船の性能は独特の単位で表されます。
【しきしま】を例にその意味を調べてみました。
はじめに
・全長 150メートル
・航海速力 25ノット以上
・総トン数 6500トン
・航続距離 2万海里以上
みなさんは↑この数値を見て、
どの巡視船のことを指しているかわかりますか?
お察しのとおり、
答えはPLH31【しきしま】です。
2万海里というのが、フランス:シェルブール沖から茨城県:東海港へのプルトニウム輸送船の護衛に当たった距離を表しています。
そう言われたら、
地球を半周するほどの距離かなぁ…?と、
なんとなくイメージされることと思います。
(直線距離ではなく航路の距離なので本当はもっと長いのですが)
しかし、
25ノット、6500トンと言われて具体的にイメージできますか?
私はできません!
(;・∀・)
メートルはいいんですよ。
実際に150mを歩いてみれば、その長さが体感としてわかるので。
でもノットは時速kmに換算するとどのくらいの速さなのか?
そして25ノットが船の世界では速いのか遅いのかがわからない。
一番わかりにくいのが総トン数!
普通、トンと言えば重さを表す単位なのに、総トン数は船の大きさを表すらしいのですよ。
どういうこと??
そんなわけで、
私のようにフネは好きだけど細かいことはわからない…という方のために船の世界の単位について調べてみました。
しきしまの要目と実績
平成4年の「プルトニウム海上輸送の護衛」
『海上保安レポート2010』より
巡視船「しきしま」は、平成4年の「プルトニウム海上輸送の護衛」のために建造されました。平成4年、我が国のエネルギー政策の一環として、プルトニウムの返還が海上輸送により行われました。
フランスから日本までの海上輸送は、プルトニウム輸送船「あかつき丸」により行われ、海上保安庁の巡視船「しきしま」が護衛にあたりました。
海上輸送の護衛は、総日数60日、総航程約2万海里という、長期間に及び、国際テロリスト集団からのプルトニウム奪取の脅威、反核・環境保護を唱える団体の妨害活動等様々な課題に直面することになりましたが、海上保安庁はこれを克服し、無事に護衛の任務を全うしました。
まず、
【しきしま】を語る上で外せないのが、プルトニウム輸送船【あかつき丸】の護衛任務についてです。
この任務のため【しきしま】は1992年(平成4年)4月8日に竣工し、【横浜海上保安部】に配備されました。
その後、フランスへの往路においては【あかつき丸】と【しきしま】は別行動で現地に向かったようです。そして【あかつき丸】がプルトニウムを積載した後、【しきしま】の護衛が始まりました。
その日本への帰路における護衛日数が60日、
航程が約2万海里だったとのこと。
(1992年11月8日~1993年1月6日)
それでは、
【しきしま】がたどった【2万海里】とはどのようなものだったのでしょうか?
航続距離 ~海里~
海里(かいり、浬、英: nautical mile)は長さの計量単位であり、国際海里の場合、正確に1852mである。
海里 – Wikipedia
元々は地球上の緯度1分(1度の60分の1)に相当する長さなので、海面上の長さや航海・航空距離などを表すのに便利であるために使われている。
さっそくウィキペディアに頼ってしまいましたが、とりあえず1海里=1852mなんだなぁと理解できます。
つまり1.852キロメートル。
換算表にするとこんな感じです。↓
km | 海里 | 東京駅からの 直線距離など |
1km | 0.54海里 | |
1.852km | 1海里 | |
10km | 5.4海里 | 中野駅、新小岩駅、綾瀬駅 |
100km | 54海里 | 銚子市、宇都宮市、伊東市 |
1000km | 540海里 | 網走市・根室市、枕崎市 |
10000km | 5,400海里 | ニューヨーク、リスボン |
1万8520km | 1万海里 | |
2万0037.5km | 1万0819.4海里 | 赤道の半周 |
2万0752km | 1万1205海里 | 横浜~ロッテルダムの スエズ運河利用航路 |
3万7040km | 2万海里 | |
4万0075km | 2万1638.8海里 | 赤道の一周 |
1千kmなんていう距離になると、それだけでもう実感がわきません。
そこで地図上で半径をもとに範囲や距離を把握できるサイトを参考にしてみました。
東京駅を起点にした直線距離では、
おおよそ次のとおり。
・東京駅から1千km…
北海道:網走市・根室市
鹿児島県:枕崎市
・東京駅から1万km…
アメリカ:ニューヨーク
ポルトガル:リスボン
以上、調べてみると、
【2万海里】とは地球の半周どころか、
地球一周に近い距離なんだなぁということがわかりました。
Σ(゚Д゚)!
しきしま 実際の航路
さて、
ここまで【2万海里】という距離について語ってきましたが、そもそもなぜ2万海里も航海する必要があったのでしょうか?
例えばオランダ:ロッテルダム~スエズ運河~横浜というルートをたどった場合、約1万1205海里とされています。
とすると【あかつき丸】と【しきしま】は余分な距離を航海した=遠回りをしたということになります。
【しきしま】の護衛ルートの詳細について『海上保安白書』や『海上保安レポート』では述べられていません。
プルトニウム護送という高い秘匿性が求められる事案であっただけに、やはり明らかにはできないのでしょうね…。
(。-`ω-)うーむ
と思ったら、
『原子力白書』において【あかつき丸】の帰路ルートがあっさり書いてありました(笑)
⑤プルトニウム輸送
3,我が国の原子力発電,核燃料サイクル,プルトニウム利用等の開発利用の状況 (aec.go.jp)平成5年版『原子力白書』より
この「あかつき丸」によるプルトニウム輸送は,新日米原子力協定の海上輸送のガイドライン(回収プルトニウムの国際輸送のための指針)に基づく最初の輸送であり,日米政府間及び日仏政府間の協議が行われるとともに,動力炉・核燃料開発事業団が主体となり,海上保安庁の巡視船「しきしま」(総トン数:約6,500トン,35ミリ機関砲,20ミリ機銃装備)による護衛を始め,関係機関の協力の下に行われた。
輸送の経路はシェルブールを出て大西洋を南下し,インド洋,南太平洋を通過するものであり,約2か月間にわたる航行であったが,安全確保のため,衛星航行装置,衝突防止用レーダー等衝突事故防止に必要な装置が装備され,船体も二重構造とし,火災対策として延焼を防止する防火構造となっており,万一の場合にも,船倉に水を満たす装置も装備し,慎重な計画の下に実施され,無事終了した。
なるほど、
スエズ運河~マラッカ海峡を通る最短ルートではなく、アフリカ大陸の喜望峰を回りこむルートだったんですね。
さらに別の本では「報道によれば」と婉曲的な表現で次のように記されています。
第3章 出動、また出動
小峰隆生著・坂本新一協力『海上保安庁特殊部隊SST』並木書房p125
報道によれば、フランスから大西洋を南下。
アフリカ大陸をぐるりと回り、インド洋南端を東へ。オーストラリア大陸南側を大きく迂回して太平洋に出た。そこから北上して日本へ向かう。
考えてみれば、
スエズ運河やマラッカ海峡などの海域でプルトニウム輸送船に事件・事故が発生したら、世界的な大問題になってしまいますね。
沿岸国への配慮や護衛のための合理性から、人目を避けるようにして帰国したということでしょうか。
もっとも、
【あかつき丸】と【しきしま】の動向は各国海軍や反対派団体の注目の的だったようですが。
|д゚) (;´・ω・) (゚∀゚)
旅路の果てに
何はともあれ、
【しきしま】は2万海里=3万7040kmに及ぶ護衛任務を達成しました。
しかも、この距離を無寄港・無補給のまま行っており、同船の偉大な実績として残されています。
ただし、この後は核燃料の護送任務が要請されることはありませんでした。
それでも【しきしま】は海上保安庁全体のフラッグシップとして、長く活躍していくことになります。
コメント