船の世界は陸上とは異なる点が多いです。
船の性能をよく知るための単位について調べてみました。
はじめに
これまで【しきしま】にまつわる海里(航続距離)、ノット(速力)について解説してきました。
最後の難関が【総トン数】です。
はっきり言って、
とても複雑でわかりにくいです。
自分なりに色々と勉強してみましたが、かなり奥の深い世界だということに気づきました。
今回はその入り口あたりを解説します。
トン数の世界~容積と重量~
総トン数について
総トン数 | 登録制度 | 日本小型船舶検査機構 (jci.go.jp
船舶の大きさを表すための主たる指標として「総トン数」が用いられます。
単位は「トン」ですが、重量を表すものではありません。
船舶工学において、排水量や載貨重量トン数など重量を表す「トン」が使われますが、「総トン数」は重量ではなく容積を表す指標です。
そのため、重さには関係なく容積が大きい船ほど総トン数も大きくなります。
総トン数5トンの船の重さが5トンというわけではありません。
船の大きさ(指標としてのトン数)
船の大きさ(指標としてのトン数) – 中国運輸局 (mlit.go.jp)
船の世界には、大きさを表す指標としていろいろなトン数があります。
そのトン数には、容積に基づく『容積トン数』と重量に基づく『重量トン数』とがあります。
『容積トン数』とは、一定の基準により船舶の寸法を測り、算出した容積に係数を乗じて得た数値に『トン』を付して表したもので、「総トン数」、「国際総トン数」、「純トン数」などがあります。
なお、ここでいう『トン』とは、(※重量の)単位としてのトンではなく呼称です。
※カッコ内は管理者オフネによる補足
一方、
『重量トン数』は、一定の基準により船舶の寸法を測り算出した数値をトン(1,000キログラム)により表したもので、「載貨重量トン数」などがあります。
様々なところから解説文を引用しましたが、
整理すると↓このようになります。
まず、
船の大きさ(グレード)を表すために2つの考え方があります。
船の容積を指標にする考え方と、
船の重量を指標にする考え方です。
船の容積を指標にする考え方は、
その船にどれだけの人や物を載せるスペースがあるか?に注目しています。
(容積の【リットル】みたいなものです。)
船の重量を指標にする考え方は、
その船自体の重さはいくらか?や、
その船に載せられる物の重量はいくらか?に注目しています。
(重量の【グラム】みたいなものです。)
ややこしいのは、
この2つをどちらも
【トン】という言葉で表現していることです。
(;゚Д゚)
一般的に【トン】と言えば、
100万グラム=1000キログラム=1トン、
という重量の単位です。
その「トン」という言葉が使われているので、【トン数】もすべて重量を表すものかと思いきや、そうではないという話…。
ああ、ややこしい。
総トン数の世界~国際と本邦~
とりあえず、
【トン数】という概念には容積と重量の側面があることがわかりました。
その容積を表す【容積トン数】という分類の内の一つが【総トン数】ということだそうです。
はー、なるほど。
と、ここで。
ややこしさの第2弾が
登場します!
【トン数】→【容積トン数】→【総トン数】は、さらに「総トン数」と「国際総トン数」の2つに分類できます。
(。´・ω・)どういうこと??
そもそも、
『1969年の船舶のトン数の測度に関する国際条約』というものがありまして。
この条約において “GROSS TONNAGE” (日本語訳:総トン数)の考え方が定義されました。
千九百六十九年の船舶のトン数の測度に関する国際条約
千九百六十九年の船舶のトン数の測度に関する国際条約 | 外務省 (mofa.go.jp)
(通称:トン数条約)
第二条 定義
この条約の適用上、別段の明文の規定がない限り、
(4)「総トン数」とは、この条約に従って算定される船舶の全体の大きさをいう。
INTERNATIONAL CONVENTION ON TONNAGE MEASUREMENT OF SHIPS, 1969
ARTICLE 2 DEFINITIONS
FOR THE PURPOSE OF THE PRESENT CONVENTION, UNLESS EXPRESSLY PROVIDED OTHERWISE:
(4) “GROSS TONNAGE” MEANS THE MEASURE OF THE OVERALL SIZE OF A SHIP DETERMINED IN ACCORDANCE WITH THE PROVISIONS OF THE PRESENT CONVENTION;
この国際条約の締結を受けて、
日本国内でも法律が整備されました。
それが『船舶のトン数の測度に関する法律』です。
この国内法の中でさらに日本独自の「総トン数」の考え方が新たに設けられました。
船舶のトン数の測度に関する法律
船舶のトン数の測度に関する法律 | e-Gov法令検索
(通称:トン数法)
第4条(国際総トン数)
国際総トン数は、条約及び条約の附属書の規定に従い、主として国際航海に従事する船舶について、その大きさを表すための指標として用いられる指標とする。
第5条(総トン数)
総トン数は、我が国における海事に関する制度において、船舶の大きさを表すための主たる指標として用いられる指標とする。
よって、
日本における海事制度の中では2つの”総トン数”という言葉が使われることになります。
①国際条約 『1969年の船舶のトン数の測度に関する国際条約』における総トン数 ②日本の法令 『船舶のトン数の測度に関する法律』第5条における総トン数
そこで、
これらを区別するために、
①を「国際総トン数」と呼ぶように定められました。
この英訳として日本政府が発行する『国際トン数証書』では、
”gross tonnage”
…と表記されています。
その一方で、
②を「総トン数」と呼ぶように定められました。
この英訳として日本政府が発行する『船舶国籍証書』では、
”gross register tonnage”
…と表記されています。
まとめると↓このとおり。
根拠 | 日本法令での表記 | 証書での英語表記 | 通称 | |
① | トン数条約・ トン数法 第4条 | 国際総トン数 | gross tonnage | インターナショナル・グロス・トンエイジ |
② | トン数法 第5条 | 総トン数 | gross register tonnage | ジャパニーズ・グロス・トンエイジ |
このように、
まぎらわしい2つの名称があるために、日本人の船主・船員さんは海外の人とコミュニケーションをとるときには注意が必要です。
内航船舶を海外で運航させる際の法令の遵守について
国土交通省海事局 (Maritime Bureau) (mlit.go.jp)
4.
なお、海外売船に伴い、売船先の企業、条約証書発給機関等に対して、 当該船舶の「国際総トン数」に関する情報をあらかじめ提供する場合には、「1969年の船舶のトン数の測度に関する国際条約」に基づき国際的な指標として用いられる「国際総トン数」と、わが国独自の指標である「総トン数」とを混同しないように注意してください。
以上、
おわかりいただけましたでしょうか?
(;^ω^)
まとめ ~2つのややこしさ~
はい。
あらためて整理表を掲載してみました。
この整理表の中で総トン数が2つ書いてあったのは、前述の事情があったのを表現したかったからです。
それにしても、
やっぱりややこしい!
ヽ(`Д´ )ノ ムキー!!
ふりかえってみると、
今回は2つのややこしさがありました。
①【トン数】におけるトンは容積の意味で使うことがある。
②「国際総トン数」と「総トン数」の2種類がある。
それにしても…。
なぜ容積としての「トン」がややこしいのか?を考えてみるに。
船を始めとして乗り物(車・電車・飛行機)が好きな人は、たぶん子供の頃にウルトラ怪獣とかゴジラも好きだったんじゃないでしょうか?
根拠は私自身です。
( ̄▽ ̄)
で、
怪獣大百科などで読んだ怪獣たちの身長・体重を覚えませんでしたか?
たとえば、
どくろ怪獣レッドキングは身長45メートル。
体重は2万トンです。
そう。まさに、
「身長とくれば、次は体重!」
…という感覚に私たちは慣れているのです。
そのため、
巨大な船を前にしたとき、
全長〇〇メートル・重量〇〇トン!
…と思いがちなのではないでしょうか。
まぁ人間同士の会話でも、
「あなたの身長・体重は?」と聞くことはあっても、
「あなたの身長・容積は?」と聞くことはないですからね…。
以上、
容積トン数のややこしさについての仮説でした。
それにしても、
想像以上に奥が深った【トン数】の世界。そして実はまだ巡視船【しきしま】の総トン数について語ることができていません!
Σ(゚Д゚) わすれてた…
次回こそ【しきしま】の総トン数について触れたいと思います。
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