【あきつしま】に学ぶ巡視船のデザイン

ウミネコとコンパス章

白い船体に青のストライプ。
巡視船を巡視船たらしめるデザインについて学んでいきます。

はじめに

唐突ですが、
みなさんはこれが何の船かわかりますか?

オレンジ色は全天候型救命艇です

当サイトのことなので、
もちろんこれは巡視船です。

さらに言うと、
私が『海上保安レポート2017』に掲載されているイラストを一部加工したもの。

元のイラストはこちら↓

「ヘリコプター1機搭載型巡視船の整備」より

建造予定の巡視船(れいめい型)のイメージ図として、【PLH32あきつしま】のイラストが用いられています。

改めて冒頭のイラストと比較してみると、
何かが足りません。

というより足らないものが多すぎて、ただの真っ白い船になってしまっています。

逆にこうしてみると、
巡視船には多くの装飾が施されていることを感じさせられます。

そしてその装飾のおかげで、
くわしくない人でも、


これってアレでしょー?
 カイジョーなんとかの船でしょ?

(・_・)

…くらいは、
わかるのではないでしょうか。
(え?わからない?)

まぁなんとなくでも、
他とは違う船だとわかってもらうことは、
海上保安庁の業務を遂行する上でとても大事です。
(警備・救難・航路標識維持など…)

そこで今回は【あきつしま】を題材にして、
巡視船のデザインについて学んでいきます。

はたして、
ただの真っ白い船は、
どのようにして巡視船になるのでしょうか?

旗を掲げよう

海上保安庁法
第4条第2項

海上保安庁の船舶は、
番号 及び 他の船舶と明らかに識別し得るような標識を附し、国旗 及び 海上保安庁の旗を掲げなければならない。

海上保安庁法 | e-Gov法令検索


まず、
海上保安庁法によって、
国旗(日章旗)と、
海上保安庁の旗(庁旗)を掲げることが定められています。
(番号・標識については後述)


さらに、
この庁旗のデザインについては、
海上保安庁の告示によって公表されています。

海上保安庁の旗の制式の制定に関する件
海上保安庁施行令第2条の規定により、海上保安庁の旗の制式を別図の通り定め、昭和26年5月20日から適用する。

備考
一 地色 紺青色
二 コンパス 白色
 (対角線及び稜線は地色と同じ)

昭和26年5月28日 海上保安庁告示第16号
【別図】告示『海上保安庁の旗の制式の制定に関する件』より

古来より、
旗は船のアイデンティティを示す一番の目印でありました。

変なたとえですが、
骸骨のマークの旗を掲げている船は海賊船であると認識されるようなものです。

それでは、
【あきつしま】に旗を掲げていきましょう。

中央マストに庁旗、船尾に国旗

番号と船名を描こう

旗を掲げたことによって、
この船が日本船籍であって、
海上保安庁の船である!ことはわかるようになりました。

しかし、
やはり旗だけでは夜間や荒天、遠目ではわかりにくいです

そこで、
「他の船舶と
 明らかに識別し得るような標識」を船体に施していくことにします。

なお、
標識とはマークや船体の色・ペイントなど全般を指しています。

この標識についても、
『海上保安庁の船舶の番号及び標識に関する告示』によって定められています。

そしてこの告示は一部改正が何度か行われています。

今回は主要な改正があった、
平成14年(2002年)と平成16年(2004年)の告示を参考にしていきます。


※これ以降は『告示』と省略します。

番号と船名を決める

【番号】PLH32のように、
区分と2個以上の数字の組み合わせによって定められているものです。

【船名】は基本的に配属管区の山河・半島・海峡・旧国名などから採られます。

ただし、
秋津洲あきつしまのように日本の美称だったり、黎明れいめいのように地域性にとらわれない命名もあります。
(船名の名づけについては謎が多いので研究中です…)

番号と船名を表示する

先ほどの『告示』では、
船舶の水線上の外舷がいげんに番号と船名を表示することとなっています。

水線上の外舷とは、
水面から上の船体の外壁(船の腹)部分のことです。

水線上の外舷

番号船首の両側に
紺青色ゴシック体で表示する。
PLH32
船名番号の上方に紺青色国字で、
船尾に金色国字でそれぞれ表示する。
あきつしま

ちなみに。
船名は現在では両舷ともに左から右へ表記されます。

しかし、
昔の巡視船の写真を見ると右舷側は右から左へ表記されていました。


左から右:あ き つ し ま
右から左:ま し つ き あ

海人社『世界の艦船№613海上保安庁全船艇史』p71には昭和52年(1977年)のものとして、「ずい」と読めてしまう【巡視船いず】の写真が掲載されています。

コンパス章を飾ろう

標識の手始めとして、
番号と船名を表示しました。

しかし、
これでもまだパッと見には、
まだ単なる白い船です。

そこで海上保安庁のマークとデザインを、
船の上部構造物に表示させることにします。

上部構造物

煙突最先端の部分を黒色、
その他の部分を白色とし、
白色の部分の両側面に
紺青色の地に白色のコンパス章を表示する。
コンパス章
煙突の
後方にある
マスト
煙突の黒色の部分の最下端と
同一水平線以上の部分は黒色、
その他の部分は白色。
後方マストの塗色

【コンパス章】とは、
「海上保安庁の旗の様式に準ずるもの」とされています。

つまり庁旗と同じコンパスのデザインを飾るということですね。

さらに煙突の後方にあるマストも白と黒に塗り分けます。
この部分は意外と気づきにくいんじゃないでしょうか。

煙突にコンパス章・後方マストを黒色

煙突と後方マスト

S字章を描こう

コンパス章が飾られたことで、
ぐっと巡視船らしくなりました。

しかし、
これでもまだ遠目には海上保安庁の船舶だとはわかりにくいのです。

そこで登場するのがS字章
水線上の外舷のその他の部分において、
表示することになっています。


水線上の外舷

その他の
部分
番号の後方に
紺青色のS字章(略)を表示する。
備考この表中S字章とは、
次の形状のものをいう。
S字章
【備考】『海上保安庁の船舶の番号及び標識を定める件の一部を改正する告示』より

船首:番号の後方にS字章

庁名を描こう

ここまで来ると、
ずいぶん巡視船らしくなりました。

でもあと何かが足りません。
正解は【庁名】

組織名を描いて、
国内外に大きくアピールしましょう。

水線上の外舷
(煙突を有する船舶の場合)

その他の
部分
番号の後方に
紺青色のS字章 及び
紺青色英字の庁名を船首から順に表示する。
”Japan Coast Guard”


上部構造物
(煙突を有しない船舶の場合)

その他の
部分
両側面の適当の箇所に、
煙突を有しない船舶にあっては
紺青色国字の庁名を、(略)表示する。
「海上保安庁」

【あきつしま】には煙突があるので、
【英字の庁名】Japan Coast Guardを描きます。

番号→S字章→英字の庁名

なお、
煙突を有しない船舶については、
【コンパス章】を飾ることができません。

その代わり、
【国字の庁名】海上保安庁を上部構造物の適当の箇所に表示することになっています。

『海上保安レポート2006』1,000トン型巡視船 より

船尾を飾ろう

さあ、これでいよいよ完成!
…ではありません。
船尾にも装飾を施すのを忘れずに。

水線上の外舷

船籍港名船尾の船名 又は
船舶番号の下方に黒色国字で表示する。

ただし、
総トン数5トン未満のものにあっては
これを省略する。
船籍港名「東京」
国際海事機関
船舶識別番号
船籍港名の下方に
黒色の英字 及び
アラビア数字で表示する。

ただし、
総トン数300トン未満のもの 又は
国際航海に従事しないもの
にあってはこれを省略する。
IMO 9638068


金色国字船名
船籍港名
IMO船舶識別番号

【船籍港名】については、
船舶の所有者である国土交通省が東京都千代田区にあるため「東京」となります。

【国際海事機関 船舶識別番号】とは、
IMO(International Maritime Organization)が、個々の船舶、船舶所有者、船舶管理者に与える番号のことです。

IMO+7ケタの数字によって構成されています。

これらを船尾に表示させて、
ようやく【巡視船あきつしま】の完成です。

まとめ

【あきつしま】とランドマークタワー

さて、
いかがでしたでしょうか?

今回は【あきつしま】を例として、その外観デザインのパーツを見ていきました。

そして、
ご紹介したデザインパーツは巡視船建造の歴史の中で徐々に付け加わったものです。

こうした巡視船デザインの移り変わりについても意識しながら、再度冒頭からイラストを眺めてみてください。

なお、
今回の記事では触れられなかった個々のパーツ詳細については、いずれまた取り上げたいと思っています。


【参考動画】

ANN news 世界最大級の巡視船「あきつしま」海上保安庁に(2013/11/28)

ANN news 両陛下が宿泊予定の最大級巡視船「あきつしま」出航(2015/03/31)

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