令和5年(2023年)7月15日、
巡視船あさなぎ(PLH43)が鹿児島港に入港しました。
海保の新造巡視船
「あさなぎ」が鹿児島港に到着
尖閣警備強化へ5隻目の6000トン級、全国最多沖縄県の尖閣諸島鹿児島市の鹿児島港谷山2区に15日、鹿児島海上保安部のヘリコプター搭載型の新造巡視船「あさなぎ」(約6000トン)が初入港した。(中略)
同保安部には6000トン級の大型巡視船が全国の海保で最多の4隻が所属しており、あさなぎ就役で5隻目。年度内に同型の大型巡視船も加わり6隻体制となる。
鹿児島港は南西諸島をはじめ東シナ海、南シナ海と全方位に出やすく、海保幹部は「海を守る要衝」と位置付ける。
沖縄に大型船が着ける岸壁が少ない実情もあるという。南日本新聞 373news.com 2023/07/16 08:08
海保の新造巡視船「あさなぎ」が鹿児島港に到着 尖閣警備強化へ5隻目の6000トン級、全国最多 | 鹿児島のニュース | 南日本新聞 | 373news.com
船名あさなぎと今後の名前
【しゅんこう型】巡視船の2番船【PLH43あさなぎ】が7月6日に海上保安庁に引き渡され、【鹿児島海上保安部】に配属されました。
船名【あさなぎ】は夏の朝の無風で穏やかな状態を表す「朝凪」に由来とのこと。
(海上保安庁公式ツイッターより)
7月初夏のこの時期に合わせたような、さわやかなネーミングですね。
ただ近年の夏は早朝から日差しがきつく、さわやかな朝を迎えることはなかなか難しくなっています。
私が子供の頃は夏休みの宿題は午前中の涼しい時間帯に済ませましょう、と言われたものですが…。
それはさておき、
しゅんこう型は4番船までの建造が予定されており、今のところ船名は四季に由来しています。
PLH42しゅんこう
春光
春の季語
PLH43あさなぎ
朝凪
夏の季語
PLH44ゆみはり
弓張月
秋の季語
PLH45????
冬の季語?
このしゅんこう型の船名は連続性をもっているのが特徴です。
というのも、
これまで巡視船の名前は日本の総称や、配属管区の山・海峡・旧国名などを由来としてまとまりを持って命名されてきました。
例:
・日本の総称:
みずほ・やしま・しきしま・あきつしま
・日本の地理:
そうや・おおすみ・ざおう・だいせん
・旧国名:
せっつ・えちご・りゅうきゅう
しかし、春→夏→秋→冬のような「順番」を意識した命名方式は初めてだと思います。
言い換えると、
朝昼晩とか水金地火木土天海冥とか家康秀忠家光…みたいな並びの巡視船シリーズはこれまで無かったわけですね。
地味に目新しいポイントなのです。
ただ一つ心配なのが【しゅんこう型】5番船について。
また春の季語に戻るのか、それとも明治大正昭和平成のような別シリーズが始まるのか?
私にはわかりませんが…、
でもきっと海上保安庁装備技術部の方々が良い案を考えてくれることでしょう!
(* ̄▽ ̄) フフフ
あさなぎの完成まで
番号 | 船名 | 全長 | 進水 | 引渡 | 期間 |
PLH 41 | みずほ | 134m | 2018. 11.09 | 2019. 08.22 | 9ヶ月 |
PLH 42 | しゅん こう | 140m | 2019. 03.20 | 2020. 02.04 | 11ヶ月 |
PLH 43 | あさなぎ | 140m | 2022. 06.30 | 2023. 07.06 | 12ヶ月 |
PLH 44 | ゆみはり | 140m | 2023. 02.21 | 2023. 11月? | |
PLH 45 | ???? | 140m |
さて、
【あさなぎ】の進水から引き渡しまでの期間は約12ヶ月でした。
建造途中でトラブルがあった1番船【しゅんこう】よりも1ヵ月長くかかっています。
2020年1月からの新型コロナウィルス感染拡大、さらに2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻などの世界情勢が影響したのでしょうか。
そして3番船【ゆみはり】は今年度内、つまり2024年3月までには引き渡しのようなので、最大でも13ヶ月の期間と見込まれます。
ただ、
船名が秋の季語なので、11月頃までには引き渡されるのではないかなぁと予想しているのですが…。
海保№3が語る鹿児島港
増強に次ぐ増強により、
【鹿児島海上保安部】は今やPLH型巡視船の最大拠点となっています。
その特徴は尖閣領海警備の最前線である【宮古島】【石垣】と並んで、特定船型の最新型が集中していること。
保安部 | 船種 | 全長 | 隻数 | 例 |
宮古島 | PS | 43m | 9隻 | しもじ まえはま |
石垣 | PL | 96.6m | 12隻 | たけとみ よなくに |
鹿児島 | PLH | 150m | 3隻 | しきしま れいめい あかつき |
PLH | 140m | 3隻 | しゅんこう あさなぎ ゆみはり | |
PL | 120m | 1隻 | おおすみ |
その一方で、
第11管区本部のお膝元【那覇】にも【つがる型】のPLHが3隻配備されていますが、いずれも船齢は古く最新型ではありません。
船艇・航空機一覧 – 第十一管区海上保安本部 (mlit.go.jp) PLH04うるま PLH06おきなわ PLH09りゅうきゅう
今後の南西海域の重要性を考えるとき、沖縄本島:那覇港などへ最新大型船を配備するのが順当では?と考えるところ、なのですが…。
冒頭に引用した『南日本新聞』記事によると、「沖縄に大型船が着ける岸壁が少ない実情もある」とのこと。
さらに海上保安庁の幹部が鹿児島港を「海を守る要衝」と位置付けているとも伝えられています。
ちなみに。
この海保幹部とは白石昌己【海上保安監】のことかと思われます。
というのも【あさなぎ】入港に先立つ昨年、南日本新聞による同氏へのインタビューが行われているからです。
■白石昌己・海上保安監
(いちき串木野市出身)に聞く「鹿児島の港は南西諸島をはじめ東シナ海、南シナ海と全方位に出やすく、鹿児島湾も穏やかで魅力的だ。民間から借り上げている鹿児島港谷山2区は広さも十分。
中国船が侵入繰り返す尖閣周辺 警備態勢強化へ大型巡視船配備「鹿児島は海守る要衝」「増備の可能性高い」 青森拠点に無人機MQ9B運用「情報は自衛隊とも共有」 | 鹿児島のニュース | 南日本新聞 | 373news.com
現在、2本目の桟橋に加え、24年9月の完成を目指し燃料タンクやヘリ格納庫など陸上施設の整備も進めている。
鹿児島は海を守る要衝となっており、施設面からも今後、大型船がさらに増える可能性は高い」
2022/10/12 08:29
【海上保安監】は海保大を卒業した海上保安官が就任するポストで、船舶や航空機運用の総合司令官的ポジションです。
(海上自衛隊で例えると自衛艦隊司令官といったところでしょうか)
地位としては、
長官・次長に次ぐ組織の№3。
そうした海保の最高幹部の一人が、鹿児島港を「要衝」と発言していることは注目に値します。
その鹿児島港の中でも谷山2区の七ツ島には大型巡視船用の桟橋が新たに2つ建設中です。
さらに給油施設やヘリ格納庫も同地に建設が進められているので、まさに船と港がワンセットになった一大拠点が完成することでしょう。
なぜ鹿児島港は要衝か?
改めて鹿児島港が「要衝」となった理由について考えてみます。
まずは白石海上保安監が述べたとおり、この港が日本の南西海域、さらには東シナ海・南シナ海へと通じる位置にあるという地理的条件。
そして沖縄本島(特に那覇港)に大型巡視船の定係地を設けることが難しい港湾事情。
こうした必然的な理由に加えて、
あえて海上保安庁が鹿児島港を要衝にしようとしているのでは?と私は考えます。
そして、そのねらいは第11管区(沖縄)と第10管区(鹿児島)による「業務バランスの平準化」にあるのではないでしょうか。
そもそも。
忘れがちですが海上保安庁の業務は領海警備だけではありません。
これ以外にも密輸・密漁の防止、海難救助、海洋調査、航行安全情報の提供など様々な業務を抱えています。
しかし、
それゆえに尖閣諸島海域を管轄する第11管区の全体的な業務負担は重くなる一方で、職員の数はいくらあっても足りません。
そこで第10管区に大型巡視船の後方補給機能を分担させることで、両管区での安定的な業務遂行を目指しているのではないでしょうか。
このねらいのために【鹿児島】への大型船の集中配備、鹿児島港での拠点開発が進められたものと推測しています。
いかがでしょう?
この推測については次船【ゆみはり】が就役した際に、また改めて考えてみたいと思います。
何はともあれ。
当サイトは今後も【しゅんこう型】の動向と鹿児島港の開発状況に注目していきます。
【参考動画】
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