船の世界は陸上とは異なる点が多いです。
船の性能をよく知るための単位について調べてみました。
前回のつづき
これまで【しきしま】にまつわる海里(航続距離)、ノット(速力)について解説してきました。
いよいよ、
【しきしま】の【総トン数】の話題までたどりついたのですが…。
海上保安庁のHPに掲載されている情報から、
しきしまの総トン数は6500トンと思っていたところ、雑誌『世界の艦船』によると7175トンとの記述がありました。
はたして、
これはいったいどちらが正しいのでしょうか?
長きにわたった巡視船しきしまと単位の話の最終回です。
総トン数:6500トンの謎
結論から言うと、
『世界の艦船』に掲載されている数値が正しい総トン数だと思われます。
そもそも、
6500というキリのいい数字になるのは不自然です。したがってこれは約6500トンのことと理解するのが妥当ではないでしょうか。
実際に同型船の【あきつしま】についてはそのように表記されていますし…。
おそらく、
海上保安庁の公称値としては【約6500トン】なのでしょう。
ただし、媒体資料によって約が付いたり付かなかったりしているのでは?と推測します。
総トン数:7175トンの謎
それでは『世界の艦船』で掲載されている7175トンの根拠は何なのでしょうか?
これも推測ですが、
国土交通省の地方運輸局(の下の運輸支局等)が発行する船舶の『登録事項証明書』を元にしているのではないでしょうか。
これにはその船の総トン数が記載されています。
そして前回の記事で述べたように巡視船も船舶法の適用を受けるので、この『登録事項証明書』は発行されます。
つまりこの証明書に記載された数値を根拠としているのではないかと考えます。
総トン数:約6500トンの謎
それでは、
とりあえず【しきしま】の実際の総トン数は7175トンだとして。
結局、【総トン数:約6500トン】という値はどこから来たのでしょうか?
私が調べた限り、
【しきしま】が竣工した平成4年(1992年)前後の『海上保安白書』では、具体的な総トン数の記述はありませんでした。
※海上保安白書 平成2年版~平成5年版(1990年~1993年)
その当時の他の資料を調べれば載っているかもしれませんが…。
しかし、その代わりのヒントがありました。
それは後継船【あきつしま】関連の資料です。
しきしまから実に21年後!
平成25年(2013年)に竣工した【あきつしま】については、【総トン数:約6500トン】という記述をいくつかの資料で発見できました。
まず、
平成21年(2009年)8月発表の海上保安庁関係『予算概算要求概要』に、【あきつしま】についての予算要求が初めて掲載されました。
この際には総トン数に関する記述はなかったものの、「しきしま級巡視船」という表現で同規模の船を建造することが説明されています。
1.遠方海域・重大事案への対応体制の強化
2009年8月『平成22年度 海上保安庁関係 予算概算要求概要』p2 pdfへのリンク
遠方海域・重大事案への対応体制を強化するため、被害制御・長期行動能力等を備えたしきしま級巡視船を整備する。
そして、
翌年の平成22年5月に発行された『海上保安レポート』には主要目の一つとして総トン数の記述があります。
ついでに言うと、
【しきしま】【あきつしま】が一般船とは異なるダメージコントロール構造であることが紹介されています。
いわゆる【軍艦構造】というものです。
(1)「しきしま」級巡視船の整備
2010年5月『海上保安レポート2010年版』
重大事案、遠方事案等の新たな業務課題に対応していくためには、被害制御・長期行動能力等を備えた大型のヘリコプター搭載型巡視船が必要となりますが、現在そのような大型巡視船は平成4年に建造された「しきしま」1隻しかありません。
遠方事案に最低1隻を継続的に派遣でき、我が国周辺海域で重大事案が同時発生した場合にも対応できる体制とするためには、現在の「しきしま」を含めた複数隻体制とする必要があります。
この後、
令和2年(2020年)に【れいめい】、
令和3年(2021年)に【あかつき】【あさづき】の竣工と続いていきます。
これら3隻も予算要求資料に【約6500トン】または【6500トン】と称されています。
以上のように、
巡視船建造の予算要求資料における大まかな区分としての総トン数が、そのまま巡視船の公称値として使用されているのだと思われます。
しきしまの後継船たち
あらためて『世界の艦船』に掲載されたデータをもとに、表にすると次のようになります。
船名 | 総トン数 | 竣工年月日 | しきしま竣工から |
しきしま | 7175トン | 1992年04月08日 | |
あきつしま | 7350トン | 2013年11月28日 | 21年後 |
れいめい | 約7300トン | 2020年02月19日 | 27年後 |
あかつき | 約7300トン | 2021年02月16日 | 28年後 |
あさづき | 約7300トン | 2021年11月12日 | 29年後 |
【しきしま】は【あきつしま】誕生までの21年間、海上保安庁最大の巡視船として君臨し続けました。
そもそもプルトニウム輸送のための護衛船として建造された経緯から、その船内も【軍艦構造】であり他の巡視船とは一線を画していました。
その後も観閲式では受閲の一番船を長く務める反面、その内部は一般公開されたことがないので市民にとって親しみがある船とは言いがたい存在でした。
まさに孤高の女王とでも言うべき船だったように思います。
そんな【しきしま】をベースとして【あきつしま】が建造され、さらには【れいめい】へと発展しました。
そして2020年代に入った今、
6500トン型のグループを形成するまでに至ったのです。
まとめ ~しきしまの今~
しきしまの船齢が30年近く経過した当初、他船と同様に延命工事が行われる予定でした。
しかし「船体の老朽化が予想以上に進んでいることが判明」したそうです。
艦船ニュース
補正予算の6500トン級PLHは「しきしま」の代船 | 世界の艦船 (ships-net.co.jp)
先頃公表された令和3年度補正予算で整備される6500トン級PLHは、「しきしま」の代船であることがわかった。
「しきしま」は当初延命措置が検討されていたが、その後の検査で船体の老朽化が予想以上に進んでいることが判明、大規模な改修を施した場合と新造した場合のコスト・パフォーマンスを比較した結果、新造することになった。
ちなみに、
しきしま以前に建造された【つがる型】巡視船たちは延命工事を受けて、任務に復帰していってます。これと同様に、しきしまも今しばらくは活躍してくれると思っていたのですが…。
ただ、延命工事を断念させるほどの老朽化が進んだ原因が気になるところです。
もしかしたら「予想以上の老朽化」は、
しきしまが担ってきた任務の過酷さを示すものかもしれませんね。
以上、
航続距離・航海速度・総トン数を題材として、それらの説明と【しきしま】の誕生から晩年までを追いかけてみました。
(途中、総トン数の説明が長くなってしまったのは予想外でしたが…。)
解役日は発表されていませんが、
当サイトは最後まで【しきしま】の動向を見守っていきたいと思います。
コメント
計画値と実際の値ですね。
銘板が正です。
総トン数自体、法改正により基準が新旧ありますよ?
いわずなもがなかもですが。