専門家、内閣官房内閣情報調査室国際部内閣参事官、第九管区海上保安本部警備救難部長などを経て、2016(平成 28)年 4 月第十一管区海上保安本部次長(那覇)、2017(平成 29)年 4 月石垣海上保安部長、2018(平成 30)年 7 月第十管区海上保安本部長(鹿児島)、および 2020(令和 2)年 4 月第三管区海上保安本部長(横浜)。

その後、公益社団法人日本水難救済会常務理事を経て、現職。日本大学危機管理学部非常勤講師も務める。

第9回海洋安全保障シンポジウム 「海上自衛隊と海上保安庁~似て非なる組織のこれまでとこれから~」 | ニュース-お知らせ | 笹川平和財団 – THE SASAKAWA PEACE FOUNDATION (spf.org)

【動画】海上自衛隊と海上保安庁~似て非なる組織のこれまでとこれから~

笹川平和財団海洋政策研究所・水交会 第9回海洋安全保障シンポジウム(2022年11月29日)

帝国海軍との縁

瀬口 義雄 海上保安庁副長官
こんばんは、皆様。私は海上保安庁の者です。質問してもよろしいでしょうか。ありがとうございます。このような機会をいただき、誠にありがとうございます。この会議に招待していただき、大変光栄に思います。私の隣にいる同僚が私のコメントを翻訳または通訳します。

みなさん、世界は海でつながっています。法の支配による海洋秩序の維持は、地域や世界の平和と繁栄にとって不可欠であります。海上保安機関の果たすべき役割は、あくまでも国際法にのっとり法執行に従事すべきものであります。

海上保安機関は法による正義であり、力による正義ではありません。もちろん、海上保安機関による法執行活動は国際法に基づかなければなりません。法執行活動で重要なことは警察比例の原則に従うことであり、実力の行使には厳格な必要性と比例性が求められます。

海上保安機関による実力の行使は、違法な行為を制止するためのものであり、決して人を傷つけたり物を破壊するためではありません。法執行活動は国際法に則り、警察比例の原則の下で行われる以上、法執行船同士が向かい合うことがあっても、事態が紛争へとエスカレートしにくいです。

我々は国際法を正しく理解し、実践しなければなりません。国際法を濫用して他国の権利を侵害してはなりません。そして海上保安機関の船舶を現状変更の道具として用いることがあってはいけません。

海上保安機関間の信頼醸成は、法の支配が適切に機能するために不可欠な基盤です。信頼醸成のためには、自国の海上保安機関の情報公開に加え、各国の海上保安機関と各種会合や訓練などの交流を通じてコミュニケーションを図り、相互理解と信頼を構築していくことが大切であると思います。

議長、発言の機会をいただきありがとうございました。

Yoshio Seguchi, Vice Commandant, Japan Coast Guard
Good evening, ladies and gentlemen. I am from the Japan Coast Guard. May I ask the question? Thank
you very much. Thank you very much for the opportunity. I am very honoured to be invited to this
conference, so that my colleague sitting next to me will translate or interpret my comment.

The world is connected by oceans, and maintenance and maritime order based on the rule of law is
indispensable for the peace and prosperity of respective regions and the world. The role of the
coastguard agency is to conduct law enforcement in accordance with international law. A coastguard
agency is justice by law and not justice by force. Naturally, law-enforcement activities by coastguard
agencies must be in accordance with international law. The key point in law-enforcement activity is the
police concept of principle of proportionality, and the strict criteria of necessity versus proportionality
must be applied regarding the exercise of force.
The exercise of force by a coastguard agency is to prevent or mitigate illegal activities and must never
be to harm or damage property. As long as law-enforcement activity is in accordance with international
laws and executed under the principle of proportionality, even if two law-enforcement ships will come
head to head, it is unlikely that the situation will escalate into conflict. We need to understand
international laws accurately and practise it. One must not abuse international laws to violate the rights
of other nations, and coastguard-agency ships must not be used as tools to change the status quo.
Building confidence in coastguard agencies is an indispensable foundation to ensure that the rule of
law functions properly. For confidence building, in addition to nations disclosing information about its
own coastguard agency, it is important to have continuous exchange through various meetings,
conferences, interactions, so that the coastguard agencies themselves can enhance their communication
with their foreign counterparts. Thank you very much for this opportunity, chairman.

みなさん、こんにちは。

日本水難救済会理事長、令和3年の3月まで第三管区海上保安本部長、それまで40年間海上保安庁に奉職してまいりました遠山です。
よろしくお願いいたします。

本日は非常に歴史のある水交会と笹川平和財団のコラボの、こういったシンポジウムにお呼びいただいて本当に光栄に存じます。

実はちょっと、
私、プライベートのことに触れさせていただければですね、
実は私の亡くなった父親が海兵(海軍兵学校)の最後の生徒、78期でございます。
正確には予科兵(予科生徒)ということでですね。

昭和20年の4月から半年間長崎県の針尾で、当時の(教官兼)監事の堀内豊秋大佐の指導の下に、帝国海軍の教育を受けたということで。

実は堀内大佐は私の高校の先輩でもございまして、非常にそういうふうに縁を感じているところでございます。

で、わたくし小学校6年、
昭和47年の8月に父親の同期会が、江田島の幹部候補生学校でございましてですね。

何も知らずについて行きまして。
で、まぁあの非常に白亜の大講堂、赤レンガの生徒館、緑の芝生のグラウンド。
インパクトをすごく感じました。

中でも一番やっぱり強く感じたのは、教育参考資料館で初めて接した特攻隊の方の遺書ですね。

今の日本の豊かな平和というのが、当たり前に与えられたんじゃなくて、こういう尊い犠牲のもとに成り立っているということを初めて近く感じましてですね、
自分の人生もそういった分野で貢献していきたいな、というふうに初めて感じた次第です。

で、
中学2年に海保という存在を知って、
それから海保一筋で生きてまいりました。

同じ海を守る者として

わたしは40年の間に尖閣警備の方も、
現場の方で深く関わることができましたんで、この機会に特に尖閣警備に当たっている海上保安官。
どんなことを実際にやっているか?ということ。

それから、
それに従事する海上保安官の魂というか気持ち。
強い気持ち。

ここを皆さん方にちょっとご紹介したいな、というふうに考えております。

さきほど二川(ふたがわ)学校長の方からもありましたけども、やはり知ってるようで知ってないところがあって。

私も色々な方、自衛隊の方と接してですね、海保のことあんまり理解しておられない方もいらっしゃる。

これはやっぱり同じ海をフィールドにして、日本の海を守っていく立場として、お互いの相互理解を深めなきゃいけないと強く感じております。

そういうことの一端に、
少しちょっとお手伝いさせていただければなと思っております。

現場に向かうに当たって

私、平成28年の4月に、
沖縄の第11管区海上保安本部の次長、領海警備担当の次長で就任いたしました。

で、その8月ですね。
28年の8月。
7月まではこれ毎年、中国漁船というのは禁漁期間。
海洋資源の保護ということで禁漁なんですけども。

8月の、この年は1日に禁漁明けということで。禁漁明けのときから、たくさんの中国漁船が出てくるだろうということは予想しておりまして。

それなりの体制を組んで配備しておりましたけれども、特にこの年はたくさんの漁船が尖閣の周辺に押し寄せてまいりました。

で、
8月1日からずっと注視してましたけれども、段々段々やっぱり島の方に近づいてくると。

それにともなって、
今度は中国の海警局の船が中国漁船を守るような形で、どんどん近づいてくるということで。

「これ、そろそろちょっと現場に行かにゃいかんな。」と。

11管区の領海警備担当次長というのは、非常に現場が緊迫した状態になってきたとき、ヘリで現場の指揮船に行きましてそこで直接指揮をとるというような、そんな任務を得ております。

したがって、
執務室には必ず大体一週間分ぐらいの下着を入れた旅行パックを置いて。
これ、もちろん下着は全部新品をそろえておりました。

で、
まぁ自分自身への何ていうか気合入れもありますけれども、遺書みたいなのを書いて、それは執務の机の方にちょっと置いてったんですけど。

そういう気合入れをして、現場に臨むというところ。

このときの長官が先ほど基調講演しました中島さんでですね。
8月の5日の朝ぐらいから、本庁の課長あたりから漏れ聞いてきて、
「おう遠山、いつ頃行くんだ?」という…。

「ちゃんと準備してます。」と。
そこは阿吽の呼吸で現場に行く、という判断をすることができました。

その8月の5日から大体8月11日まで約一週間、現場指揮船、当時は【みずほ】
巡視船みずほでしたけども。
そこで直接指揮をとるという経験をしました。

3つの指示

このときですね、
トータル的に大体200隻ぐらいの中国漁船が尖閣周辺に押し寄せて。

そして、
中国の海警局の船、のべ28隻が入れ替わり立ち替わり、尖閣の領海に入ってきたという、そういう状況でございました。

で、私このときに現場の船に指示を出したのが三つございます。

まずは、
断固として上陸させない。
断固として島を守り通す。


したがって、
中国の船と島の間に必ず占位して抜けさせないと。
絶対抜けない。
これが第一の指示ですね。

それから二つ目。
船体同士を絶対にぶつけないと。

これトラブルの元です。

向こうがぶつけてきたとしても、
絶対にこっちからぶつけてきたと言いがかりをつけます。

ですから必ず間合いを打つ。

これ剣道をいそしんでいる方、わかると思いますけど、一足一刀の間合いですね。

一歩出れば相手を制圧できる、
一歩引けば相手の攻撃をかわせるという絶妙の。

こういう「一足一刀の間合い」で、
かつ「後の先」で。
こっちからは仕掛けない。
仕掛けてきたときには必ずそれをかわす。

そういう剣道の極意で警備に当たったというのが、これが実態でございます。

それから三つ目は、
採証活動を絶対怠らない。


ビデオそれからカメラで、我々の業務の正当性っていうのを世界に発信するんだと。

この三つを指示事項としてやりまして。

そして中国海警局の船にはマンツーマンで船を付けて、プラス・ゾーンディフェンスで。
これもう相手船よりも数倍の勢力で警備を行いました。

阿吽の呼吸

このときにですね、
やっぱり一番、精神的に落ち着いて指揮できたのは、
まずやっぱり中央にいる長官始めとした幹部が、まさにその尖閣警備の経験もある、船の経験もある、現場のことをよくわかっている幹部が指揮をとってくれてる。

それから現場の船長。
大体私の先輩・同期・後輩あたりが、近い位置の人が船長で指揮をとってるんですけれども。
大体性格でわかるんですね。

謹厳実直な船長はちょっと間合いが広がるんで、もうちょっと前に行こうか、と。

それからアグレッシブな船長は、逆に段々段々近づいていくんで、もうちょっと間合いとりましょうね、というような。

まぁそんな一人一人、
指揮官の考えが全部こっちはわかる。

たぶん中央の方も、
私のことを全部把握しておられるんで、阿吽の呼吸で仕事ができた。
警備を図れた。

これが一番やっぱり落ち着いて仕事ができた、大きな要因だと思います。

あの~、
『踊る大捜査線』という映画があって。
柳葉敏郎演ずる室井管理官が、
中央の方からガンガン思いつきの指示を受けて四苦八苦している。

あれと真逆の状況、
現場では繰り広げられました。

逆に私は何も言ってこないんで、不安になりましてですね。

「ちゃんと見てくれとんのかな、こりゃ?」

ということで、
夕方ちょっと状況が落ち着いたときに、
管区本部長を通じて「どうですか?」と。

「現場の状況こうやってますけど、何か文句ありませんか?」
って話したら、

「いやいや、もうその通り、今の通りでやってくれればそれでいい。」
ということでですね。
本当に終日落ち着いて指揮がとれました。

長官の方からもミッション終わって、基地に戻ってから初めて電話があって、

「ご苦労さん。」

一言。
この一言だけが長官の指示事項だったということを覚えております。

現場で感じたこと

で、勝った、
このミッションを遂行できた大きな理由は、現場の指揮官同士の心が通じたというところと、もう一つはやっぱり徹底的な圧倒した数で警備ができた。
付け入る隙を与えなかった。

やはり強い、力に屈しない海上警察力を、今後も維持していく必要があるな、というふうに現場で強く感じました。

そういうふうな感じでですね、
一週間まさに海保が現場を完全にコントロールできてると、いうふうに感じた次第であります。

前半終わり

前半の補足

ここで一旦、講演を区切って私なりに補足します。

海軍兵学校と思い出

冒頭述べられた、
海兵(海軍兵学校)の堀内豊秋大佐は熊本市出身の帝国海軍の方です。また、遠山次長も熊本県出身です。

よって「高校の先輩」と表現されたのは、【熊本県立済々黌せいせいこう高等学校】のことかと思われます。

遠山次長は自己紹介を兼ねて、父親が海軍兵学校の生徒であったこと、ご自身の思い出などを語っておられます。
これは帝国海軍・海上自衛隊関係の皆さんに、親近感を抱かせる効果があったのではないでしょうか。

プレゼンテクニックとして上手いなと感じました。

第11管区本部の次長と指揮船

第1~10管区には本部長の下に一人の次長が置かれています。しかし、第11管区だけは3人の次長が置かれ、遠山次長はその内の一人だったということです。

国土交通省組織令

 管区海上保安本部に、それぞれ次長一人(第十一管区海上保安本部にあっては、三人)を置く。
 次長は、管区海上保安本部長を助け、管区海上保安本部の事務を整理する。

国土交通省組織令 | e-Gov法令検索

また、
遠山次長が乗り込んだ【巡視船みずほ】。これはPLH21の初代みずほのことで、現在は【ふそう】と改名しています。

『踊る大捜査線』と中間管理職

フジテレビで放映されていた刑事ドラマで、主人公:青島刑事と、管理職である室井管理官とのぶつかり合いが見どころです。

なお、青島刑事のセリフ
「事件は会議室で起きているんじゃない。
 現場で起きてるんだ!」は流行語にもなりました。

前半の感想

さて、
今回パネリストとして登壇した遠山次長ですが、皆さんも一度は顔を見たことがあるかもしれません。

というのも、
2022年(令和4年)4月23日に発生した知床遊覧船事故について、日本水難救済会の理事長としてテレビで度々インタビューを受けていたからです。
もちろん、その際は穏やかに冷静に事故を分析されていました。

しかし、今回のプレゼンでは尖閣警備に当たる海上保安官の魂を、熱く語っていたのが印象的でした。

さらに、私が感銘を受けたのは、中央と現場が遠山次長を介在として「お互いよくわかっている」関係を築いていたことです。

中央は次長の采配を信じてまかせる。
次長も船長の性格を見越して指揮をとる。

この点、二川・統合幕僚学校長も、
「組織内の人間関係、上司と部下の関係。まったく海上自衛隊も一緒だな」と感じられたとのこと。

まさに指揮統率の理想像がここにあると感じました。

そして、
熱いプレゼンはさらに続きます。


遠山次長が語る、
尖閣警備の最後に起きた出来事とは…?



後半へ続く

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