映画『シン・ゴジラ』に描かれなかった海上保安官たちのストーリーを想像してみました。
はじめに
唐突ですが、
『シン・ゴジラ』おもしろいですよねー。
この映画の中では、巨災対メンバーや自衛隊の活躍によって、ゴジラを凍結させることに成功しました。
しかし、
この裏には海上保安庁の奮闘があったことをご存知ですか?
いや、
たぶん海上保安庁も奮闘していたのではないかという私の妄想なんですが。
(;^ω^)
今回は『シン・ゴジラ』では描かれなかった海上保安官のストーリーを、あれこれ想像しながら追いかけていきます。
なお、今回の記事では次の資料を参考にしています。
書籍『ジ・アート・オブ・シンゴジラ』
・p334-335  時間香盤表
・p332 会議室等における席次表
・付属『完成台本』
書籍『シン・ゴジラ機密研究読本』
マイマップ『シン・ゴジラ 襲撃マップ』
海上保安庁HP『東日本大震災への対応の記録(平成24年1月)』
11月3日(木・祝)08:30
物語は海上保安官の目線から始まります。
| 08:30 | 東京湾・横浜沖 | 
| 同・羽田空港沖 | |
| 無線 | 東京湾・羽田沖に 漂流中と思われる プレジャーボートを発見との通報あり。  | 
| 通信士 | はまなみ了解。 | 
| 隊員A | 漂流中と思われる プレジャーボートを確認。 船体の損傷は認めず。 船名GLORYMARU。 登録番号MJG-15041。 所有者の照会を願う。  | 
【横浜海上保安部】に所属する巡視艇、【PC16はまなみ】がプレジャーボートに接近します。
PCは【Patrol Craft】の略で、そのまま「巡視艇」という意味です。
その【はまなみ】の船橋が一瞬だけ写り、2名の後ろ姿を確認できますね。
これはおそらく、
左が機関士、
中央が航海士または航海士補と思われます。
船橋右側は主任航海士などが座るポジションですが、画面には写っていません。
| 隊員A | 漂流船に移乗した。 | 
| 隊員B | すいませーん。 誰かいますか?  | 
| 隊員C | フライングデッキに人はいません。 | 
| 隊員A | 船内は無人の模様。 遺留物あり。  | 
| 隊員A | 事件性はなさそうだが、 海中転落の可能性あり。  | 
| 隊員A | やはり無人だ。 曳航準備に入る。  | 
| 隊員A | うわっ! | 
グローリー丸に移乗した3人。
この時のビデオ映像が後に重要な資料になるとは知る由もありません。
ちなみに、隊員Cの「フライングデッキ」とは、展望型船橋・甲板とでもいうのでしょうか。
車でいうと、オープンカーのようなもの。
【はまなみ】のように舵をとる場所が船内にあるのに対し、グローリー丸は船体上部の開放された場所に舵があります。
そこにも人はいなかった、ということですね。
と、そこで、
突然の水蒸気爆発に襲われます!
ビデオカメラも甲板にいた隊員Cをとらえて途切れてしまいます。
船内にいた2人はまだいいとして、
水蒸気煙を直に浴びた隊員Cは
どうなってしまったのか―!?
Σ(゚Д゚)
08:43~09:30

| 08:43 | 官邸地下 危機管理センター・ 幹部会議室  | 
| 海保 職員  | 湾内発生中の水蒸気煙に、 はまなみの海保隊員数名が 巻き込まれた模様。  | 
| 国交省 職員  | アクアラインは 上下線とも通行止め。 湾内に三管本部から 注意喚起が出ています。  | 
場面は切り替わって、首相官邸。
矢口:内閣官房副長官が、地下オペレーションセンターを通り抜けて、幹部会議室へ向かいます。
その際に【はまなみ】の情報も寄せられています。
ただ、この時点では隊員ABCの安否は不明のまま。
やがて、
【羽田航空基地】所属のヘリコプター【MH691いぬわし1号】が現場映像を官邸に送ってきます。
MHは【Medium Helicopter】の略で「中型ヘリコプター」という意味です。
普段から羽田空港に駐機しているので、警察・消防・自衛隊のヘリよりも早く現場に到着したのは自然な流れですね。
| 官邸地下 危機管理センター・ 幹部会議室  | |
| 内閣府 職員  | 海保のヘリテレ、 来ました!  | 
| いぬわし 機上通信員  | こちら保安691。 水蒸気はなおも噴出中。 変色水が攪拌され、 海中の状況を確認できません。  | 
「ヘリテレ」とは、
ヘリコプターテレビ画像伝達装置、
または撮影された空中画像のこと。
ヘリから撮影された画像は巡視船や基地に送信され、さらに人工衛星を経由して海保本庁や官邸にも伝送されます。
なお、
【いぬわし】にも【はまなみ】遭難のことは届いていると思われます。
水蒸気煙を注視しつつも、【はまなみ】の安否も気にしていたのではないでしょうか
(´・ω・`))) ドコカナー?
| 09:10 | 官邸地下 危機管理センター・ オペレーションセンター  | 
| 国交省 職員  | 三管本部より連絡。 湾内の航行船舶を入域制限。 全域を無期限封鎖したと FAXで受信しました!  | 
| 総務省 職員  | 国交省より当該沿岸部に 避難準備勧告を指示との 連絡あり。  | 
「三管本部」とは、
【第三管区海上保安本部】の略です。
東京湾など管轄しており、横浜市のみなとみらい地区に所在しています。
この【三管本部】が東京湾内の船舶に対して、入域を制限したとのこと。
その根拠法令は?
限りなくリアルに作られているこの作品。
この作中での海上保安庁も当然に法令に基づいた行動をしているはず。
で、その答えはずばり、
『海上交通安全法』だと思います。
海上交通安全法
海上交通安全法 | e-Gov法令検索
(昭和47年法律第115号)
第32条
【異常気象等時における航行制限等】
海上保安庁長官は、台風、津波その他の異常な気象又は海象(以下「異常気象等」という。)により、船舶の正常な運航が阻害され、船舶の衝突又は乗揚げその他の船舶交通の危険が生じ、又は生ずるおそれがある海域について、当該海域における危険を防止するため必要があると認めるときは、必要な限度において、次に掲げる措置をとることができる。
一 当該海域に進行してくる船舶の航行を制限し、又は禁止すること。
二 当該海域の境界付近にある船舶に対し、停泊する場所若しくは方法を指定し、移動を制限し、又は当該境界付近から退去することを命ずること。
三 当該海域にある船舶に対し、停泊する場所若しくは方法を指定し、移動を制限し、当該海域内における移動を命じ、又は当該海域から退去することを命ずること。
後に水蒸気爆発の原因は巨大不明生物と判明するのですが、この時点では海底火山か大規模熱水噴出孔が考えられていました。
よって、
異常気象等を原因とした航行制限措置を実施したのではないでしょうか。
なお、『海上保安庁法』第18条にも同様の規定があります。
しかし、
こちらは主語が「海上保安官は、」となっているので、どちらかと言えば個々の船舶に対して適用するイメージ。
今回のように東京湾全体への措置ならば、『海上交通安全法』の方が妥当でしょう。
ということで、
海上保安庁では事案発生から約40分の内に、
・【いぬわし】の緊急出動
・東京湾内の船舶への注意喚起
・東京湾への船舶の入域制限
…を実施していたことになります。
朝から大忙し!
なのですが事態はさらに急変します…。
09:30
首相官邸5階 総理執務室
東京湾における
水蒸気爆発等複合事案に関する
総理レク(チャー)
大河内総理大臣が官邸に到着し、総理執務室で水蒸気爆発の原因についての検討が始まります。
ここで海上保安庁的に重要な人物が登場します。
それは、
柳原邦彦:国土交通大臣と、
笹上高尋:海上保安監です!
…ってだれ?
(;´・ω・)
柳原国土交通大臣は、
「え、そうなのか?なら早く言え!」の人ですね。
一方、
笹上海上保安監はセリフなし、
名前を呼ばれることもありません。
なので「ささがみ」なのか、「ささうえ」なのかもわかりません。
たぶん山上さんのように、笹上さんと読むのではと思うのですが…。
一体どこにいるのかと言えば、矢口副長官らのテーブルに座ってます。
←窓側 壁壁壁 入口→ 
| 国交省 水管理 国土保全局 局長  | ||
| 警察庁 警備局局長  | ||
| 松本 防衛省 運用政策統括官  | 笹上 海上保安庁 海上保安監  | |
| 沖 気象庁 次長  | 外川 環境省 自然環境局局長  | |
| 平岡 内閣官房 副長官補  | 赤坂 総理大臣 補佐官  | |
| 矢口 内閣官房 副長官  | 

【海上保安監】は、
長官と本庁次長に次ぐ地位の方です。
階級章では次長と海上保安監は同じものが与えられています。
なので同列とも言えるのですが、実態としては№3のポジションのようです。
まぁいずれにせよ、海上保安庁の中ではすごくエラい人ですね。
劇中では制服ではなく背広を着ていますが、海上保安大学校を卒業した海上保安官です。
ちなみに、
地下・幹部会議室のシーンから出席していたようなのですが、一瞬しか映りません。
そして、
この場は柳原大臣により、
「やはり、新たな海底火山か大規模熱水噴出孔でしょう。他に考えられません!」と結論づけられるのでした。
国土交通省組織令
第245条【海上保安監】1 海上保安庁に、海上保安監一人を置く。
国土交通省組織令 | e-Gov法令検索
2 海上保安監は、長官を助け、海上の安全及び治安に重要な影響を与える事態への対処並びに当該事態の発生の防止に関する事務を整理する。
09:45~10:15
| 09:45 | 首相官邸4階 大会議室 | 
| アクアトンネル浸水事故 及び 東京湾における水蒸気爆発に関する 複合事案対策会議 (第1回)  | |
| 柳原 国交 大臣  | トンネル浸水事故の原因とされる 新たな海底火山等ですが、 現在までのところ、 幸い有毒ガス等は検出されず、 気象庁 及び 海保海洋情報部の 調査研究チームを現地に送り、 速やかな事故原因の徹底究明に 努めさせていただきます。  | 
| 柳原 国交 大臣  | あ。 ただいま噴火活動が 急速に鎮静化している、 との報告が入りました。  | 
まさに、
ここまでは海底火山等と考えられていた事象。
そのため、
共に国土交通省の外局である気象庁と海上保安庁から調査研究チームが派遣される予定でした。
この点について偶然にも海洋情報部の測量船は水蒸気煙に近いお台場に係留されています。
計5隻がいますので、どれか1隻くらいは稼働可能だったのでないでしょうか。


よって、
2016年当時は大手町にあった気象庁からのメンバー合流を待ちつつ、測量船の出港準備を進めていたのではないかと想像されます。
ところが。

海中から大きな尻尾があらわれ、
事態急変のため会議は中止となります。
そして再び総理執務室。
今度はこの生物に対して、静観・捕獲・駆除の議論が始まります。
我らが柳原 国土交通大臣は、
「まあまあ。
 事を荒立てず、穏便に追い出せないのか?」
…と東京湾からの排除を提案しています。
このセリフ、
最初は大臣の事なかれ主義の表れかなと思っていたのですが。
よく考えたら、捕獲にせよ駆除にせよ生物が大暴れする可能性はあります。
その結果、
これ以上アクアトンネルや羽田空港に被害が出てはかなわん!という国土交通大臣の立場からすれば当然の発言だったように思います。
一方、
笹上海上保安監はずっと眉間にしわを寄せています。
これも無理のない話で。
駆除・捕獲・排除いずれにせよ、すべて海上保安庁が全面的に関わることは間違いありません。
笹上氏の頭の中では、巡視船や航空機の運用について、あれこれと思考をめぐらせていたことでしょう。
この後、矢口副長官の指示に対して平岡副長官補が「それ、どこの役所に言ったんですか?」と返します。
これは省庁の縦割りに対するシニカルな演出なのでしょうが、実際的には船艇・艦艇を有する海上保安庁か防衛省しか対応できないように思います。
10:15~13:00
| 10:15 | 官邸・総理執務室 | 
| 金井 防災担当 大臣  | え、動くの? | 
| 柳原 国交大臣  | そりゃ、生き物だからな。 | 
| 東京湾 多摩川河口 | |
| いぬわし 機上通信員  | 巨大不明生物は、 羽田D滑走路 連絡誘導路側面から、 多摩川河口に進入しています。 あっ!  | 
生物は多摩川河口へ移動し始めますが、そのまま多摩川を遡上せずに、細い海老取川へなぜか方向転換します。
この様子を引き続き監視していた【いぬわし】。
【いぬわし】の所属する羽田航空基地や、特殊救難隊の特殊救難基地は羽田空港の端にあって、海老取川沿いに立地しています。
生物が基地のそばまで近づいてきたときには、【いぬわし】クルーもきっと焦ったことでしょう。
しかし、
生物は羽田空港のふちをなぞるように北上し、さらに細くせまい呑川へと突入していくのでした。

13:00~13:45

| 13:00 | 報道映像 | 
| 記者 | さきほど、 初の災害対策基本法の 災害緊急事態の布告を総理が宣言。 巨大不明生物に対し、 自衛隊初の防衛出動が決定されました。 緊急措置として国会の承認を事後に回し、 害獣駆除を目的とした戦後初の武力行使命令を 総理が下した模様です。  | 
ここでついに政府は自衛隊の【防衛出動】に踏み切ります。
そして自衛隊ヘリが攻撃を試みるも、結局は逃げられてしまいます。
| 13:45 | 官邸地下 危機管理センター・幹部会議室  | 
| 防衛省 職員  | 巨大不明生物は、 天王洲運河より離岸。 首都高羽田線を破断し、 京浜運河から東京湾へ移動中!  | 
後からわかることですが、
巨大不明生物は水棲生物に退化して隠れてしまいました。
当然、
付近の東京海上保安部・横浜海上保安部・川崎海上保安署の巡視船艇で追跡したと思うのですが、捕捉できなかったようです。
これも無理ない話で、巡視船艇には水中を探索するソナーは装備されていません。
先ほどの測量船にはそのような機能もあったと思いますが、これは海底地形などを調べるためのものです。
なので、
動き回る生物を追尾して捕捉するのは、測量船たちにも難しかったのではと思います。
巨大不明生物が去ったあと
朝8:30の水蒸気爆発の発生から約5時間。
悪夢のような時間が経過した後、東京湾に残されたのは破壊されたアクアトンネル、首都高湾岸線・多摩(川)トンネル。海老取川と呑川から流出した舟々とガレキ…。
おそらくいくつかの航路標識も破壊されたことでしょう。
休む暇もなく、海上保安庁は人命救助・航路啓開に当たったと思われます。
ところで、
水蒸気煙に巻き込まれた【はまなみ】はその後どうなったのでしょうか?
それは後日に、
意外な形で物語に関わってきます…。
【参考動画】
  
  
  
  

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